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03.イン・ポスター
意見のすれ違いと、頂き女子
しおりを挟む幸せ。
好きな物。
自分の中の、好きな物。
自分を自分足らしめるもの。
「そういえばさっきまで居たお姉様方は?」
すぐ傍で声がした。
いつの間にかぼくたちを置いて、他のメンバーがひそひそと話し合い始めている。
「さぁ、なんか忙しいみたい。学園祭とか、侵入者の件で」
「なるほど……理事長は」
「みんな抑え込みに言ってるんじゃない?」
「理事長の?」
「警備会社の」
「あぁ、窓……」
窓を何秒か開けていると警備会社に連絡されるらしいが、廊下の窓が何者かによって、あけられていたそうだ。
「こういうの、アンチロックっていうんだっけ」
会話から戻ってきたまつりが、話しかけてくる。
嬉しそうにポケットのナイフのひとつを振っていた。
「ロックマンにそれほどの恨みが」
「鍵の話だよ」
なんとなく、まつりの方を見る。
「何?」
きょとんと、ぼくの方を見返した。
これしかないと、それだけが取り柄だと言える物でもあればいいのだろうか?
「いや」
それは、自分なのか。
自分は何処にいるのか。
「なんにも……何も、ないよ」
あれ。なんだか、寂しい。
「そう?」
まつりが不思議そうにぼくを見つめたそのときだった。
ガタン、と椅子が転がる大きな音が響いた。
唐突に、入口付近でモニターを見ていた小池さんが警戒するように慌てて立ち上がっている。
「確かにっ、この前のテスト、ついお姉様に『首席は小池つむぎ』って見栄張っちゃったけど!」
なんだか、パニクっている。
三日月さんの呆れたようなため息。
『何も首席は無いだろ』というのが滲み出ているが、小池さんも必死なようで
両手を合わせてペコペコと頭を下げている。
「首席が居るって事は、下も居るって事で! お願い、三日月さん!口裏を合わせて!」
嫌です、無理です。と首を横に振る三日月さんに縋りつく小池さん。
「おーーねーーがーーい! 首席になるには仕方がないのーー!」
どうやら、遠方にいる誰かに首席だという嘘を吐いてしまった事で、後に引けなくなり、口裏を合わせるように頼んでいるという事らしい。
「私の日々の努力があなたの嘘以下だっていうんですか!?」
さすがに三日月さんも動揺を隠せない様子だ。嫌だ、と何度も言っていた。
小池さんがぺこぺこと頭を下げる。
「バレるまで、ねっ!? お姉様が来たらどうせすぐわかるし」
……はぁ。
と、三日月さんのため息。呆れて言葉も出ない様子だ。
「私だって軽い気持ちで言ってみただけだったんだけど、周囲の私を見る目が、みるみるうちに変わったの! 馬鹿にされないってこんなに快適なんだって知ってしまったの! ね?書面上では嘘吐けないんだし、今だけだから!」
畳みかけるように小池さんが言う。
普段から馬鹿にされ続けて居たが、地元や家族などに試しに首席だと言ってみたところ馬鹿にされなくなった。
その快適さを手放すのが嫌だという。
だったら勉強すればいいでしょう、と三日月さんが低い声で唸る。
実際、『首席になるという事は、他の人の順位を下げて置く必要がある』のと同義なので、諸刃の剣であるし、大抵はすぐバレる。
皆に信じて貰うにも、小室くま子さんの言っていた『優子さん』のように全世界に向けて懸命に下げ広告を作らなくてはならないだろうと思う。
だけど……その皆も、自分を知らない外側の人間に限られる。
何故そこまでの見栄を張りたいのだろう。
外と内側を感じさせるような、ただのシステムの一環としての思考。
口だけで誤魔化そうという発想はまるでそれ以外、在校する生徒を想定出来て居ないかのような……
あるいは、それじゃまるで、『広告を作りでもしなくては、在校生の首席としての証言が取れない』
学校自体に通って居ないかのような――――
って、目の前に小池さんがいる以上、そんなわけは無いのだけれど。
「いいじゃんかー。あなたには厳しい親とか、周囲の目とかないでしょう?」
「それは貴方の責任でしょ?」
「私はいつだってみんなの憧れ。評価も魅力も頂き女子!としてキラキラな小池さんでいなくちゃいけないの!」
「意味がわからない」
余計な思考に走っている間にも暫く三日月さんと小池さんの口論は続き、他のメンバーの注目もいつの間にか集まっている。
――何?喧嘩?
――どうしたの?
心配と呆れと同情の入り交じる中で小池さんは叫んだ。
「意見のすれ違い!」
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