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04.まつりとささぎ
6階
しおりを挟む「普通のビルだ……」
到着したのは普通のビルだった。
てっきり冗談みたいなお城が出てくるのではと思ったけど、別にそんな事は無いらしい。それでも、これはこれで立派な建物である。
ぼくが見上げていると、まつりは「まぁそんな変なもんは出てこないよ」と呟く。
「でもさ、今回はもし迷っても普通に寝泊まりする場所用意されてるね!」
まつりはなんだか楽しそうに言った。
前回はホテルの部屋を自分で用していた意味では今回、確かに用意されている。
「そういえば、あのとき、リュージさんと二人で、夜に何をしてたんだよ。そのまま泊まったのか?」
「……今さらその話ー? うふふん、気になる?」
まつりはにやにや、と笑う。
「別に」
面白いものでも見るようにこちらを見下ろしてくる。なんだその目は。
まつりが居なくてぼくは割と心細かったというのに、
夜の町であんなことやこんなことを楽しんでいたんだろうか?
ず、ずるい……
「オトナの話だよ」
えっへん。
胸を張って大人の風格を見せつけるまつり様。
「えぇー、オトナって……お前どう見ても子──」
睨まれた。
「二人とも」
ささぎさんがぼくたちを呼んだので、返事をして会話を中断。
正面のガラス戸をスライドさせ、中に入る。
まず大きな液晶パネルが目の前にあり、受け付けた各部屋の宅配荷物や天気予報などの情報を表示していた。
荷物が届いたり、部屋に呼び出しがあるとここに部屋番号が表示される仕組みらしい。
すぐ脇には受付があったが、呼び出し式で今は誰も待機していない。
ささぎさんは慣れた様子で「行きましょう」とぼくたちを先導した。
ささぎさんの部屋は、そのなかの6階だった。
学年やら、階級やらが高い順に、階層が分かれているらしい。
このビルは8階建てなので、ささぎさんの順位はなかなかのものと言える。
ただ、補足しておくと
「私、最上階って苦手なのよね……ほら、足が地面につかないっていうの?本当は飛べないのに、こんな高い位置に居る──みたいな。なんか、わかるかしら、妙な違和感あるのよね。高い階って。窓からの景色も、普段私たちが見るはずの景色と、アングルが矛盾してるじゃない? なんか、そういう空気に、私は敏感で……酔っちゃうし。だから一階が良かったんだよね、本当は。これでも下げてもらったのだけど」
らしい。
規則は規則だが、あまりに苦痛で、たまに下級生の部屋を借りきって寝たりするようである。
持っている学生証で重たいドアのロックを解除しているささぎさん。
「……」
やっぱりあるよな。
ぼくはちらりとまつりをみる。何?という顔をしている。
「別に」
まつりは不思議そうに首をかしげていたがしばらくして飽きたのか、ささぎさんに話しかけた。
「ずいぶん分厚い扉だね?」
ささぎさんは柔らかく微笑んで首肯く。
「えぇ。個室は防音扉になっているの。だから部屋が盗聴されない限りは早々会話が漏れ聞こえないと思う」
……なるほど。
彼女が寮の部屋にぼくらを招く理由にそれもあるのかもしれない。
「一応、入寮したてのときに音楽を流して外に出て、どの程度聞こえるかテストしたから確かよ」
ささぎさんがウインクする。
まつりは、それなら安心だねと微笑んでいる。
「盗聴している人がいない限りは、ね」
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