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06.能力者

界瀬

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「よっ」

呆然と見上げると、彼から短い挨拶をされる。
ハニーブロンド、って言うんだろうか。はちみつみたいな金髪。少し長めの、けれどけして不潔ではない、そんな髪の男性だ。
 なんというか独特のオーラがあって。たまに細められる目は、少しどきっとしてしまう。
……が、スーツ姿で屋根の上。

「ここ、女学園ですよ」

おまえが言うかって感じだがぼくが頭上に忠告してみると、彼は爽やかに笑って言う。

「知ってっから! 俺は教師なの。家庭科」

「へーぇ、教師が屋根の上で何してんのぉー? 屋根の修理かなー?」

まつりがわざわざあおる。
面白がっているらしい。確かにまつりにも遊びがいがありそうな、そういう雰囲気を彼は持っている。

「あ、ささぎさんじゃーんっ! 元気? デートしない?」

ささぎさんと知り合いらしい。子犬みたいな笑顔で、ころころと、彼は笑った。
「彼氏に捌かれるよ……」
あきれた顔でまつりが言う。
「うっわ……なんで知ってるの!?」

彼はオーバーなリアクションで、まつりの言葉に反応する。
ふと、彼が左手を添えた首元を見ると赤い、小さな痕。虫刺され?
外にずっといるから……きっと草刈りか何かをしていたんだろう。
屋根も案外、雑草が生えやすいし。大変だ。

「ちょっと、昔の事件で、出会ったことがあるんだ」

まつりが答える。

「あいづくん……彼氏のストーカーぶりに引いてたよ?」


あいづくん、とは誰なんだろう。うまく漢字に変換できない。

「……待って、あいつ今何してるかな」

彼は、あいづくん、についてまつりから聞いたとたん、思い出したかのように目を閉じて、なにか念じる。
……目を閉じて、何が見えるのだろう?
寝ている風には見えないが、彼はしばらくぶつぶつ言いながら、目を閉じ続けた。

少しして、蕩けたような顔で、彼は言う。

「俺が道草食ってるからマジキレてる。こわー……早く行かなきゃここの備品、解体するかもな……パソコン辺りが怪しい……コンピューターって案外、パーツごとに整ってるからばらしやすいらしくて」

「早くいってあげたら?」
まつりは肩を竦めて、彼を見逃す仕草をする。
「……お前、ささぎさんじゃないな?」

案外鋭いらしい。
ぱっと、彼の表情が、真剣なものになる。

「ん。ささぎさんじゃないよ」

まつりはにこっと笑って、肯定だけを返した。

「ま、深く聞かないでおこう。この世界では知らないことが武器みたいなとこがあるからな」
「まったくだ」

まつりがうなずく。
知らなければ、関わりが無かった、聞いたことがない、そう言って逃げられる。下手にやばい話に首をつっこむのは、間抜けな話らしい。

「あんさぁ、俺をここで見たことは、秘密な? なっ」

彼は懇願するみたいにまつりを見つめる。
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