かいせん(line)

たくひあい

文字の大きさ
上 下
9 / 106
aimed at precision

aimed at precision

しおりを挟む
あぁ、朝が来たのか、と思う。
 会社からは、よくしつこく居場所を探されるし面倒だから携帯は持ちあるかないことにしてる。

 まさか、調査のために入り込んだ彼の家で、彼に好かれるとは思いもしなかった。
完全なる誤算だ……
なのに。
もうひとつ誤算があった。けれど、別に言わないことにしている。
俺は大事なものは、増やしたくない。
いつか、消えてしまうから。

今になれば、身内や友人がそれほど酷いわけではないのだと思う。

ただ、俺が異常だっただけ。だから、きっと、俺が居なければすべて落ち着くところに落ち着いていただろう。

かいせは、傷つくから死にたくなるのだと勘違いしている。
俺は、まともに傷付くことさえうまく行かないのに。

 本当は俺が居ることが、『間違い』だから、早いうちに『正さないと』ならないんだと、前から気付いていたことを、改めて実感しているに過ぎない。

 寝癖を掻き回しながら、寝室をうろつく。かいせは居ない。
なんとなく、むっとする。昨日は、奴を無視して床で寝ていたわけだが、少し身体が痛い。
じわ、と涙が浮かんで来た。
苦しい。

 初めて友達に裏切られたのは保育園の頃だろうか。俺が描いた絵を勝手に出されたり、小学生の頃、俺がやっていた係の仕事で、担任に報告したやつが、自分の手柄にした。

いつでもそう。
価値なんか、奪われたら、無いのと一緒。俺の価値は誰かが奪っていく。実力をつける努力以外、なんにも残らなかった。
俺以外じゃ有り得ないっていうものを持つ以外は、なんにも残らない。
だから、俺は自分の体質は嫌いじゃない。
奪えないから。
俺が死ねば、終わり。
あぁ、明快だ。
あまりにも。


『お前、気味が悪いな――消えろよ!』

向けられるその言葉を聞きながら、俺は思う。
俺自身は、俺のものだ。だから。

「なーにしてんの!」

後ろから抱きつかれて、淡々と返す。

「お前の枕に釘を刺してる」

「ぎゃー、何で刺してんですか」

かいせのベッドによじのぼり、羽毛をわさわさと引きずり出していたら、止められた。

「もー、ばかぁ! 色ちゃん、なにしてんだよ」
「愛情表現」

「もー……今日、枕なしかよ」

泣きそうな顔で、枕を眺めるかいせを見ながら、いい気味だと思う。
よくわからない。
憎みたい日と、好きでたまらない日が、交互にやってくるらしい。

「愛情表現、別の方法にしてくれない?」

「……」

黙って唇を奪う。
どきどき、した。

「こんな感じ?」

「そんな感じ」






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

甘夏と、夕立。

あきすと
BL
※この2人の他のお話があります。 是非、シリーズでお楽しみ下さいネ。 日常を生きている中で、突然届いた真っ白な暑中見舞いはがき。 差出人は、もう随分と会っていない悪戯が好きな 幼馴染だった。ゆっくりと、遠い記憶と共に 思い出されるのは初恋をした頃の、学生時代。 柑橘の香りが届けるのは、過去への招待状。 主人公 春久 悠里 田舎から都会に出て進学し、働き始めた青年。 感受性が強く、神経質。 人が苦手で怖い。仕事では 割り切っている。さびれたアパートで 働きながら、ほぼ無趣味に暮らしている。 髪は、赤茶けており偏食を直そうと 自炊だけはマメにしている。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...