かいせん(line)

たくひあい

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Weigerts law

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  朝食を作る。
今日はベーコンエッグに、サラダに、ポトフ、コーンスープという感じ。
やはり、朝からしっかりと食べないと一日は始まらない。

俺がフライパンに油を入れていると、固定電話が鳴った。そちらに向かえないので、無視していたら、代わりに色が出た。
「はい……あ。はっしーじゃん。うん、うん。元気だよ。ああ、あいつも」
楽しそうに、何を話してやがるんだろう。
少し、つまらないが。
塩を軽く振って、卵を割っていたらそいつが戻ってきた。

「お疲れさん。橋引、なんだって?」
「次の任務に出るかもしれないんだとさ」
「え。今日はセーラー服姿のお前と、いちゃいちゃする日じゃないのか」
「……、あー、うん。あぁ。俺、持ってない」
「よし、買う」
「今日はノリ気じゃない」
「えー、期待してるのにぃ!」
「……」










黙ってしまった。つれないやつだと思いつつ、ベーコンを焼いていると、そいつは再び口を開いた。
「あれだ、な。いつかは。その気になるまで口説いてくれ」
「おっしゃー頑張ろ!」
「そんな、見たいもんか?」
不思議がられた。

 あぁ、誤解も信頼も、めんどくさい。

いっそ誤解でいいから俺を殺せばいいのだ。
そして誤ってから、偽善だの偽悪だのを噛み締めるなり嘲笑うなりすればいい。
どうせ、また同じように不信感を抱いて、また同じように裏切るに決まっている。許すだのなんだのと、無駄な儀式をする意味もない。

めんどくさい。
土足で踏み入って、さらに、変な疑いまでかけてくる世界になど、期待も何も無くなっているわけで、別にもうどうでもいい。

悪は潰すだの、正義は守るだの。
そんな風に二つに割りきって生きてきたことなど、俺にはない。
その価値観を押し付けられて、うんざりだ。
会社も、世界も、人間も、全部、黙ればいいのに。
黙ればいい。
そう思うたびに、俺が消えるのがてっとりばやいな、と思う。


 町の騒音を聞きながら、イライラしつつ洗面所で顔を洗っていたら、電話の音が聞こえた。
はい、と応答した瞬間、俺が撃たれたりしないかなぁ……
「はい……あ。はっしーじゃん」

『あっ、いろたん、聞こえてますかー?』
もういやだ。
いやだ。
『え、無視? ちょおおっとお! きーてる?』
どうせ誰も信じないが、俺は本当に、利用され続けただけだった。何もかもに、利用され続けて、搾取され続けていて身動きひとつさえ、妨害されてて、できなかった。

やっと逃げ出してきた。やっと、呼吸ができた。一瞬だけかもしれないけど。
俺にも、奪われないものが、あったんだと、そう思えたことだけは、唯一俺を慰める。
『おいっ! おーとーしろぃ!』
あー、消えようかな、と思ったあの日。
どうでもよかった。
もう、どうでもよかった。今も思う。


なんで殺してくれなかった?
放っておかなかった?


もうすっかり、居場所なんか無いのに。

『次のお仕事、ご一緒するかもだから、よろしくよねん! わかったあ?』
「うん」
『やーっと答えた! ね、元気?』
「うん。元気だよ。あああいつも」
『うわ、ほんとに一緒に居るんだ』
「ああ、そうなんだ」
『へー、それ、大丈夫』
「まあね。ねえ、はっしー」
『ん?』
「俺が死んだら、たいして騒がれないんだろうね。ただの一般市民として、ああ残念ねと終わる。」
『そうね』
「俺は目の前で、あの子を止めることができなかった」
『そうね』
「なにかを、酷く思い詰めていたみたいだった……」

 お互いの事実は、合わせてはならないものだった。信じていた。
願っていた。だから、照らし合わせようと、しただけだった。
俺の物、は、存在しない。名前を書いたって、上書きして、捨てられて、別の人がつかう。
昔からそう。俺はただ、醜い人間として貶されている。
『ええ』
「こんなんで、居場所が、あるなんて思う? 俺は、殺すなら自分、と決めているんだ。他に手を出したりしないのに」

 遠い町に行きたい。
身内や知り合いの居ない、静かな町。
『そうね』

うふふ、と橋引が笑う。俺も笑う。
おかしくてたまらない。散々だなぁ。
もうこれ、死んだ方がマシかもしれない。
おかしいよ。
呪われてる。


「ねえ、橋引」

『んー?』

「俺のもの、って、どうやったら手に入るのかな」

『さあ、ねー!』

通話が切れた。


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