かいせん(line)

たくひあい

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kangaroo court

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「……話題?」
どう返せばいいのか、これから何が起こるのか、なんとなく察しがつく気がした。彼女は続けて言う。

「率直に言って、裕子さんをどう思われます?」
「どう……とは」

率直に、話が裕子さんに飛ぶとは思って居なかった。
彼女は舐めまわすような視線で俺をじっくりと眺めながら

「えぇ、人権意識の話題、あなた方の話題になりました。
それで――――事務所側は真面目に調査を行っているとしても」
と続けた。
「普段、世間の顔が広いのは裕子さん達の側――――つまり、その人権侵害組織そのものの下部に貴方たちが組み込まれているように……見えてしまうのではありませんか? と」
「そう、でしょうね」

 気にしては居た事だった。
気付いていたのに、忙しくて逐一動こうとしていなかった事だった。
実際の活動範囲に彼女がいるという事はまず無いのだが、世間からは『裕子さんに加担するようにしか見えない』という事。
 検挙率に貢献する一方で、人権を守りたかった筈なのに、
 裕子さんたちが行ってきた非人道的所業を当人たちが動かないことで見逃しているように取られ、パフォーマンスのように思われている、それが俺たちの主義に反しているという事。

「私たちは考えました。その状況では、貴方の目的達成のために、いざというときに世間に隠れる事が出来ない。上に裕子さんが居座る場所では
能力者の人権を守るという主張を通す事が困難である」
「……」
「――――貴方は、それに異を唱えたのではありませんか。このままでは裕子さんたちの思うがままになり、下に居る人たちが潰れてしまう。
それなのに彼女たちはお気楽に金を使い漁っている、なんら気に掛けはしない」

「……何が、言いたい」
「少し、妬けるなぁと思いまして」
にこりと彼女は微笑んだが、裏のあるような気がして素直に愛嬌と受け取れなかった。

「貴方が此方に来たのは、私の為でも、あの方の為でも無いのですもの、でしょ?」

俺は、何も答えない。



「じゃあ、言い方を変えましょう」
彼女は澄ました表情のまま続けた。

「確かに、裕子さんは歴史を変えたかもしれない。
社を救ったかもしれない。
だけど、本来であれば『誰にでも英雄になれる可能性があった』。貴方にはそれが視えていた……そうではないですか?」



 ガラガラ、とすぐ右側の戸が開けられる。
再び石畳が続いており、その向こうに暖簾が掛かっていた。
遠くに立ち上る湯気からしても風呂があるようだ。

「えっ、風呂?」


「まぁ、まずはお風呂にでも入って、汗を流してきてくださいな」



2024年6月24日0時23分
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