かいせん(line)

たくひあい

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Dia pason

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それから……
と、あまり眠れなかった頭で嫌なことを思い出して慌てて頭を振る。

上から、と聞いて三人、心の中では舌打ちしつつ、色だけはどこか嬉しそうだった。

予約の中には、アーティストとかも居るらしい。聞いたことない名が多く全然ピンと来なかった。
 まずはそれぞれ、それらしい服装に着替えるために一時帰宅することになった。

そのあいだにも俺たちの間のコネクトはあった。宝石には、仲買人がいるということ。
金持ちか無法者に売り付けていること。
そして恐らくは盗品だということ。
つまり、盗品を売りさばく市場なのだろうという話が回ってくる。

「仲買人?」

色が不思議そうにした。なにが不思議なんだよ。
「まっ。盗品を売りさばくやつらなんて、にたように、黒いやつらだよな。通常のマーケットには回せないものだからな」
「……」

藍鶴色は顎に手を当てて、なにか悩むようにした。きゅっと寄せられた眉や、普段よりりりしい目付きがとても色気を放っている。

「萌え~」
なにやらあきれた目で俺をじろっと見下ろしたあと、部屋を出ながらに彼は言った。
「仲買人に、また紹介するやつがいるはずだ……そいつは出ないということだな」

捨て駒。要するに彼は、仲買人はオトリだとにらんでいるのだろう。

「確かに、ただ売っただけ、とか言わせるパターンかもしれないが。まあ、そこは確かめつつ考えようぜ」




















 帰宅して、荷物をまとめる。
 外国にある海岸……
(オーストリアだったか、オーストラリアだったか)に、男が流れ着いていた場面がふいに脳裏に流れてきた。

彼は既に亡くなっており、もっていたのは、身の回りのわずかなものと一枚の暗号だけで……
身元はわからないままだった。

そのあと黒い服を着た男たちが解読に成功したんだっけ……

そんな映画があったな。

色は隣で着替えていた。俺たちも基本的にそういう暗号を作るからなのか、それが解けなければ仲間ではないという茶番までやっていたなと思う。
 実際は、文面など触れるだけで読み取ることができればあってないようなものだが、成り済まし防止にはなっていたのだ。
 以外にも例えば俺が 9 31 12184977と書いて「黄色、緑、ピンク」と読むようなことはそう何人もしない。
だからたとえば、この文面については、
112 8464713388 1122 147988 72228993342185469##
と書いておこう。
黒くならないようにと気休めを込めて。
そして、偽りにこの意味を訪ねるといい。

 あの暗号のシーンを思い出しながら俺はふとそんなことを思う。本物なら、例えばこの語り部なら簡単に解けるのだろうから聞いちゃって心配はない。

実はかつて俺らの成り済ましがあったことがある。そのときにも行われたテストだった。
『彼ら』は、見当外れな答えしか出せなくて俺らの説得力がしっかりと示された。



適当に、まだ綺麗げなスーツを身に付けていると色は洗面所の方に向かっていった。

……しばらくして、嘔吐するような大きな声。

どうか、したんだろうか。心配になってそちらに歩いていく。

「大丈夫か」

「あ……かいせ、コホッ」
小さく咳をしながら、彼は真っ白い顔を向ける。なんだか元気がないような感じだ。

「なにか、視たのか?」

色はただ眉を寄せた。
主観を混ぜると未来は見えなくなる。

言葉に出来るのは、明確な範囲かどうでもいい範囲のどちらかというのが彼の持論だった。
――まあ、そのカテゴライズは彼の主観なのだが。

「なんでも、ない」

と。とにかく、そう言われては仕方がなくて俺はそうか、と答える以外無かった。

「ただ……俺は、いつも通りに、やるだけ、だよ、あははっ」
「もしかして、神障か?」
霊障のようなものというのか、それは、俺たちの体質によく訪れるものだった。
身体に本来人間が駆使しない電波のようなものが流れやすいために、それが反動となる影響も多い。
「俺……特にああいうのが、出やすいから」
 色は、無表情で言いながら唇をぐいとぬぐった。
そう、色は俺よりも神霊障が出やすい。少し先の未来を視る、というのがどんな感じかはわからないが……
俺は、それがないからなのか別に理由があるのかマシだった。

「海外だと『悪魔』がとりついた、と一纏めにされがちだけどその2割くらいはこれだよ」
色は苦笑した。エクソシストの世話になるかもな、とか言って。











 ひとしきり吐いたりした後、色も普段は着ない小綺麗なスーツに着がえながら言った。

「『アサクラコマンド』の目的はわからないけど……宝石マーケットは、あの会社と何か関わりがある気がするよ」
俺はさっきそいつが吐いていた洗面台で、髪を整えながら背中越しに聞いている。
「俺も、そんな予感はするよ。全てが繊細に絡んでいる」
「心、なんだ。神は」

 色は、ネクタイを絞めながら淡々とした口調で言う。

「神?」
「そう、神は、心をよりしろにする。だから俺たちを消したいと思うのかもしれない。だから、上と、もし通じてるなら――――」
「仕組まれてると?」

当たり前じゃないかと色は笑った。

「きっと彼らにとってよりしろである心、に、科学や俺らは邪魔なんだろ。『心』は
外部刺激と内部反応の計算が詰まっているデータに基づく部分がある。
そしてそれは神を導く手段そのものだ」
「あと、これ」
そう言った色は、俺を手招きして畳のある隣の部屋、にあるパソコンから何か検索したのを見せた。
「通販サイトだな」
「レビューに着目して。これは最近増えた流れ」
 流暢で荘厳な響きのあるレビュー……いわゆる、昔ながらの敬語でとても礼儀正しい文章というのか。
「あるCDや、書籍のレビュー欄が賑わうと大抵こいつがいる」
「……どう思う?」

「あー、確かに『俺が見ても』若者じゃなさそうだ。
文面も綺麗すぎだが、なにより、今じゃ使わないような表現も見受けられる気がする」
心が、神のよりしろだというのなら。
「個人のカリスマみたいなのを、神のもとに統一するためか?」
人気のあるアーティストや、書籍に現れることが多かった。
「いや、どうだろう」
色は眉を寄せたまま呟いた。

「けど、日本は『神』があらゆるところにいる国だからな。彼らを取り込むというのを手段にする可能性はゼロとはいえない」
寝癖と格闘してるうちにそいつは近くまでやってきた。

「一度感情を廃して、冷静に考えると、アーティストの居る場は『神になる才覚』を探す場ということ。
それから、アサクラ会……になる前の組織に足りなかったもの」


聞いたことがある。
科学の知識は高かったが……

「芸術的な情緒のみが、欠けていた、だから撤退した……」

 アサクラは、世間に認められる組織とするためにあらゆるメーカーをまとめ、販売を行っていた大元のところだ。
――けれど、書籍やアニメ、漫画などには大きくは参入しなかったと言われている。もしかするとあのレビューのようなものはなんかの布石なのか。

「芸術は、むしろ作者自体が神格化するしな」

「ネクタイ曲がってない?」
じっ……と見つめて聞かれてなんとなく頭を撫でた。




「かっこいいよ」

 本心でそう言い、にっと笑う。


「ほんと? ならなぜ撫でる」

色はじとっと俺を見た。不満らしい。

「髪を……ほら、寝癖を直してた」

「寝癖なんかない」

やはり不満らしい。

「撫でたかっただけ」

一応白状すると、そいつは、同じように俺を撫でた。
「……?」

「撫でたかっただけ」




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