かいせん(line)

たくひあい

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Zeigarnik syndrome

Zeigarnik syndrome

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周りの話を聞く限り、まずしばらくの食事タイムがあり、だいたい周りが食事と会話を終えだしたら移行する流れのようだった。
色は俺から離れると、橋引にありがとうと言った。

「いいわよ、これから、どうしようか」
橋引が笑い、色は、伊勢海老をまだ見ていないと言い出す。
 その裏側で二人は、さっきまでのことを話す――というかそれぞれで思念を飛ばしてくる。

橋引は、プレミア客らしき男性と話して宝石の展示が方角と記号分けされていることを掴んだことを伝えた。
価値などと繋がるのだろう。
 色は、一緒に違和感なく彼女についていた。途中テレビ局?の人に会ったらしい。

 ピザ屋が来そうな様子が見えないのに、ピザは見えることを不思議がっている。
見えたまま感じたままのことを口走るとそうなるが、なにか変だという。
もしかするとピザ屋のフリをしているということかもしれない。

「伊勢海老? 確かにあまり食う機会ないけど、そんなに気になるのか」

俺がおどけたように笑うと、色は一万円の珍しいやつなんだって、と強調する。

「そりゃ気になるな、探そうぜ」
ピザ屋のフリをしてるとなれば俺にも読めなくて不思議じゃない。心はあまり嘘をつかないから。
「タイのバンコク……」
「え?」

色が、何か呟いて、俺は聞き返した。
彼はなんでもない、と言った。伊勢海老の並ぶだろうテーブルの列に三人で向かう。残念ながらすでに伊勢海老は居なかった。

 残念ではあったが、
ある程度サンドイッチやケーキや寿司、ローストビーフをつまんだ。甘エビはあったので色と橋引は喜んでいた。
腹がたぷたぷにならない程度の空腹を満たしつつ、一度会場から出る。


廊下に出て、少し開いた窓から心地良い風を感じながら


「――血が、見えた」

と、言ったのは俺。
出た途端に唐突に、頭に建物が浮かんだのだ。
ホラー映画みたいに、ベッドとか、壁とか、ひどい、汚れてて、『何か』が乗ってる。
どこかの、部屋。

「たぶん……人、だったもの……?」

気分が、わるい。気分が悪いものを見たと、思った。
なんだ、これ。

「かいせ?」

色が心配そうに俺を見つめてくる。周りは大半、まだ食事中なようで後ろのドアからは歓声が響いている。
目を、逸らせ、意識を保て、意識を逸らせ、目を逸らすな。

「なんだ、これ。発狂しそうだ。震えが、震えが……止まらな――」

……と。ぬるっ、と口腔内に暖かい感触。目を閉じる。

「んっ」


目の前に、藍鶴色が居た。


「……い、ろ」

それで、それだけで、充分だった。震えが収まる、視界が開ける。
やがて唇が離れる。

「なにか、見えた?」

唾液をぬぐいながら、平然と、聞いてくる。

「あぁ……」

彼に抱きついたまま、俺は項垂れる。

「見えた。たぶん、
何かとは、関係あると思うが……此処、やっぱそーいうヤツが、集まってるから」
それについては、よくわからないけど、ひとまず宝石についてだった。

取引を見たらどうするか。
止めに入る?
いやいや。
 ルートを割り出すためにそのまま見守る、ここで俺が読むにしても無闇に近付けないわけだ。相手は服数人あまり関係ないやつの思考を読む暇は減らしたい。
仲買人の裏に居る相手は、まぁ、適当に割り出せるだろう。
下手な通報が入るのも気を付けないと撤収されてしまう。
ルート分けされてるなら、分類の担当のなかで一番重要な株を選びたいところ……
 あ、あと色の予言じゃ、もうじき女がなにやら発狂するみたいだし、それも頭に入れなくては。

俺が黙っていると、色が『東西南北』と言った。

「え?」

周りに聞こえぬように気を使いつつ近くの開いてそうな部屋に向かう。常に心を読むのも、悪くはないが、俺の消耗を早めるのは確かだから、誰もいないのを見計らいそのまま会話してもらった。

「この地図――うまく出来てるな」

ポケットからしわくちゃな、ポスターが出てくる。このパーティのポスターだ。
会場の地図が載っている。

A会館と、スーパー○○の西店、B競技場東……
短縮距離のぶん情報を省くとそれらの中央に位置するのがこの式場だ。

「なるほど、ダブルミーニング、か」

恐らくこの地図自体が別会場への暗号地図なのだろう。














 東西南北が何を示すのかというのは、ひとまず、大きくわけて4グループの人たちが居るのだろうと橋引は言った。

「しっかし、宝石なんて、見当たらないけどね、今のとこ!
食事会、ドレス発表を兼ねてどっかのお姉さんたちがテーブルにあちこちお話してて、
ホールのスクリーンに映されてる、新しく完成予定の式場の発表、それくらいじゃないのよ」

――あぁんっ、もう、もう、ストレス溜まっちゃうの! なんなの?なんなの?

「そりゃ、裏側だからそうでしょう」
俺がつっこむ。

「ここに呼んだ、リュージさんは?」

橋引がするどい疑問を持つ。
リュージさんの私生活、俺らにゃ謎だもんな。まさか婚カツか?
「そういやあの人見かけないね」
色も気にしていた。


そんなとき、俺の電話が鳴った。出てみるとリュージさん。

《く、クルンテープ……》

「はい?」

《クルンテープ プラマハーナコーン アモーンラッタナコーシン  マヒンタラーユッタヤー
マハーディロックポップ ノッパラット ラーチャタニーブリーロム ウドムラーチャニウェートマハーサターン アモーンピマーン アワターンサティット サッカタッティヤウィサヌカムプラシットに行ったやつがそっちに来てないか?》

「……どしたんすか」

ぜぇ、はぁ、と息をするのが聞こえる。クルンテープでよくないか。

《いや……薬、の出所を……はぁ、いや、こっちの、はぁ、話、はぁ……なんだ、はぁ……あ》

「また物騒で。リュージさんはところで今、何を?」

《仕事、あのな、そっちばかり行ってるわけではないんだ》

そういえばそうか。リュージさんはちゃんと、地に足がつくもうひとつの会社があるんだったか。
いや、半分、忘れてた。
あまりにこっち来てるし。

「えと……そうですよね、スミマセン。では――」

 しばらく会話してから通話を切る。まさか宝石以外も持ち寄ってたんだろうか。何かを運ぶ際に海外のどっかを経由する方法はニュースでもやっている。
「……どう思う?」

 手短に話すと、色は真剣な目をしたまま「まぁ、金持ちが来てるからかな」と呟く。
橋引も冷静だった。「そんなとこよね。最近いろんなとこから来た人がいろんなとこ行ってるし……」

ピザ屋のフリをしてるだろう人物は、まだ見つかってない。







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