25 / 106
Zeigarnik syndrome
Zeigarnik syndrome
しおりを挟む
周りの話を聞く限り、まずしばらくの食事タイムがあり、だいたい周りが食事と会話を終えだしたら移行する流れのようだった。
色は俺から離れると、橋引にありがとうと言った。
「いいわよ、これから、どうしようか」
橋引が笑い、色は、伊勢海老をまだ見ていないと言い出す。
その裏側で二人は、さっきまでのことを話す――というかそれぞれで思念を飛ばしてくる。
橋引は、プレミア客らしき男性と話して宝石の展示が方角と記号分けされていることを掴んだことを伝えた。
価値などと繋がるのだろう。
色は、一緒に違和感なく彼女についていた。途中テレビ局?の人に会ったらしい。
ピザ屋が来そうな様子が見えないのに、ピザは見えることを不思議がっている。
見えたまま感じたままのことを口走るとそうなるが、なにか変だという。
もしかするとピザ屋のフリをしているということかもしれない。
「伊勢海老? 確かにあまり食う機会ないけど、そんなに気になるのか」
俺がおどけたように笑うと、色は一万円の珍しいやつなんだって、と強調する。
「そりゃ気になるな、探そうぜ」
ピザ屋のフリをしてるとなれば俺にも読めなくて不思議じゃない。心はあまり嘘をつかないから。
「タイのバンコク……」
「え?」
色が、何か呟いて、俺は聞き返した。
彼はなんでもない、と言った。伊勢海老の並ぶだろうテーブルの列に三人で向かう。残念ながらすでに伊勢海老は居なかった。
残念ではあったが、
ある程度サンドイッチやケーキや寿司、ローストビーフをつまんだ。甘エビはあったので色と橋引は喜んでいた。
腹がたぷたぷにならない程度の空腹を満たしつつ、一度会場から出る。
廊下に出て、少し開いた窓から心地良い風を感じながら
「――血が、見えた」
と、言ったのは俺。
出た途端に唐突に、頭に建物が浮かんだのだ。
ホラー映画みたいに、ベッドとか、壁とか、ひどい、汚れてて、『何か』が乗ってる。
どこかの、部屋。
「たぶん……人、だったもの……?」
気分が、わるい。気分が悪いものを見たと、思った。
なんだ、これ。
「かいせ?」
色が心配そうに俺を見つめてくる。周りは大半、まだ食事中なようで後ろのドアからは歓声が響いている。
目を、逸らせ、意識を保て、意識を逸らせ、目を逸らすな。
「なんだ、これ。発狂しそうだ。震えが、震えが……止まらな――」
……と。ぬるっ、と口腔内に暖かい感触。目を閉じる。
「んっ」
目の前に、藍鶴色が居た。
「……い、ろ」
それで、それだけで、充分だった。震えが収まる、視界が開ける。
やがて唇が離れる。
「なにか、見えた?」
唾液をぬぐいながら、平然と、聞いてくる。
「あぁ……」
彼に抱きついたまま、俺は項垂れる。
「見えた。たぶん、
何かとは、関係あると思うが……此処、やっぱそーいうヤツが、集まってるから」
それについては、よくわからないけど、ひとまず宝石についてだった。
取引を見たらどうするか。
止めに入る?
いやいや。
ルートを割り出すためにそのまま見守る、ここで俺が読むにしても無闇に近付けないわけだ。相手は服数人あまり関係ないやつの思考を読む暇は減らしたい。
仲買人の裏に居る相手は、まぁ、適当に割り出せるだろう。
下手な通報が入るのも気を付けないと撤収されてしまう。
ルート分けされてるなら、分類の担当のなかで一番重要な株を選びたいところ……
あ、あと色の予言じゃ、もうじき女がなにやら発狂するみたいだし、それも頭に入れなくては。
俺が黙っていると、色が『東西南北』と言った。
「え?」
周りに聞こえぬように気を使いつつ近くの開いてそうな部屋に向かう。常に心を読むのも、悪くはないが、俺の消耗を早めるのは確かだから、誰もいないのを見計らいそのまま会話してもらった。
「この地図――うまく出来てるな」
ポケットからしわくちゃな、ポスターが出てくる。このパーティのポスターだ。
会場の地図が載っている。
A会館と、スーパー○○の西店、B競技場東……
短縮距離のぶん情報を省くとそれらの中央に位置するのがこの式場だ。
「なるほど、ダブルミーニング、か」
恐らくこの地図自体が別会場への暗号地図なのだろう。
東西南北が何を示すのかというのは、ひとまず、大きくわけて4グループの人たちが居るのだろうと橋引は言った。
「しっかし、宝石なんて、見当たらないけどね、今のとこ!
食事会、ドレス発表を兼ねてどっかのお姉さんたちがテーブルにあちこちお話してて、
ホールのスクリーンに映されてる、新しく完成予定の式場の発表、それくらいじゃないのよ」
――あぁんっ、もう、もう、ストレス溜まっちゃうの! なんなの?なんなの?
「そりゃ、裏側だからそうでしょう」
俺がつっこむ。
「ここに呼んだ、リュージさんは?」
橋引がするどい疑問を持つ。
リュージさんの私生活、俺らにゃ謎だもんな。まさか婚カツか?
「そういやあの人見かけないね」
色も気にしていた。
そんなとき、俺の電話が鳴った。出てみるとリュージさん。
《く、クルンテープ……》
「はい?」
《クルンテープ プラマハーナコーン アモーンラッタナコーシン マヒンタラーユッタヤー
マハーディロックポップ ノッパラット ラーチャタニーブリーロム ウドムラーチャニウェートマハーサターン アモーンピマーン アワターンサティット サッカタッティヤウィサヌカムプラシットに行ったやつがそっちに来てないか?》
「……どしたんすか」
ぜぇ、はぁ、と息をするのが聞こえる。クルンテープでよくないか。
《いや……薬、の出所を……はぁ、いや、こっちの、はぁ、話、はぁ……なんだ、はぁ……あ》
「また物騒で。リュージさんはところで今、何を?」
《仕事、あのな、そっちばかり行ってるわけではないんだ》
そういえばそうか。リュージさんはちゃんと、地に足がつくもうひとつの会社があるんだったか。
いや、半分、忘れてた。
あまりにこっち来てるし。
「えと……そうですよね、スミマセン。では――」
しばらく会話してから通話を切る。まさか宝石以外も持ち寄ってたんだろうか。何かを運ぶ際に海外のどっかを経由する方法はニュースでもやっている。
「……どう思う?」
手短に話すと、色は真剣な目をしたまま「まぁ、金持ちが来てるからかな」と呟く。
橋引も冷静だった。「そんなとこよね。最近いろんなとこから来た人がいろんなとこ行ってるし……」
ピザ屋のフリをしてるだろう人物は、まだ見つかってない。
色は俺から離れると、橋引にありがとうと言った。
「いいわよ、これから、どうしようか」
橋引が笑い、色は、伊勢海老をまだ見ていないと言い出す。
その裏側で二人は、さっきまでのことを話す――というかそれぞれで思念を飛ばしてくる。
橋引は、プレミア客らしき男性と話して宝石の展示が方角と記号分けされていることを掴んだことを伝えた。
価値などと繋がるのだろう。
色は、一緒に違和感なく彼女についていた。途中テレビ局?の人に会ったらしい。
ピザ屋が来そうな様子が見えないのに、ピザは見えることを不思議がっている。
見えたまま感じたままのことを口走るとそうなるが、なにか変だという。
もしかするとピザ屋のフリをしているということかもしれない。
「伊勢海老? 確かにあまり食う機会ないけど、そんなに気になるのか」
俺がおどけたように笑うと、色は一万円の珍しいやつなんだって、と強調する。
「そりゃ気になるな、探そうぜ」
ピザ屋のフリをしてるとなれば俺にも読めなくて不思議じゃない。心はあまり嘘をつかないから。
「タイのバンコク……」
「え?」
色が、何か呟いて、俺は聞き返した。
彼はなんでもない、と言った。伊勢海老の並ぶだろうテーブルの列に三人で向かう。残念ながらすでに伊勢海老は居なかった。
残念ではあったが、
ある程度サンドイッチやケーキや寿司、ローストビーフをつまんだ。甘エビはあったので色と橋引は喜んでいた。
腹がたぷたぷにならない程度の空腹を満たしつつ、一度会場から出る。
廊下に出て、少し開いた窓から心地良い風を感じながら
「――血が、見えた」
と、言ったのは俺。
出た途端に唐突に、頭に建物が浮かんだのだ。
ホラー映画みたいに、ベッドとか、壁とか、ひどい、汚れてて、『何か』が乗ってる。
どこかの、部屋。
「たぶん……人、だったもの……?」
気分が、わるい。気分が悪いものを見たと、思った。
なんだ、これ。
「かいせ?」
色が心配そうに俺を見つめてくる。周りは大半、まだ食事中なようで後ろのドアからは歓声が響いている。
目を、逸らせ、意識を保て、意識を逸らせ、目を逸らすな。
「なんだ、これ。発狂しそうだ。震えが、震えが……止まらな――」
……と。ぬるっ、と口腔内に暖かい感触。目を閉じる。
「んっ」
目の前に、藍鶴色が居た。
「……い、ろ」
それで、それだけで、充分だった。震えが収まる、視界が開ける。
やがて唇が離れる。
「なにか、見えた?」
唾液をぬぐいながら、平然と、聞いてくる。
「あぁ……」
彼に抱きついたまま、俺は項垂れる。
「見えた。たぶん、
何かとは、関係あると思うが……此処、やっぱそーいうヤツが、集まってるから」
それについては、よくわからないけど、ひとまず宝石についてだった。
取引を見たらどうするか。
止めに入る?
いやいや。
ルートを割り出すためにそのまま見守る、ここで俺が読むにしても無闇に近付けないわけだ。相手は服数人あまり関係ないやつの思考を読む暇は減らしたい。
仲買人の裏に居る相手は、まぁ、適当に割り出せるだろう。
下手な通報が入るのも気を付けないと撤収されてしまう。
ルート分けされてるなら、分類の担当のなかで一番重要な株を選びたいところ……
あ、あと色の予言じゃ、もうじき女がなにやら発狂するみたいだし、それも頭に入れなくては。
俺が黙っていると、色が『東西南北』と言った。
「え?」
周りに聞こえぬように気を使いつつ近くの開いてそうな部屋に向かう。常に心を読むのも、悪くはないが、俺の消耗を早めるのは確かだから、誰もいないのを見計らいそのまま会話してもらった。
「この地図――うまく出来てるな」
ポケットからしわくちゃな、ポスターが出てくる。このパーティのポスターだ。
会場の地図が載っている。
A会館と、スーパー○○の西店、B競技場東……
短縮距離のぶん情報を省くとそれらの中央に位置するのがこの式場だ。
「なるほど、ダブルミーニング、か」
恐らくこの地図自体が別会場への暗号地図なのだろう。
東西南北が何を示すのかというのは、ひとまず、大きくわけて4グループの人たちが居るのだろうと橋引は言った。
「しっかし、宝石なんて、見当たらないけどね、今のとこ!
食事会、ドレス発表を兼ねてどっかのお姉さんたちがテーブルにあちこちお話してて、
ホールのスクリーンに映されてる、新しく完成予定の式場の発表、それくらいじゃないのよ」
――あぁんっ、もう、もう、ストレス溜まっちゃうの! なんなの?なんなの?
「そりゃ、裏側だからそうでしょう」
俺がつっこむ。
「ここに呼んだ、リュージさんは?」
橋引がするどい疑問を持つ。
リュージさんの私生活、俺らにゃ謎だもんな。まさか婚カツか?
「そういやあの人見かけないね」
色も気にしていた。
そんなとき、俺の電話が鳴った。出てみるとリュージさん。
《く、クルンテープ……》
「はい?」
《クルンテープ プラマハーナコーン アモーンラッタナコーシン マヒンタラーユッタヤー
マハーディロックポップ ノッパラット ラーチャタニーブリーロム ウドムラーチャニウェートマハーサターン アモーンピマーン アワターンサティット サッカタッティヤウィサヌカムプラシットに行ったやつがそっちに来てないか?》
「……どしたんすか」
ぜぇ、はぁ、と息をするのが聞こえる。クルンテープでよくないか。
《いや……薬、の出所を……はぁ、いや、こっちの、はぁ、話、はぁ……なんだ、はぁ……あ》
「また物騒で。リュージさんはところで今、何を?」
《仕事、あのな、そっちばかり行ってるわけではないんだ》
そういえばそうか。リュージさんはちゃんと、地に足がつくもうひとつの会社があるんだったか。
いや、半分、忘れてた。
あまりにこっち来てるし。
「えと……そうですよね、スミマセン。では――」
しばらく会話してから通話を切る。まさか宝石以外も持ち寄ってたんだろうか。何かを運ぶ際に海外のどっかを経由する方法はニュースでもやっている。
「……どう思う?」
手短に話すと、色は真剣な目をしたまま「まぁ、金持ちが来てるからかな」と呟く。
橋引も冷静だった。「そんなとこよね。最近いろんなとこから来た人がいろんなとこ行ってるし……」
ピザ屋のフリをしてるだろう人物は、まだ見つかってない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
たまにはゆっくり、歩きませんか?
隠岐 旅雨
BL
大手IT企業でシステムエンジニアとして働く榊(さかき)は、一時的に都内本社から埼玉県にある支社のプロジェクトへの応援増員として参加することになった。その最初の通勤の電車の中で、つり革につかまって半分眠った状態のままの男子高校生が倒れ込んでくるのを何とか支え抱きとめる。
よく見ると高校生は自分の出身高校の後輩であることがわかり、また翌日の同時刻にもたまたま同じ電車で遭遇したことから、日々の通勤通学をともにすることになる。
世間話をともにするくらいの仲ではあったが、徐々に互いの距離は縮まっていき、週末には映画を観に行く約束をする。が……

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる