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Oetling fleezing
Oetling fleezing
しおりを挟む「おっ、居た居た!」
廊下をうろうろしていたら、菊さんに呼び止められた。階段の方から来たので、どうもこの建物の上の階から降りてきたらしい。
「お前ら呼びに来たんだ。花子とかはまだ上に居る」
「菊さん。あの」
俺が何か言おうとすると、菊さんはなんだかやけに険しい顔つきで頭を横に振った。
「やめとけ。あの中は」
「え……」
界瀬が近づいてきて、彼に触れる。それから、「そうですね」とだけ呟く。
「ピザの箱の中身だけでも、わかりませんか」
菊さんは怪訝そうにした。
「ピザの箱?」
けれど、それ以外を言わないのは、自身の体質と合わせて言葉を反芻し、何かを察しているからなのだろう。
会場の方、ドアを見ながら、彼は「ちょっと遠すぎるな」とだけ言う。
それなら仕方が無かった。
――――菊さんの後に続いて、階段を上がる。
その間周囲を警戒していたが、今のところ、後を追ってくるものは居ない。
「……なんか、いつになく険しい顔」
隣を歩いていた界瀬が、不思議そうに俺を見る。
いつもなら茶化すか、酒を飲むの二択を勧める菊さんですら、今は真顔だった。
「菊さんまで、珍しいな」
と、俺が言うと、界瀬がお前もだよと言った。界瀬は、緊張しないのだろうか。それとも、だからこそあえてふざけたいのかもしれない。
でも、菊さんまで暗くなるなんて。会場で一体何を見たんだ?
屋上付近の踊り場まで行くと、花子さんが手を振った。
「おっつ~!」
「お疲れ様です」
「お疲れ様です」
俺と界瀬は先輩、に同じ返事をする。
菊さんは陽気におっつ~!と返していた。それから。
「橋引」
俺は、その横でなんだか寂しそうにしている彼女を見た。
「色ちゃん……」
どうしたのだろう。
なんだか、元気が無い。此処の空気に中てられたのか。
「体調が良くない? 大丈夫?」
そっと近くに行って聞いてみる。
彼女は小さな声でヒソヒソと答えた。
「さっきね、秋弥君たちのこと知ってる人の話し声がしてて、二人で聞き耳立ててたんだ」
「それで」
界瀬も心配そうに、彼女に続きを促した。
「やっぱり、遺伝子操作で生まれ変わりを創る実験とか、種の保存とか、なんとか、言ってたよ……」
その類の人体実験は法律でも禁止されている筈だ。
だけど、
「あいつらは、ただの高校生だろ……? 生まれ変わりだとか、なんだとか、そんなの背負わされなくていい」
静かに苛立ちながら、界瀬が舌打ち交じりに毒づく。
俺も、反対だ。
だけど、それでも、『どこかの誰かが望む』ことがある。もどかしい。
「それは、しちゃいけないんだ。人類全体の遺伝子の劣化を招く。未来が停滞する……倫理だけの問題じゃない」
一次的に能力を持つ人間を作ろうとすることはあるだろう。だが
遺伝情報を使いまわせば、同じ夢しか見なくなる。
何年も続ければ、それすらも次第に掠れていく。
未来の意味すら忘れてしまったとき、誰も答えを持たなくなる。
そのときに、自己は誰が保持するんだ? 自我は、誰が持っている?
それが、どういう意味なのか、俺が一番わかっている。
最も恐ろしいのは大衆に向けてそれが行われたとき。
耐えられない人々はやがて、自我の独立の為に殺し合うだろう。
――――能力は、孤立するから素晴らしい。
どこかの誰かが、言っていたそれが脳裏に過る。
――――どれが、本物か、わかるまい。
どこかの誰かが、言っていたそれが、脳裏に過る。
――――だから! 嫌なの! 話したくないっ!!今度はなに? 漫画? アニメ? それともミステリー特集かしら?
人権をなんだと思ってるの?
馬鹿にするのもいい加減にしてよ!!
俺を睨んでいた少女のあの曇りのない目を、思い出した。
──俺も、そう思うよ。
能力を、道具にしてきた、俺の心を勝手に未来と決めつけて奪った。
彼女は、守りたかった。彼も。みんな。
だけど――――
(俺……)
秋弥は高校生。彼の書いていた文章は「ノート」として投稿サイトにも掲載されている。
何がどうなってそうなっているのか定かではないが彼の作品の内容が「まるで、ある要人の生まれ変わりのような内容だ」という理由で、今でさえ、『その遺族』からも目を付けられているという、奇特な運命を背負っていた。
一応、事務所に時々招いているものの、彼らはまだ、卒業するまでの間は高校に通う必要がある。護衛でも付けてもらう方が良いのか……
「思った以上に、広範囲に手が及んでいるみたいだな」
呟いてみたが、橋引も苦笑いで「そうね」と言う以外無かっただろう。それだけ、答えた。
(出来るだろうか……)
自問してみる。
俺に見えるものが、未来だけなら。
せめて、それだけでも、遺したいんだ。
2022年6月7日2時44分
――――兵器の開発及び提供。
輸送予定数。
仕入れ数。
違う、違う、違う。
目の前に描かれている文字は、ただ、普通に、食品の――――
だったら、これは。この、情報は。
「……此処って、普通の商社なんですよね」
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