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kangaroo court
pal
しおりを挟む――――リアリティが無くていい、経験した事しか書けないわけではない。いつもいつもそればっかり言って。それって何に対する言い訳?
――――よくそんな稚拙な戯言をわざわざ皆に聞いて貰いたいと思えますよね。経験しなくても想像出来ないんですか
――――リアリティで否定するものも古いし、お前達は存在しなくて良いって言ってるのと同じですけど、貴方みたいな人の方が前時代的で、よっぽどリアリティがありません
――――……
事務所に来た当初。
リアリティと定義するにはあまりにも不安定な言葉をよく社長や裕子さんが言っていた。別に言わなくても業務に差し支えないようなそれらは
陰口のような、当て擦りのようなもので、
「リアリティなんか、この時代にむしろ、誰が明確に持って居るのだろうか」と逆に気になったものである。
人より何かが多かったら、あるいは何処かが欠損していたら、それはリアルと呼ばないのか。
少し人と違えば、現実でなくなってしまうと本気で思っているような人が、今更居るのだろうか?
重力だとか、熱暴走だとかの話ではない。協会に規格が定められているわけでもない。
身体の何処かが多かったり欠損していたり、そんな個体差にまでリアルを当てはめるのは聊か的外れと言えるし、結局リアルなんて大衆が決めているステレオタイプに過ぎないのに、そんな事を大真面目に嘲笑うから、彼らの事が不思議だった。
そんなに理解出来ないなら身を引くのが一番いい。
彼らの現実と、俺の現実は違うのだから。
大真面目に真逆の主張を繰り広げているのに、方向の違いから完全に決裂しているのに、これで関わっていた事の方が奇跡なのだと、そう、そもそも――――
「――着きましたよ」
車が停車して、俺はすぐ横に座る女性を見る。
どうやら目的地に着いたらしい。
「モンスターの巣窟、なんて。ふふっ」
大きなコサージュを付け、白いパーティードレスに身を包んだ――――彼女は、今の自分には眩しいくらいに微笑んでいた。
「会った時から、言おうと思っていましたが……人の事を、モンスターに例えるのはやめた方がいいですよ」
俺はなんとなく、昔のことを思い出しながら言った。
座席から立ち上がろうと前屈みになる彼女の、セットされた髪が揺れる。
「けれど実際モンスターじゃないですか、私達の人権なんて、吹けば飛ぶようなものだし。ボールをポーンと投げて、命令する人が居る」
「だからこそ、人として接しようとは、思わないんですね」
「それってなんの意味があるの?」
彼女が首を横に振るたびに、パールのイヤリングが左右に振れる。
(モンスターか……)
目の前の建物を見る。
大きな旅館を貸し切っている、と言われても納得しそうな広い和風の家だった。横に長く、窓が沢山ある。
(巣窟、か……)
別に討伐にいくわけじゃないのに、妙な笑いが零れる。
今更どうという訳では無いけれど、優子さんと同類だなと感じた。
俺とは違う生き方の人達。
常日頃能力の話をして嫌な思いをすることへの強い不安や恐怖を抱えて来た自分と、此処の人たちの違いはなんだろう?
車から出て入口に向かって歩く。
しばらく石畳を辿って行くと、奥に行灯に照らされた引き戸があるのが見える。
「にしても、やけに、タイミングがいいんですよね!」
先を歩きながら彼女が振り返った。
「ちょうど、モンスターの皆様方に色様たちのこと話してたとこだったんです。新しい怪物が見つかったかも、って、そしたらパルたちのところに、モンスターの話が重なるように来たんですよね!」
「へぇ、偶然ですね、ちなみに何を話していたんです?」
「いえ、先方が、今回の集会の件で訴えようと思っていたとこだったようなんですよ。いくら何度もしつこいからって、モンスター扱いし続けてるくらいで」
「なるほど、まともな人もいるんですね」
案外変わった人たちに囲まれていると、おかしくなってしまうもなのかもしれない。と思えば数ミリくらいは同情してやろうかという気にもなりそうだった。
「えぇ。それで、輪の中心になっている皆様の事が話題に」
2024年2月7日3時41分
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