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Oetling fleezing
Oetling fleezing
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ホワイトボードになっている予定表には、31日のところに『会席』と書かれている。急遽追加されたものだった。この日まで彼女に会うことはない。
ココアを飲み干すなり、颯爽と、というよりわたわたと外に抜けていく花子さんに、転ばないでくださいねと後ろから注意しながら……
朝6時。
窓の外を見ていた。
見て、居たんだけど……
電話が鳴った。
「はい……」
出てみると所長の声だった。
「なんでしょうか」
「今、テレビを付けろ、ニュースを見ろ」
慌てて、真ん前のテーブルに配置されたテレビをつける。
この前菊さんが、最近なかなかテレビのスイッチが入らなくなった、とかもう変え時かなとか言ってたけど、普通に押せば入るので、あれ? と思う。
ニュースには突然のビル崩壊、という見出しが出ていた。
工事現場の足場が崩れて、ビルを襲っている。
いつもの感じのニュースだ。
一つ、画面の端に、『事件に驚いて泣いている』女の子が映っていることを覗いて。
勿論、ただの事件なら何も感じなかった。
(ビルって、こんなふうに、割れるんだな……)
正確に表すなら、足場よりも先にビルが『割れている』というのが注目されるところだった。
遠くにあるビルが割れて、それが倒れ、近くの足場まで寄りかかったことで、その周りの歪んだ足場がビルに強引に被さったというのが映っている状況。どんな怪力ならあんなねじ曲がり方をするのだろう。
情報、操作……?
「メディアも意図的に伏せているが」
所長の声が、無機質に響く。
「あの子だろう。恐らく」
1月14日16:48ー
2022年1月15日3時39分
「すてるようなもの、ふやして、めいわく、ごめんなさい」
さみしい
いたい
「あら、なぜそんなことを言うのかしら。
なにか、悩みがあるの?
聞いてあげようか? 先生におしえてあげる」
「どうして、いちいち、先生に、おしえなきゃいけないの?」
晒される。研究者の目に晒される。
研究対象として、この、今の気持ちも
晒される。
自分の気持ち、自分だけのもの。
俺の場合は、自分だけの気持ちが必要ない、から晒し者にする。
「なやんじゃ いけないの?」
全員殺して、ダーウィン賞をあげたい。
間抜けで、残酷だから、作家も、先生もすきじゃない。今ならきっとそう思うと思う。
「俺だけの気持ちだよ?」
自分だけの気持ちが、どれだけ特別なものなのか、知っている。
でも、それを嘲笑うかのように、放映するんだ。みんなに知らせて、鑑賞させる。
確執を深めるような、評価に揺らぐようなそれが増えて、
心まで、一方的に評価されるような感覚が、より俺と彼らの溝を深くする。
「だから! 嫌なの! 話したくないっ!!今度はなに? 漫画? アニメ? それともミステリー特集かしら?
人権をなんだと思ってるの?
馬鹿にするのもいい加減にしてよ!!」
「──」
少女は、俺を睨んでいた。俺もそう思うせいで、思わずその場で硬直したまま頷いていた。
会社から抜けて、走ったり歩いたりを20分くらいしてどうにか『現場』に赴いた。
幸いなのか、不幸なのか、この町のニュース、しかも近辺だったので。
「ちょっと、何か言いなさい! 珍しかったら晒し者にしていいの?
あなたを救いたいとか言えば、人ん家を公開するのは許されるの? こっちはね、そういうパフォーマンス、もう聞き飽きてんのよ。やめて欲しいから言ってんの、他人に関わってもしょうがないわ」
「──俺も、そう思うよ」
背中まである長い髪を揺らして、現場からちょっと離れた路地裏に佇む、強気な少女。
同い年?
いや、このときの俺より少し、若い?
中学生か高校生くらいかな。
「は?」
少女は呆気にとられたようだった。
「別に、そんなこと聞かないよ。だって俺も、わかってるから。話したかったら聞いてやるけど」
「あなた、なんなの──」
目の前の、アスファルトの瓦礫が微かに、こちらに向かって踝辺りまで浮いた。
それが動いたとき、思わず反射的に飛び退けた。
「おっと……びっくりした。さて、帰ろう」特にリアクションすることもないので、腕を伸ばす。
「帰るって、なに、家? 家なんか──だいたいあなた、誰」
「会社。俺は、怪物だ」
「そ。あたしは宇宙人」
ふいっとそっぽを向きながら、彼女は胸を張って答える。
「格好いいね」
「なに、怪物って、ダサ」
ふふふ、と俺は笑う。
彼女は不思議そうに俺を見た。大きく見開かれるまん丸の目。なかなかに美人だ。
「どうして私に話しかけるの、なにが分かってる? 私、犯罪者になるのかな」
「犯罪者にはならないよ。会社に言われたから話しかけてる」
「ふーん……会社って何するところなの」
「事務所。毎年山のように生まれるゴミみたいなメディアをお焚き上げするイベントが週に何度かある
」
「なにそれ、楽しそう。私を連れてって、記事かなんかについて聞くの?」
「仲間を、探してる」
「仲間?」
「君は今からカレーライスとハムときゅうりの入った春雨サラダを要求するだろう、まずは食事をしよう」
「うちの献立!」
ココアを飲み干すなり、颯爽と、というよりわたわたと外に抜けていく花子さんに、転ばないでくださいねと後ろから注意しながら……
朝6時。
窓の外を見ていた。
見て、居たんだけど……
電話が鳴った。
「はい……」
出てみると所長の声だった。
「なんでしょうか」
「今、テレビを付けろ、ニュースを見ろ」
慌てて、真ん前のテーブルに配置されたテレビをつける。
この前菊さんが、最近なかなかテレビのスイッチが入らなくなった、とかもう変え時かなとか言ってたけど、普通に押せば入るので、あれ? と思う。
ニュースには突然のビル崩壊、という見出しが出ていた。
工事現場の足場が崩れて、ビルを襲っている。
いつもの感じのニュースだ。
一つ、画面の端に、『事件に驚いて泣いている』女の子が映っていることを覗いて。
勿論、ただの事件なら何も感じなかった。
(ビルって、こんなふうに、割れるんだな……)
正確に表すなら、足場よりも先にビルが『割れている』というのが注目されるところだった。
遠くにあるビルが割れて、それが倒れ、近くの足場まで寄りかかったことで、その周りの歪んだ足場がビルに強引に被さったというのが映っている状況。どんな怪力ならあんなねじ曲がり方をするのだろう。
情報、操作……?
「メディアも意図的に伏せているが」
所長の声が、無機質に響く。
「あの子だろう。恐らく」
1月14日16:48ー
2022年1月15日3時39分
「すてるようなもの、ふやして、めいわく、ごめんなさい」
さみしい
いたい
「あら、なぜそんなことを言うのかしら。
なにか、悩みがあるの?
聞いてあげようか? 先生におしえてあげる」
「どうして、いちいち、先生に、おしえなきゃいけないの?」
晒される。研究者の目に晒される。
研究対象として、この、今の気持ちも
晒される。
自分の気持ち、自分だけのもの。
俺の場合は、自分だけの気持ちが必要ない、から晒し者にする。
「なやんじゃ いけないの?」
全員殺して、ダーウィン賞をあげたい。
間抜けで、残酷だから、作家も、先生もすきじゃない。今ならきっとそう思うと思う。
「俺だけの気持ちだよ?」
自分だけの気持ちが、どれだけ特別なものなのか、知っている。
でも、それを嘲笑うかのように、放映するんだ。みんなに知らせて、鑑賞させる。
確執を深めるような、評価に揺らぐようなそれが増えて、
心まで、一方的に評価されるような感覚が、より俺と彼らの溝を深くする。
「だから! 嫌なの! 話したくないっ!!今度はなに? 漫画? アニメ? それともミステリー特集かしら?
人権をなんだと思ってるの?
馬鹿にするのもいい加減にしてよ!!」
「──」
少女は、俺を睨んでいた。俺もそう思うせいで、思わずその場で硬直したまま頷いていた。
会社から抜けて、走ったり歩いたりを20分くらいしてどうにか『現場』に赴いた。
幸いなのか、不幸なのか、この町のニュース、しかも近辺だったので。
「ちょっと、何か言いなさい! 珍しかったら晒し者にしていいの?
あなたを救いたいとか言えば、人ん家を公開するのは許されるの? こっちはね、そういうパフォーマンス、もう聞き飽きてんのよ。やめて欲しいから言ってんの、他人に関わってもしょうがないわ」
「──俺も、そう思うよ」
背中まである長い髪を揺らして、現場からちょっと離れた路地裏に佇む、強気な少女。
同い年?
いや、このときの俺より少し、若い?
中学生か高校生くらいかな。
「は?」
少女は呆気にとられたようだった。
「別に、そんなこと聞かないよ。だって俺も、わかってるから。話したかったら聞いてやるけど」
「あなた、なんなの──」
目の前の、アスファルトの瓦礫が微かに、こちらに向かって踝辺りまで浮いた。
それが動いたとき、思わず反射的に飛び退けた。
「おっと……びっくりした。さて、帰ろう」特にリアクションすることもないので、腕を伸ばす。
「帰るって、なに、家? 家なんか──だいたいあなた、誰」
「会社。俺は、怪物だ」
「そ。あたしは宇宙人」
ふいっとそっぽを向きながら、彼女は胸を張って答える。
「格好いいね」
「なに、怪物って、ダサ」
ふふふ、と俺は笑う。
彼女は不思議そうに俺を見た。大きく見開かれるまん丸の目。なかなかに美人だ。
「どうして私に話しかけるの、なにが分かってる? 私、犯罪者になるのかな」
「犯罪者にはならないよ。会社に言われたから話しかけてる」
「ふーん……会社って何するところなの」
「事務所。毎年山のように生まれるゴミみたいなメディアをお焚き上げするイベントが週に何度かある
」
「なにそれ、楽しそう。私を連れてって、記事かなんかについて聞くの?」
「仲間を、探してる」
「仲間?」
「君は今からカレーライスとハムときゅうりの入った春雨サラダを要求するだろう、まずは食事をしよう」
「うちの献立!」
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