かいせん(line)

たくひあい

文字の大きさ
上 下
69 / 113
chain stocer

プリンセス

しおりを挟む


 少し足早に来た道を戻る。
さっきのことが脳裏に焼き付いて離れなかった。

 イライラする。
今まで関わって来た奴らも腹の内では碌な事を考えて居なかったし、なんでこいつが上司なんだという無能も見て来たけれど、それでも、それより上が居るとは思いたくなかった。倫理観なんて、無い奴には全く存在していないんだ。

  そういうことも可能性として有り得るはずなのに、どうしても俺の脳内がそれを深く考えることを拒絶している。いつも笑顔で居たいのに。
「……っと、考えすぎは良くないんだったな。結局あそこにはセブンエンドは出てこなかったけれど、一応他の場所も探しておくべきか」

色が居そうなところを想像して、脳内に地図を描く。途中で妙な声を拾った。

――――此処に、プリンセスが来てるらしいですよ。

プリンセス?
そんな大仰な……と、千里眼を使うのは一旦
止めて──耳を澄ませる。



――――プリンセスとは、いやはや……何処のご令嬢かな
――――橋引のお嬢さんですよ、ほら、……の発明で、……を軽量化したっていう……の
――――あぁ。

橋引!?
人を王子(笑)とかホスト(笑)とか散々からかってるあの女が?!
失礼なことを考えていると、

──まぁ、あの親父さんがね、
と、潜めた声が続いた。
橋引の家はある家系らしいだとか。
祖父は発明家だったそうなのだが、悪い男に『それの特許を代わりに申請してやる』と、唆されて設計図を奪われ、その男の発明とされたことがあり、企業が隠蔽する為にあれこれ行われただとか断片だけでも不遇な話だった。

────娘さんの方も

────えぇ。何度か連れて来ようとしたんですけど……

────あの怪力を移植出来れば……

「────」
呆れて、ため息すら吐けなかった。
 此処には録な人間がいない。
別に人間に期待してるわけじゃない。けど……橋引があの性格になったのもこのような軋轢があってのことなのだろうか。
 信じられないことに、実はH.S.P研究のように、能力があれば人権は要らないかのように扱う奴が多くいる。

ちなみに、HSPというと、極度に繊細な人間の俗称になっているけれど、俺はあれには反対だ。
例えば虐待を受けた子どもがいつもびくびくしているとしても、それは危機を察知するための反応なわけだが、
「HSPでしょう。繊細過ぎますね」と大人が事実確認を無視し、性格として事情を改竄しかねない。

不登校や感覚過敏、霊感体質も同様に、周りが気軽にHSPだと言えば、まるで、繊細な自分自身が悪いかのように捉えるかもしれない。


そんなつもりは無くとも、厨二病の亜種のように思っていただけとしても、『繊細過ぎる』という言葉は、実は当事者には重く、痛く、
心に傷をつけかねない言葉なのだ。安易に使って欲しくはない。

(周りの心が怖くて、逃げ回ってた俺みたいにな……)
 うっかり嫌なことまで思いだしかけたが、そんな場合ではないのだったか。
──無意識のうちに目を閉じてじっと考え込んでいると、脳裏にホールの映像が浮かんだ。
色が、どこかの爺さんたちと席を囲んでなにやら話している。
けれど、何を話しているのかまではわからない。寝ているときにたまに夢で感じるくらいで、こういうとき必ずしも詳しくわかるとは限らないのがもどかしかった。
いや、普通の人間はそもそも超感覚的知覚なんか持ってないか……

 こういう言い方もなんだが、
能力者が限られるからこそ、それは俺たちを繋ぐ絆だったんだ。

 理不尽に社会から疑われたとき、化け物扱いされたとき、
居場所をなくしたとき、
俺たちが出会い、支えあえたのは奇跡だった。こんな社会だからこそ、仲間に出会えるのは限りない幸運で、だからこそ唯一無二だった。

だから……ただでさえ非人道的なことを研究しているのもあるが、
 無理矢理H.S.P研究なんか始めて、俺たちのコミュニティに入り込もうとするのが許せないというのが本音にある。
 しかも細胞を弄るようなズルをしてまで……痛みも苦しみも──『犯罪者でもないのに社会から孤立する』苦悩を何にも経験せず──何にも知らずに「なんかいいから」と

倫理を無視して卑怯な手で普及させようとすることが自分たちの存在に喧嘩を売っているように見えるのだ。
しかも軍事研究に回されるのは言われなくともわかる。

「──って、あぁ!イライラし過ぎてまた考え込んじまった」
はっ、と我に返るとホールに向かって廊下を歩いた。
色が居る。
藍鶴色。夜明けの色。
すぐそこに。会いに行けば届くところに────
考えていると自然と口元が緩む。


────好きだよ、藍鶴色。

2023年6月21日21時08分
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

処理中です...