上 下
110 / 143
08.異臭騒ぎ

政略結婚

しおりを挟む


そのタイミングで今度は「あ、そういえば小室さん、見ませんでしたか?」と、4人が言った。
「そう! 小室!」
「小室が……」
「部屋にもいなくて」
口々に小室さんを心配しているようである。
 まつりはやや寂しそうな表情になると言う。
「小室さんが……どうかしたの?」
生徒たちは口々に小室さん、について語った。
「小室さん、寮待機になってからずっと様子おかしくて、それで今も居ないから」

まつりは「わからない」とだけ答えた。
「探してみるわ」

「はぁ……図書館にでも居るのかなぁ」
「なんか周りに無理やり結婚が決められちゃったって噂ですし」
「ずっと、変なとこ嫁ぐくらいなら量産型の抱き枕と結婚するって言ってたのにね」
「え? 両さんの?」
「違う違う、そこじゃなくて、洋服屋で売ってるゆるい顔してる抱き枕だって(笑)」
「あぁ、ティーダでしょ。もちもちしてて良いよね」
「冗談だろうけど。でもだんだん狂ってたのよ、忍者が居るとか言い出すし、よっぽど追い込まれてたのね」
「え、何それ、怖い」
「忍者って何!? 量産型の忍者抱き枕?」
「鬼滅みたいなこと言い出した」
「抱き枕だって、重要なポイント」
「えー、誰が考えたんだよ……量産型忍者のムキムキ抱き枕とか」
「誰が考えたんでしょうねぇ」
「だからっ、量産型の、話聞いてた?」


 ふむ。政略結婚だろうか。なんだか世知辛い話だ。
ある意味お嬢様らしいというか、そういう闇を感じざるを得ない。
しかし、彼女は先ほど屋上から墜落したのだ。まつりは告げなかったけれど。
「やっぱり嫌だったんだよ……『私のことまで無理矢理決める人と幸せになれるわけがない』って、前に言ってたし」











「酷いよね、しかもあれ、表面上仲が良い風で、味方みたいなこと言ってる風だけどアレ全部事情知らないと出来ないよ。虐待の話とか」
「許可なしで興信所で全部調べ上げてたってやつでしょ?監視だけじゃなくて、日記とかも全部勝手に見てたんだって。虐待の話とか勝手に調べたこと近所中に話してたらしいし」
「聞いたことがある。こういうやつなんだーって、自分の事みたいに、勝手に調べた過去とかベラベラ話してからそういうやつと結婚するんだーって近づいたらしいよ。それでも俺は味方だから、キリッ的な、家族とかにも話をしていたみたい」
「こわっ」
「は? 意味わかんないんだけど? えぇ? おかしいだろ、
許可してもないことを勝手にやってるの? 家族にまで話を通して? 鬼かよ」

――――秘密に隠された、視えない圧力。
家族や近所の外堀にまで与えられる卑怯な手回し、か……
それのせいで、小室さんは身動きが取れなかったのかもしれない。


「何処と結婚させられるのかしら」
まつりは端的に聞いた。
「……それは……私たちは」







 と、いきなり、寮の電話(机に置いてある)が大音量で鳴り響いた。
──ピロロピロロ! ピロロピロロ!
「えっ!?」
ぼくがビクッと肩を震わせ、他の生徒も困惑する。
「わわ。なにごと……」 「なぜ電話」
 よく聞くと外からも時間差で同じ音が聞こえる。
なんと部屋中で、電話が鳴り響いていた。
立ち止まっていると、お団子の子に、部屋に呼ばれる。 
 手前の左から三番目のドアだった。急いでついていくと、彼女は備え付けの机にある電話のスピーカーボタンを押した。


『今日送ったプレゼントは、届いたかな? 言っておくが、私は電話に直接アクセスしている。いつでもお前たちを見ることが出来るから、事務員に聞いても無駄だ。通報すれば学園ごと危害を加える事も出来る』

 昨日、が今日になっている。
今日……何か送ったのか?
あの焼死体?だろうか。あれも爆発で……?だけど、それでは約束が違う。
今爆破してしまってはぼくたちに鍵を探させる意味が無いのだから。
だからあれは、単純に火を付けた、あるいは、別の目的と見るべきなのだろう。

「はー、ビットコインでも払えっての? いやらしい動画を全世界に送られちゃうの?」
至極どうでもよさそうにまつりがため息を吐く。
声はそれには答えずに機械的な声で、要求だけを告げる。

『やがて太陽と月が交わり、時に変わる……そこまでがこのゲームの期日だ。期日までに二つの鍵を探せ。
君たちは推理だけをするんだ。
 今では復讐や感情を追う事ばかりして今はもう謎を疎かにしていることだろうけど。それでは沢山の犠牲が出る事だろうね。昔は良かったのになァ!
では、回収の手順は後で連絡しよう……
君が私の探しているホンモノであることを願う』


 まつりは黙って、かけなおすボタンを押した。
しかし非通知の為にそれはかなわなかった。

「うーん、しかしこの愉快犯センスが少々古いんだよな……きっと昭和で時間が止まってるんだね」
 と、代わりに悩まし気に吐き捨てる。
何様なんだよ、探しているホンモノって。
 現地の状況も知らずに一方的に昔は良かったなァ!とか言うやつは信用できないんだぞ。
ぼくはなんだか腹が立って来た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

無限の迷路

葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は十五年ぶりに栃木県日光市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 俺の脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...