91 / 143
06.能力者
界瀬
しおりを挟む「よっ」
呆然と見上げると、彼から短い挨拶をされる。
ハニーブロンド、って言うんだろうか。はちみつみたいな金髪。少し長めの、けれどけして不潔ではない、そんな髪の男性だ。
なんというか独特のオーラがあって。たまに細められる目は、少しどきっとしてしまう。
……が、スーツ姿で屋根の上。
「ここ、女学園ですよ」
おまえが言うかって感じだがぼくが頭上に忠告してみると、彼は爽やかに笑って言う。
「知ってっから! 俺は教師なの。家庭科」
「へーぇ、教師が屋根の上で何してんのぉー? 屋根の修理かなー?」
まつりがわざわざあおる。
面白がっているらしい。確かにまつりにも遊びがいがありそうな、そういう雰囲気を彼は持っている。
「あ、ささぎさんじゃーんっ! 元気? デートしない?」
ささぎさんと知り合いらしい。子犬みたいな笑顔で、ころころと、彼は笑った。
「彼氏に捌かれるよ……」
あきれた顔でまつりが言う。
「うっわ……なんで知ってるの!?」
彼はオーバーなリアクションで、まつりの言葉に反応する。
ふと、彼が左手を添えた首元を見ると赤い、小さな痕。虫刺され?
外にずっといるから……きっと草刈りか何かをしていたんだろう。
屋根も案外、雑草が生えやすいし。大変だ。
「ちょっと、昔の事件で、出会ったことがあるんだ」
まつりが答える。
「あいづくん……彼氏のストーカーぶりに引いてたよ?」
あいづくん、とは誰なんだろう。うまく漢字に変換できない。
「……待って、あいつ今何してるかな」
彼は、あいづくん、についてまつりから聞いたとたん、思い出したかのように目を閉じて、なにか念じる。
……目を閉じて、何が見えるのだろう?
寝ている風には見えないが、彼はしばらくぶつぶつ言いながら、目を閉じ続けた。
少しして、蕩けたような顔で、彼は言う。
「俺が道草食ってるからマジキレてる。こわー……早く行かなきゃここの備品、解体するかもな……パソコン辺りが怪しい……コンピューターって案外、パーツごとに整ってるからばらしやすいらしくて」
「早くいってあげたら?」
まつりは肩を竦めて、彼を見逃す仕草をする。
「……お前、ささぎさんじゃないな?」
案外鋭いらしい。
ぱっと、彼の表情が、真剣なものになる。
「ん。ささぎさんじゃないよ」
まつりはにこっと笑って、肯定だけを返した。
「ま、深く聞かないでおこう。この世界では知らないことが武器みたいなとこがあるからな」
「まったくだ」
まつりがうなずく。
知らなければ、関わりが無かった、聞いたことがない、そう言って逃げられる。下手にやばい話に首をつっこむのは、間抜けな話らしい。
「あんさぁ、俺をここで見たことは、秘密な? なっ」
彼は懇願するみたいにまつりを見つめる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
時計仕掛けの遺言
Arrow
ミステリー
閉ざされた館、嵐の夜、そして一族に課された死の試練――
山奥の豪邸「クラヴェン館」に集まった一族は、資産家クラレンス・クラヴェンの遺言公開を前に、彼の突然の死に直面する。その死因は毒殺の可能性が高く、一族全員が容疑者となった。
クラレンスの遺言書には、一族の「罪」を暴き出すための複雑な試練が仕掛けられていた。その鍵となるのは、不気味な「時計仕掛けの装置」。遺産を手にするためには、この装置が示す謎を解き、家族の中に潜む犯人を明らかにしなければならない。
名探偵ジュリアン・モークが真相を追う中で暴かれるのは、一族それぞれが隠してきた過去と、クラヴェン家にまつわる恐ろしい秘密。時計が刻む時とともに、一族の絆は崩れ、隠された真実が姿を現す――。
最後に明らかになるのは、犯人か、それともさらなる闇か?
嵐の夜、時計仕掛けが動き出す。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
愛情探偵の報告書
雪月 瑠璃
ミステリー
探偵 九条創真が堂々参上! 向日葵探偵事務所の所長兼唯一の探偵 九条創真と探偵見習いにして探偵助手の逢坂はるねが解き明かす『愛』に満ちたミステリーとは?
新人作家 雪月瑠璃のデビュー作!
影の多重奏:神藤葉羽と消えた記憶の螺旋
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に平穏な日常を送っていた。しかし、ある日を境に、葉羽の周囲で不可解な出来事が起こり始める。それは、まるで悪夢のような、現実と虚構の境界が曖昧になる恐怖の連鎖だった。記憶の断片、多重人格、そして暗示。葉羽は、消えた記憶の螺旋を辿り、幼馴染と共に惨劇の真相へと迫る。だが、その先には、想像を絶する真実が待ち受けていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる