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Oetling fleezing
Oetling fleezing
しおりを挟む「クニというものが生まれ始めた頃はな。当然その頃は、電話やらインターネットはないし、鳩や馬や牛やロバだってどこにでもいるわけじゃない。
けど、侵略やら謀反は起こりますよね。その頃は地べたに直接家々があるようなもんで、今みたいに高層ビル狙わんととかじゃなくて、こう、一気になし崩しにしてやろうというのもよくあるわけですけど
敵が攻めてくるというのをどうやって知っていたかというと、勘が大きく占めていたんですわ。学問という意味では、占いだとか言われるようになるもんもあるわけですけど……つまり、クニは、そういった、時の流れを読むもん、王とでもいうんでしょうか。そういうもんがおって、成り立ったところもあったんです。または、神様っていうものですね、今は無線や電話やネットやなんやで済ませることも多いですけど、その頃力を持っとったのが、そういう勢力だったって言われとります……」
「けど、そんなん、適当に言ってると思うもんも居ますよね。不思議なことによく当たっとったらしくて、今の仕組みではちょっと考えられんですけどね」
「鳥の群れが向かうのは誰か山や海に死体を捨てただとか、そういうのは今でもあるわけですが、そういうんだけでも少なくとも、電気やら電波やらだけに頼らんでもその、何かの信号みたいなもんはあると思うわけですから、まったくの無根拠とも思えませんがな」
「とにかくね、とにかく、その、王の、元になったというか、そういった力を持つもんがまだ各地に残っているという考えがあるんです。
神との交信の為の鏡だとか、人形だとか、玉だとか、宝剣だとか、骨を焼くだとか、呪文みたいなもんとか、ああいうのは王の物でもあるし、神様のもんでもあるんです。これは、昔っから、王が神様とつながりを持っているという証なわけです」
「はぁ……それで」
「呪文と言いましたけど、そう、文字や芸術の原点も、神との交信というものと考えられる側面があって、ギリシャなどでは……」
「色様とお会いしたのはまだ5歳にも満たない頃なんですけれども、彼はいつも何か描いてましてね、それでその作品というのがこれがどれもまるで近い未来の行く末を占っているかのようなものばかりなんです」
「どうも神聖なことらしく他人に見られるのを物凄く嫌がるんですけど、強引に見してもらったところ驚きましたよ。まるで若き日の 様のようで。お告げの最中、病まれてしまったのですが……彼女もまた、火を焚いて祈っている最中にはちかしい人を入れたがらなかったですからね」
「そんなにすごいもんなんですか」
「作った何もかもが歴史になってしまうっちゅうて、信じてるもんもおります」
――――それなら、心はどこにある?
そいつの想いは、考えてることは、どこにある?
それがどんな想いだったか、考えたこと、ないのか。
ピザを代表で受け取っているのはガチガチに横を固めたブロンド髪の男だった。脱色しているのだろうか。横に黒髪の男が2人と、グレーの髪の男が居る。ちらっと横目で見た界瀬が、何やら苦虫を[D:22169]み潰したような変な表情になっている。何か聞こえてるんだろう。
「はーい、はーい、ご苦労様です!」
歌でも歌うような朗らかさでピザを受け取った彼が言い、ポケットからだしたカードで会計をしている。なにやら機械にそれを通し、レシートなどを渡して、配達員は去って行った。
ピザの裏側は、此処からじゃ見えない。
菊さんでも居ればわかったかもしれない。
なんて思考が行われることにすらいまだに少し苦笑してしまう。
――――ただ、どんな偶然なのか。ただの、気まぐれなのか。
「彼」の横顔は、どこか界瀬に似ていて、あの、海が見えて、その向こうにある、市場が見えて、なんだか、隣に居る彼にまで目を合わせられない。
そうこうしているうちに、彼らがそばを通り過ぎて行く。
誰のものなのか、歩くたびに、少し高い煙草の芳醇なにおいがした。
結局それが運ばれていくのを見続けながら、しばらくやり過ごしていたが、彼らは一度会場の方角に戻っていくようだ。
自分で使うわけじゃないのか、それとも中で何か声をかけているのか。
完全に気配が遠のいてから、小さく深呼吸をする。
界瀬が「大丈夫そうだな」と頷くのを合図に、口を開いた。
「あれって知り合いか? なんか、市場というか、そんな感じがした」
彼は真顔のまま「そーだな」とやる気のなさそうな声で答える。
「商社、ちょっと、変わっちまったっていうか……まぁ。たぶん、『顧客』が増えたってところかね」
「じゃ、放っておいていいやつかな」
「どうだろ」
どこか緊張した面持ちを隠しきれていない彼がなんだか新鮮に感じる。
こんなふうに、ごく普通に薬だなんだと眺めている自分を、時々客観的にあざ笑いそうになる。何をしているんだと、どこに向かう気なんだと、よく思う。
どこに行ってもきっとそれは変わらない事なのに。
「なに笑ってんの?」
唐突に聞かれて、どうして俺はこんなところに居てこんなことばかり続けてるんだと思っただけだと答える。界瀬はくすっと笑って言った。
「同感」
「少なくとも、俺らにも読める本や、平然と見られる番組がありゃよかったんだけどね」
「それな。なーんもねぇ」
楽しい物語の表面から見えるのはいつも既に血みどろの大戦やら、暴力団抗争やらで、ときどき本物の犯罪者が居たりして、そればかり、消せないインクのようにあらゆる本やメディアから永遠に滲んでいる。
どう上書きしたところではっきりと浮かび上がっている。
それなのに、見た側読んだ側の責任になるのだから、テレビもろくに付けられない。
「せめてこれ以上俺から娯楽を取らないで欲しい」
「俺が居るだろ?」
「そうだな。おもちゃは大事にするよ」
「おもちゃ言うな」
柱にもたれたまま、何気ない会話を交わす。
まだ来たばかりなのに、秋弥の件に関わっていた人たちの話、をするのを聞いてたらなんだか一気に疲れた気がする。
そういえばあれはどういった集まりなんだろう。なぜ秋弥の話を彼らが?
検挙したところで、それがどう自分に関わってくるかという意味で、とりあえず流しておくのが良いのではないか。
そう思う反面、俺が見る景色はいつも自分に遠からずとも関わっているように思う。せっかく此処まで来たのに、なんで今迷ってるんだと、心の中で毒づく。娯楽の無い世界で、唯一出来たのが、自分の世界を作ることだったけど、 それもまた未来と言われて、勝手に強硬手段に及ばれて、余計に大事になってしまった。
俺には、もう目の前しかない。判断次第で目の前にあるものすら壊れてしまうのか、そう思うとなんだか心が重たかった。
――――雪。
高いところから、降ってくる、雪。
あの人、の笑い声。
これも、これも! という、決めつけで仕分けられていく宝物。
こういうものはやめなさいね!という、あの声。
「ピザ。食べたいな……」
それらを、思い浮かべながら、いちばん遠くにあった感情だけ、呟く。
「後でな。ひとまず、橋引たちを探すか?」
界瀬は、何かわかっているかのように、ただ寂し気に頷いただけだった。
「そうだね、でも、その前に一度菊さんに、聞いてみようかな」
(2022年5月18日23時15分=2022年5月19日17時26分加筆)
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