77 / 106
kangaroo court
kangaroo court
しおりを挟む
「……話題?」
どう返せばいいのか、これから何が起こるのか、なんとなく察しがつく気がした。彼女は続けて言う。
「率直に言って、裕子さんをどう思われます?」
「どう……とは」
率直に、話が裕子さんに飛ぶとは思って居なかった。
彼女は舐めまわすような視線で俺をじっくりと眺めながら
「えぇ、人権意識の話題、あなた方の話題になりました。
それで――――事務所側は真面目に調査を行っているとしても」
と続けた。
「普段、世間の顔が広いのは裕子さん達の側――――つまり、その人権侵害組織そのものの下部に貴方たちが組み込まれているように……見えてしまうのではありませんか? と」
「そう、でしょうね」
気にしては居た事だった。
気付いていたのに、忙しくて逐一動こうとしていなかった事だった。
実際の活動範囲に彼女がいるという事はまず無いのだが、世間からは『裕子さんに加担するようにしか見えない』という事。
検挙率に貢献する一方で、人権を守りたかった筈なのに、
裕子さんたちが行ってきた非人道的所業を当人たちが動かないことで見逃しているように取られ、パフォーマンスのように思われている、それが俺たちの主義に反しているという事。
「私たちは考えました。その状況では、貴方の目的達成のために、いざというときに世間に隠れる事が出来ない。上に裕子さんが居座る場所では
能力者の人権を守るという主張を通す事が困難である」
「……」
「――――貴方は、それに異を唱えたのではありませんか。このままでは裕子さんたちの思うがままになり、下に居る人たちが潰れてしまう。
それなのに彼女たちはお気楽に金を使い漁っている、なんら気に掛けはしない」
「……何が、言いたい」
「少し、妬けるなぁと思いまして」
にこりと彼女は微笑んだが、裏のあるような気がして素直に愛嬌と受け取れなかった。
「貴方が此方に来たのは、私の為でも、あの方の為でも無いのですもの、でしょ?」
俺は、何も答えない。
「じゃあ、言い方を変えましょう」
彼女は澄ました表情のまま続けた。
「確かに、裕子さんは歴史を変えたかもしれない。
社を救ったかもしれない。
だけど、本来であれば『誰にでも英雄になれる可能性があった』。貴方にはそれが視えていた……そうではないですか?」
ガラガラ、とすぐ右側の戸が開けられる。
再び石畳が続いており、その向こうに暖簾が掛かっていた。
遠くに立ち上る湯気からしても風呂があるようだ。
「えっ、風呂?」
「まぁ、まずはお風呂にでも入って、汗を流してきてくださいな」
2024年6月24日0時23分
どう返せばいいのか、これから何が起こるのか、なんとなく察しがつく気がした。彼女は続けて言う。
「率直に言って、裕子さんをどう思われます?」
「どう……とは」
率直に、話が裕子さんに飛ぶとは思って居なかった。
彼女は舐めまわすような視線で俺をじっくりと眺めながら
「えぇ、人権意識の話題、あなた方の話題になりました。
それで――――事務所側は真面目に調査を行っているとしても」
と続けた。
「普段、世間の顔が広いのは裕子さん達の側――――つまり、その人権侵害組織そのものの下部に貴方たちが組み込まれているように……見えてしまうのではありませんか? と」
「そう、でしょうね」
気にしては居た事だった。
気付いていたのに、忙しくて逐一動こうとしていなかった事だった。
実際の活動範囲に彼女がいるという事はまず無いのだが、世間からは『裕子さんに加担するようにしか見えない』という事。
検挙率に貢献する一方で、人権を守りたかった筈なのに、
裕子さんたちが行ってきた非人道的所業を当人たちが動かないことで見逃しているように取られ、パフォーマンスのように思われている、それが俺たちの主義に反しているという事。
「私たちは考えました。その状況では、貴方の目的達成のために、いざというときに世間に隠れる事が出来ない。上に裕子さんが居座る場所では
能力者の人権を守るという主張を通す事が困難である」
「……」
「――――貴方は、それに異を唱えたのではありませんか。このままでは裕子さんたちの思うがままになり、下に居る人たちが潰れてしまう。
それなのに彼女たちはお気楽に金を使い漁っている、なんら気に掛けはしない」
「……何が、言いたい」
「少し、妬けるなぁと思いまして」
にこりと彼女は微笑んだが、裏のあるような気がして素直に愛嬌と受け取れなかった。
「貴方が此方に来たのは、私の為でも、あの方の為でも無いのですもの、でしょ?」
俺は、何も答えない。
「じゃあ、言い方を変えましょう」
彼女は澄ました表情のまま続けた。
「確かに、裕子さんは歴史を変えたかもしれない。
社を救ったかもしれない。
だけど、本来であれば『誰にでも英雄になれる可能性があった』。貴方にはそれが視えていた……そうではないですか?」
ガラガラ、とすぐ右側の戸が開けられる。
再び石畳が続いており、その向こうに暖簾が掛かっていた。
遠くに立ち上る湯気からしても風呂があるようだ。
「えっ、風呂?」
「まぁ、まずはお風呂にでも入って、汗を流してきてくださいな」
2024年6月24日0時23分
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
甘夏と、夕立。
あきすと
BL
※この2人の他のお話があります。
是非、シリーズでお楽しみ下さいネ。
日常を生きている中で、突然届いた真っ白な暑中見舞いはがき。
差出人は、もう随分と会っていない悪戯が好きな
幼馴染だった。ゆっくりと、遠い記憶と共に
思い出されるのは初恋をした頃の、学生時代。
柑橘の香りが届けるのは、過去への招待状。
主人公
春久 悠里
田舎から都会に出て進学し、働き始めた青年。
感受性が強く、神経質。
人が苦手で怖い。仕事では
割り切っている。さびれたアパートで
働きながら、ほぼ無趣味に暮らしている。
髪は、赤茶けており偏食を直そうと
自炊だけはマメにしている。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる