かいせん(line)

たくひあい

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Zeigarnik syndrome

Zeigarnik syndrome

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 昔、俺と同じような力のあった槇原さんという先輩が死んだ。
彼女は、俺からしたらそんなに嫌われるほどの人に見えなかったし、会社でもわりと馴染んでてむしろ、あんな狂ったメンバーの唯一の常識人といえるような女性だったのだが。

――ある日、恨みを買ってたとかで殺されていた。

未来についてどう思うか、ということに彼女は何も語らなかった。


 でも俺はわかる。
少し先の未来を知っていたとしてそれがどんな気分かっていうと。

いつか来る『しめきり』をずっと知っていて毎日急かされる気分である。

 しめきりが嫌いな漫画家や小説かの話とかがたまにテレビとかでやっていたのを思い出すと旅行に行ったり、公園とかに宛もなく逃げたくなったりしている。
仕事にも関わらず。
生活であるにも関わらず、彼らは怯え、震えて、戻りたくないなどと言う。


来ることが見えているのに、それを避ける手段がない。
フラッシュバックみたいに、 先に見えて、そのあと殴られたって、二回殴られたようなものだ。
何回も、先に殴られておいて、最後に物理的に現実から殴られる。

『それ』が、 つまらないとか、便利とかっていう次元じゃないこともわかってない奴が多すぎるのだ。




「殺してやるからな!」

と包丁を手にした女が騒いでいる。ここは、パーティ会場のホールだ。
実際には騒いでない。
頭のなかでしか、まだ行われてないから。
魚顔というのだろうか、なんだか、愛嬌のあるような特徴的な顔立ちの女がなぜかやけに激昂している。

――何があった?


「色ちゃん、あっちに伊勢海老あったよ!」

橋引が、俺の腕を引き、楽しげだ。

「一万円、脱皮したてのやつで皮ごと食べられるんだってさ! 脱皮を待つ係員が常に待機してるとかって」


「……そ、う」

『あああああーぁ!』

 頭の中で顔を真っ赤にした、童顔の男が泣きわめいて、叫んでいるビジョンが映る。
まるでこちらに迫るかのように、その顔が、浮かんでは消え、浮かんでは消える。

『ああああああー!』

鬼気迫る、顔。真っ赤。
だんだん蜂に見えてくる。
蜂?かと思えば人の顔になる。歪んで、消え、歪んで、消える。

「……っは、っ、はっ、はっ」

怖い、怖い、怖い、なんだこれ。
言っておくが俺は薬物はやってない。フラッシュバックになるようなPTSD気味な部分は、あるにはあるが、それと違う。これは、予知? それとも――――

怖い、怖い、怖い、頭がおかしくなりそうだ。
嫌だ……

「は、ち……、やめて……怖い、来るな」

誰か知らないおばさんの鬼気迫る顔も、知らない少年が泣きわめく顔も、俺は、見たくて見てるんじゃない。
ぐらぐらと船酔いみたいなめまいがして、身体が斜めに傾いた。
「ぅあっ」

ばたん、と倒れる。
頭を打つ。
痛い……痛いよ。
この建物、害虫駆除をした方がいいんじゃないだろうか。
理由は、わからないけど。
頭が、おかしくなりそうだ。

「気持ち、悪い……」

誰かが居ることを感じたくて、腕を伸ばす。橋引が近くに居て俺の手を握った。

「大丈夫? なんだか、顔色が」
「ぅ……う」

怖い、怖い気持ち悪い怖い。
嫌な物が、沢山脳裏に浮かぶ。今、昔、未来、未来、未来。
わけのわからない、『ミックスされたもの』が映るのはずいぶん稀だ。妖怪絵巻にしか居ないような、脳裏で合成されてしまったのが、情報が一気に来すぎたのか。

それとも本当に――――

「ぁ……あ、ぁ」

橋引の手を握る。
自分がどこに居るかわからなくなりそうになる。

「だ、大丈夫? じゃないよね、どうしよう、どうしたら」

彼女が慌て出す。
俺は、声が出せるだろうか。
頭がぼーっとする。












厄よけのお守り、と神社で買ったストラップを思い出した。ポケットにいれてたような……避けられて、居るだろうか。
少しして、だんだんと映像が消えていく。
消えるのはもちろんただ単に、現状把握へとチャンネルがやっと切り替わったに過ぎない。
周りの客たちが、何事だと言わんばかりにじろじろとこちらを見て来る中、どうにか、呼吸を繰り返しつつ起き上がる。

「はっ、はっ、はぁ、」

界瀬……

彼のことを、思い出してみる。

怖い。


繋がりっぱなしの、揺さぶられっぱなしな、意識。



――意識を、失いたいと、思うときがある。


「カイセ……」


俺を、助けてよ。
こんなもの見なくて良いって、こんなもの、怖がらなくて良いって、予言は、変えられるんだ、って、そう言って――


 後ろにある会場のドアが開き、わずかに光が差し込む。
薄れそうな意識の中、入ってくる、見覚えのある姿を捉えた。俺を見つけると一目散に向かって来て、それから、ぎゅうっと抱き締めてくる。

「……かいせ」

彼は何も言わない。
どうしたのだろう。
俺は少し安堵しながら、その背に手を回す。

夏場は――ただでさえ、嫌な記憶が多い。
人が死に、人が、死んで、人が壊れた、自分が壊れた。それらは多くが夏の暑い時期の出来事だった。

「おれ、つかれた、みたいで、ちょっときゅうけい」
「……色」
しばらくして、彼は正気を取り戻し頬擦りしてきた。
「んーっ、痛い、痛い」
もがいてみるが、彼は俺をしっかりと抱き締めている。
「あぁ。よかった、よかった……」
「ど、したの」
「いや、なんていうか……俺も疲れてんのかな、精神的にちょっと、ピークに達して、戻ってきました」
ぎゅー、と抱きついたまま、彼は説明する。

「此処、うまく言えないけど、気が淀んでるというか、変な邪念がやけに集まってくるっていうか、混ざるというか」
やけに、真剣な顔になりそんなことを述べた。
それには俺も、同意する。
海の近くだからか?
または、前に、この土地自体に何かがあったのか。

「こういうときは、少しいやらしいことをすると良いらしいぜ」
かいせがふざけながら言う。
「……二人きりならよかったけどね」

真面目? な話、少し不浄っぽいものを取り入れることで、確かに安定を計れる部分もあるのだが……さすがに、会場でそれは出来ない。

彼を引き剥がして、どうにか立ち上がる。

「俺も、一気にいろいろ来すぎているんだ……いろんなものが見えて、落ち着かない」




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