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07.レタスと1月11日
小室2
しおりを挟むしばらく廊下を走って、向かい側の中庭に出てくると、そこには先客が居た。前髪をピンでとめていて、そばかすのあるショートヘアの子だ。
図書館で会っている。
彼女の方もぼくたちに気が付いたようだったが、それよりも、目の前の『それ』の方が気になるようで、少し悲し気にどこかを指さして言った。
「彼女、ふらふらと屋根の上にやってきたと思ってたら、いきなり、落ちてきたのよ」
彼女が指さすのは、ちょうど庭の中心――――
視線を追って行くと、草の上に女子生徒が、頭から血を流して倒れている。
目は白目を剥き、口から泡を吹いて居た。
「全身を強く打っているね」
まつりが、小さく呟く。
「小室さん……」
彼女、が呟く。
小室さんの身体は、恐怖と苦痛に歪んだような顔をしていた。悔しそうに噛み締めるような口。
飛び降りるときに、逆さになった状態で血が上っていたのだろう――――その頭部の色味を思わせる紫がかった頭。充血した眼球。
それに手足があらぬ方向に曲がっていて、周りは、粘性のある黒い汁で溢れている。
人の原型を全く留めない程では無かったが、ほぼ助からないであろうと素人目にもわかる程、充分に重症だった。
「……酷い」
飛び降りるだなんて、自殺を試みたんだろうか。
逆さになると、頭に血が上るというのは知識では知っていたけれど、
こうやって他の骨折などと合わせて見るとかなり悲惨でグロテスクに思う。
だけど、この場にくまさんは見当たらない。
フィアンセだと言っていた、あんなに愛おしそうにしていたくまさんを置いて、飛び降りたのだろうか。
死んだあと、彼女以外の人間と普通は意思表示の出来ないくまさんが他の誰かに触られるかもしれない、危害を加えられるかもしれない、通常ならそう思ってしまう筈だ。
「確かに、死体とか無機物を愛する人は、心中する事もよくあるからね。彼女はそれはしなかった……か」
まつりが、淡々と呟く。
少女も、酷く冷静に発した。
「馬鹿ね。執着なんか、持たない方が良いのに」
一応上も見ておきましょうかと少女に指を指され、壁際の梯に上る。
ぼくが先頭になって屋根に到達し、まつりも、続けて登ってきた。
中庭の屋上……屋根の上。
打ち所が悪ければ死ぬかもしれないが、丈夫な体を持って居れば骨折程度で済むかもしれない、そんな曖昧な高さの場所だった。給水タンクとかソーラーパネルとかプールとかは無く、ただの見晴らしの良い通路というか、それだけだ。
そこに、揃えた靴なども無くて……
――――ん?
よく見ると、ぼくたちの目の前の側に鉛筆がざっと見て15本落ちている。
飛び降りる前に投げ出されたのか。
どの鉛筆もところどころ傷だらけになっていた。よく見ると奥の草むらには筆箱が転がっているような。今時鉛筆を15本持ち歩くなんて、美術の授業をとっているんだろうか。
それに。
「紙だ……」
紙。
ノートをちぎったような紙で、鉛筆の下敷きになっている。
何やら歌詞が書いてあるようだった。
ハンカチでそっと包んで開いてみる。
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