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しおりを挟む小さな頃から予知は出来たのだ。毎日じゃなかったし、それが予知なのかさえわからないくらい、些細な小さな未来しか見えないからあんまり役にたたない。
小さな頃、文字で書いてある物を、写真から見つける絵本を友達と読んでいて、俺は文字を読まずに絵ばかり追っていたけど、
「探すのは、たとえばこういうの?」
と絵だけで指差したものが次々に、合っていて、友達が恐れたような顔をして「お前は読むな、気持ち悪い」と言って遠ざかった。俺は友達が何をいやがったかわからず、あとで文字を読み直した。
全く読んでいなかったのに、これを見つけてね、と挙げられたリストは全て、俺が適当に指差していたものだった。
自分がわからなくなった。他にもあったと思うけど忘れてしまったしどうでもいい。
俺は頭がおかしい。
病院に行ってみたけれど特に検査に異常も見られないから、大体まっすぐ帰宅することになっていた。
やる前からなんとなくわかったり、なんとなく出来てしまうことがあるたびに、周りが言う、天才とか秀才というやつを演じた。でも俺は、自分がそうだとは思わなくて心が苦しいままだった。
寂しい。
みんな、やる前からわかればいい。なんとなく出来たらいいのだ。
なんで俺だけは、こんなに異常なのだろう。
出来ないことがいっぱいあって、出来損ないで、周りと違う。
欠点だらけ。
その上、妬みを買いやすかった。
兄弟、先輩、親友だと思っていた友人たち。
いつの間にか俺を裏切ったり、殴ったりとしていくようになった。
寂しいだけ。
何か役にたとうとしたかっただけで、周りが引いて居なくなることばかりだから、そのうちなにもしなくなった。
何が、天才だ。自分達が怯えてしまう不気味な原因に、名前を付けて、叩きたいだけなんだろう。
どこにも行けないし、なにも許されなくて、大事なものができればすぐ誰かが持っていく。
やがて、俺には何一つ残らなくなった。あまり表にでれば変なことで目立つときがあるから、表だったことは控えた。なにも残らない上に、怨みや妬みだけを買っていく毎日だった。最悪以外のなんだっていうんだろう。
神様がいるなら、早く殺して欲しかった。だって、だいたいそういうやつってのは、早死にする。
俺みたいに中途半端なやつは、いつ死ぬんだろう。どうせ面白いこともないのに時間ばっかり浪費しているなんて。
うっかり口を滑らせたことが、予知だったこともあったな、試験の内容だったり、友達の好きになる人だったり、無くした落とし物の場所だったりした。
彼らがなんと言ったかはお分かりだろう。
『お前がやったのか』
精神的にボロボロになった。誰からも疑われるから。解決したところで、疑って叩かれるだけ。
――なのに、誤解が解けたら今度は頼ってくるのだ。
人間の醜さだった。
気持ち悪い。気持ち悪い。
今更、何しにくるんだ。もう怒ってないよという顔で再び現れてくる他人を見ると、怒りたいのはこっちだという気持ちになった。
だから。
『なぁ、色――――』
あの声も。
嫌いだ。
『お前に、頼みがある』
嫌いだ。
『金は出す。条件は悪くない。簡単な依頼だ、なあ、頼むよ――』
ああああああああああああああああああああああ
《お前がやったんだろ?全部知ってて、黙ってたんだ。最低だな。》
違う、違う、違う違う違う。
《そんなに簡単に解けると思ってるのか》
《たぶんこいつが犯人ですよ》
《お前、これは丸一日くらいじゃ、解読できないはずなんだよ》
《お前がやったんだろ》《吐け、何を知っている》
俺――
「っ、ぁ……っ、はぁ――」
息が苦しくなって目が覚める。
かいせの家には帰らず、近くの宿に泊まった。
人間は怖い。
とても怖い。
怖い。
なかなか過呼吸が収まらなくて、しばらくのたうち回った。
誰かの人形になるか、
犯人扱いされるか、
何をしても手元に残らない、生きてるのかわからない毎日を過ごすか。
3つならどれがマシなのだろうか。俺にはあまり判断つかない。
「とはいえ、信じることを押し付けられるというのは、性に合わないかな」
人は裏切る。
いつか。
そんなつもりでなくとも。
だから。
ほとんど眠るだけというスペースから抜け出し、会計を済ませようと、部屋を出る。
淡い光の照らす廊下さえ、なんだか癪だった。
あの明かりも量産されて、個性はなくて、でも、安定している。
「ちょうどいいバランスの他人って、いないものかな」
愛でも憎悪でもない、何かが欲しかった。
好きでも嫌いでもない、そんな、ちょうどいい何か。
愛でるだけ愛でてから、突然突き落とすことも。嫌うだけ嫌っておいて、ニヤニヤと頼ってくることにも。どちらにも、疲れていた。
愛していると囁く他人は、いつかは手のひらを返そうと考えている。
嫌いだと浴びせる他人は、いつかは利用してやろうと機会を待ちわびている。
だから。
生きてくのに、疲れていた。
あれから、色は帰って来ない。何か気分を害すようなことをしたか考えてみたが、わからなかった。
一日触れていないというだけでひどく、物足りない。
昨日の夕飯をテーブルに出したままだったので、とりあえずレンジであたためた。心は、どこか、冷えたままだけど。
俺らは立場としては、中立、ということだ。
極端に未来に関わるような決断は、俺らはしないし、極端に危ないことがあるのなら俺らは、バランスのために動く。
だから、大方は、少数の味方をする。バランスを合わせるためだ。
平等、中立、均衡。
正しいと判断された方に、正しいと感じられるときだけは、向いている。
正しいって、なんだよ……とは、思うけれど。
たぶん。
『女神』とやらが、気に入るかどうかなんだと思った。そのために俺らは、未来に干渉することもある。それがどんな姿のなにかは誰も知らないが、『上』から言われてるので従っている。
、
ぼーっとカルボナーラをつついていたら、少しして、目の前の玄関のドアが開いた。
「色ぉっ!」
思わず走り寄ると、そいつは少し泣きそうな顔で、俺を抱き締めた。
「ああ、ただいま」
「お前、どこいって」
「ガキじゃない。一人で宿にくらい泊まるさ」
「俺、寂しくて」
「そうなのか」
お前は違うのかと、唇を尖らせるとキスされた。そして、すぐに離れる。
「……っ」
「俺は、これが、『寂しい』なのかわからない。いちいち考えたことがなくてな」
「考えたこと、ない、のか」
「でも、会えたとき、嬉しいと思った」
「俺も」
しばらく抱き合ってから、台所に移動する。
そのまま、べったりと引っ付いていると、今日はかいせの方が甘えている、と色は苦笑する。
「俺はわりと、甘えたがりだけど?」
「ああ知ってるよ」
「んー……この、丸まるような小さい背中。愛しい」
「うるさい。小さくない」
背中にもたれて、後ろからぎゅっとひっつく。
そいつは、俺の食べかけのスパゲティに、フォークをつける。
「お前の食事、好きだ」
「そりゃ、ありがと」
「少し、背中が重くて食べにくいな……」
「うるさい、このまま食え」
だらんとなっていると、彼がフォークを差し出してきた。そのまま口に入れる。ああ、俺のつくった味だ。
もぐもぐ、としているうちに、そいつはまた食事を再開する。
「それ食べたらさー、少し、イチャつこうぜ」
「……ん。食べてから考える」
「お前は今日は、素っ気ないな」
「寂しいのか、嬉しいのか、今の、気持ちが、わからない」
小さい頃俺は一人だった。あいつも。誰も彼も。
◇
「なぁ」
食器を洗いながら、呟くように、言う。
かいせは意外にも聞いていたようで、顔をこちらに向けながら、椅子に座っていた。
「なんだ?」
「正しいことって誰が決めるんだろうか」
「なにか、思い出したのか」
かいせは、クスクスと笑って俺に抱きついた。
「……皿洗いは、後にしようぜ?」
「いやだ。片付ける」
「えー」
すがったもの、何もかもが最後は手を切るのはお約束。
『お前がやったんだろ?』
誰もが。
最後は俺を信じなくなって一気に襲いに来るのが決まっている。
可哀想だから、俺が殴られて許してあげるのがいつも礼儀だった。
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「かいせ」
彼は。
どうせ、心が読めてる、。のに。俺はどうしてわざわざ、話すのか。
「んー?」
「甘えたく、なった」
「うん。おれも」
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