かいせん(line)

たくひあい

文字の大きさ
上 下
65 / 106
chain stocer

chain stocer

しおりを挟む


「閉鎖するかな、って考えてたときだったんだ」

「未来ブログ」として流行っていった「それ」だったが、
俺はあまりの影響力に怖くなった。また誘拐が起きてしまう……。
単にそれだけの話では無かった。もちろん事情を話す機会など無いのだが、裏の事情に無知な素人が、流行に合わせて中身を転売・盗用するようになったことで『中身だけ同じ』為に頻繁な二次被害が起こる。
 俺自身はジンと交流が深かったわけではないが、ニュースなどを聞く度にその未来は直観的に感じるようになってきた。『ジン』は、盗用した彼らを標的に、徹底的に誘拐を繰り返すだろう。どこかに自分たちの都合の悪い情報の持ち主が居るはずだと、片っ端から。
 彼らにとって一般人は周りが思っている以上に消すのが楽だ。個人情報さえ手に入れば、あとは些細な問題だろう。

 今でも思うけれど、
こんなことになるとも、此処まで執念深いとも思って居なかった。
 『自分の書いたものが大事にされた事はない』。俺には無価値しかない、何を書こうが不気味な怪物の気味の悪い自己顕示でしかないと、そう
思っていたから、そこまで注目を浴びてしまうものだという認識が全く無かった。
 俺は怪物でみんなと違う。周りの迷惑にならないように、余計なことは喋らず、空気を読む、それでもこっそり何かをする、それだけだったのに。ネットにすら居場所はないし、怪物は怪物らしい。
 どんなに素性を隠して周りを巻きこまないように努力しても、存在そのものが既に異端だった。
 理解が甘かったが起きたことはどうしようもない。
 俺の情報にたどり着くのに時間がかかる間に、一旦休もう。
せめて、まずはこれ以上の転売を食い止め、余計な被害を減らさないと。
「前に在った、クーラーボックスに遺体が入れられて送られる事件のときも、そう思って、」
 ある日、おれはついに中身に鍵をかけ、ハッカーくらいにしか手を出せないようにし、ブログにも、ここを閉鎖する、と宣言する。これ以上続けても、何も知らない民間人の方が危険だ。

「そう、思って、閉鎖したのと同時に、ブログで未来を当てる占い師『アド』などを筆頭に『そういった』占い師が表に出るようになった」

 まるで、裏側に引っ込まれたら困るみたいに。矢面に立たせ続けたいかのようだった。りくさんは、懐かしい思い出話のように目を細める。

 ほとんどつまみに手を付けていないが何か食べたいものはあるか? と聞かれたのでキャビアがいいなと答えた。彼はただ笑った。
「占い師、えぇ……あの方がうちへ来たのも、その余波というか、そうでしょう。あのときは、『そういった』人がよくうちに来られていましたよ。みんな未来が見えるとおっしゃって、しかし、彼ら自身がそこまで際立って異端ということでもありませんでしたからな、大方帰しましたけれど、そのときはまだ、ジンは、少なくとも表立っては見ませんでしたね」

「あいつ目立ちたがる癖に、そんなに現実で表には出てこないから」「……でしょうな」
だから俺は気付いた。
「ケントが、彼女との間に挟まって騒ぎ立てたのも、俺が閉鎖すると『アド』を表に立たせたかったのも、恐らく同じような理由だろう」

あのとき、居なくなった『彼女』が言っていたことの意味。その先にあるのがジンがやっていることと、同じようなものだと思った。

「一度目立ったものを、矢面に立たせ続け、それを自らの勢力に取り込みたいんだ。『途中で止めたのなら、そこから成り代わる』ジンたちは恐らくそのチャンスしか狙って居なかった」

撤退を許さず、四六時中広告塔にする気だ。だから、近所から『別の男』を連れて来てそちらとも関わりを持った。

「たぶん、誘拐とセットだろうな。前にも同じことをしていると思う。
 本人がブログを止めたとしてもその兄弟や同級生、あるいは身近で情報を取得できる人物を表に立たせている。途中まで本人なわけだから、一見するだけでは気づかれにくい。出版関係とかだと、住所も近い方が偽装しやすいしな」

 「奪い取った後、成り代わり、自分の勢力側に遺産と地位を独占させる。その目的に調度いい人物を表に立たせる……と、ケントも『後見人』の為に、『加害者』を呼びつけて外で脅迫していたのですね」




2022年10月7日21時12分
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

甘夏と、夕立。

あきすと
BL
※この2人の他のお話があります。 是非、シリーズでお楽しみ下さいネ。 日常を生きている中で、突然届いた真っ白な暑中見舞いはがき。 差出人は、もう随分と会っていない悪戯が好きな 幼馴染だった。ゆっくりと、遠い記憶と共に 思い出されるのは初恋をした頃の、学生時代。 柑橘の香りが届けるのは、過去への招待状。 主人公 春久 悠里 田舎から都会に出て進学し、働き始めた青年。 感受性が強く、神経質。 人が苦手で怖い。仕事では 割り切っている。さびれたアパートで 働きながら、ほぼ無趣味に暮らしている。 髪は、赤茶けており偏食を直そうと 自炊だけはマメにしている。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...