上 下
100 / 143
07.レタスと1月11日

小室2

しおりを挟む

 しばらく廊下を走って、向かい側の中庭に出てくると、そこには先客が居た。前髪をピンでとめていて、そばかすのあるショートヘアの子だ。
図書館で会っている。
 彼女の方もぼくたちに気が付いたようだったが、それよりも、目の前の『それ』の方が気になるようで、少し悲し気にどこかを指さして言った。

「彼女、ふらふらと屋根の上にやってきたと思ってたら、いきなり、落ちてきたのよ」

彼女が指さすのは、ちょうど庭の中心――――

 視線を追って行くと、草の上に女子生徒が、頭から血を流して倒れている。
目は白目を剥き、口から泡を吹いて居た。
「全身を強く打っているね」
まつりが、小さく呟く。
「小室さん……」
彼女、が呟く。



 小室さんの身体は、恐怖と苦痛に歪んだような顔をしていた。悔しそうに噛み締めるような口。
 飛び降りるときに、逆さになった状態で血が上っていたのだろう――――その頭部の色味を思わせる紫がかった頭。充血した眼球。
それに手足があらぬ方向に曲がっていて、周りは、粘性のある黒い汁で溢れている。
 人の原型を全く留めない程では無かったが、ほぼ助からないであろうと素人目にもわかる程、充分に重症だった。

「……酷い」
  飛び降りるだなんて、自殺を試みたんだろうか。
逆さになると、頭に血が上るというのは知識では知っていたけれど、
こうやって他の骨折などと合わせて見るとかなり悲惨でグロテスクに思う。
だけど、この場にくまさんは見当たらない。
 フィアンセだと言っていた、あんなに愛おしそうにしていたくまさんを置いて、飛び降りたのだろうか。

 死んだあと、彼女以外の人間と普通は意思表示の出来ないくまさんが他の誰かに触られるかもしれない、危害を加えられるかもしれない、通常ならそう思ってしまう筈だ。
「確かに、死体とか無機物を愛する人は、心中する事もよくあるからね。彼女はそれはしなかった……か」
まつりが、淡々と呟く。
少女も、酷く冷静に発した。
「馬鹿ね。執着なんか、持たない方が良いのに」






 一応上も見ておきましょうかと少女に指を指され、壁際の梯に上る。
ぼくが先頭になって屋根に到達し、まつりも、続けて登ってきた。
  中庭の屋上……屋根の上。
打ち所が悪ければ死ぬかもしれないが、丈夫な体を持って居れば骨折程度で済むかもしれない、そんな曖昧な高さの場所だった。給水タンクとかソーラーパネルとかプールとかは無く、ただの見晴らしの良い通路というか、それだけだ。

そこに、揃えた靴なども無くて……
――――ん?
 よく見ると、ぼくたちの目の前の側に鉛筆がざっと見て15本落ちている。
飛び降りる前に投げ出されたのか。
  どの鉛筆もところどころ傷だらけになっていた。よく見ると奥の草むらには筆箱が転がっているような。今時鉛筆を15本持ち歩くなんて、美術の授業をとっているんだろうか。
それに。
「紙だ……」
紙。
ノートをちぎったような紙で、鉛筆の下敷きになっている。
何やら歌詞が書いてあるようだった。
ハンカチでそっと包んで開いてみる。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

亡くなった妻からのラブレター

毛蟹葵葉
ミステリー
亡くなった妻からの手紙が届いた 私は、最後に遺された彼女からのメッセージを読むことにした

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

Like

重過失
ミステリー
「私も有名になりたい」 密かにそう思っていた主人公、静は友人からの勧めでSNSでの活動を始める。しかし、人間の奥底に眠る憎悪、それが生み出すSNSの闇は、彼女が安易に足を踏み入れるにはあまりにも深く、暗く、重いモノだった。 ─── 著者が自身の感覚に任せ、初めて書いた小説。なのでクオリティは保証出来ませんが、それでもよければ読んでみてください。

神暴き

黒幕横丁
ミステリー
――この祭りは、全員死ぬまで終われない。 神託を受けた”狩り手”が一日毎に一人の生贄を神に捧げる奇祭『神暴き』。そんな狂気の祭りへと招かれた弐沙(つぐさ)と怜。閉じ込められた廃村の中で、彼らはこの奇祭の真の姿を目撃することとなる……。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...