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第一章 出会い

八本目 必殺『触手さんシリーズ』とおや、お姉さんの様子が……

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 プルプル震えて鳥人間が遂にぶちギレる。

「調子に乗るぴゅ。クソガキがァァァァァッッ!」


 オレから離れてクラウチングスタートの体勢になる。それを黙って見守っていると、鳥人間が調子に乗り出す。

「覚悟しろぴゅ。『最速』のピュピュアノート様が本気を出してやるぴゅ!」
「…………」

 触手さんをにょきにょきと背中から生やす。

「今から出すこの最速は、あそこの役立たずでも捉えられない速さぴゅ!」
「…………」

 触手さんをウネウネさせている。

「いくぴゅ! 我が必殺の最速……」
「いいからとっと来い、三下」
「こい、つはぁ~!」

 鳥人間が飛び出す直前、

「必殺『触手さんシリーズその一」

 対Sランクの必殺奥義を繰り出す準備へ入った。

「くらえ、『疾風の―――――……」
「マッスルパンチッッッ!』」

 鳥人間が飛び出したと同時に背中から生えた触手さんが、極太マッスルアームとなって、その汚い顔面にぶち当てた。

 鳥人間の顔面だけでなく、上半身は砕け散り、その後方にある木々を衝撃波で吹き飛んだ。後に残ったのは砕けた遺体と唖然するローヌさん、ついでに残った自然破壊の痕跡だけだった。

「え、あ……え?」
「うむ。さすがマッスルアームとなった触手さん。やり過ぎ感半端なくて、冷や汗が止まらぬ」
「何したのこれ!? えっ、これって君がしたことなの!?」

 困惑一色なローヌさんに説明を求められたので、答えてあげた。大分前にガルマーダをぶっ飛ばしたパンチの改良版である。

 イメージした筋肉ムキムキマッチョな極太の腕で、これで受ければまず耐久がB未満であれば、一撃で木っ端微塵である。これでキンググリズリーなどのSランクをよくノックアウトしたものだ。

「ただの子どもにだと思っていたけど、なかなか面白い……」
「もう別に王様口調でなくてもいいんじゃね」
「そうね。私も……もう、げんかい……」

 ローヌさんが倒れた。顔色を見たところ、しんどそうだ。てか、そういえばこの人、妊婦だった!

 お腹を押さえている辺り、完全に産気付いてらっしゃるー!
 急いで町へ搬送しなければ!

「待って。町にだけには連れていかないでくれ。人間が集まるところに魔人であるわたしが行ったら……」

 oh、そうだ。魔人って真人の敵だった。町に運ぶのはまずい。

「仕方ない。ガルマーダに診てもらおうか。なんかできそうだし」
「なんでかしら、そのガルマーダって人に全て丸投げのような気がするわ……」
「静かに。安静してなきゃ、まずいでしょ」


 オレは触手で美女さんの身体に刺激を与えないように包み込むような形にして、運んだ。ベッド型の触手さんは緊急患者に優しい担架です。

 搬送中にローヌさんは、

「なんで魔人の私なんかを……」

 と呟いていた。はて、そういえばなんで出会って数分の人にここまでしているのだろうか。普段のオレなら、スルーしてそのままうちに帰るのに。

 ふと、思い出したのはテレジアさんの顔だった。何かを守るために自ら身体を張った彼女の表情、それはローヌさんが鳥人間から守ろうとオレの代わりになろうとしたときと同じ表情だった。

 だからだろうか、

「母を守りたいと思ったから……かな?」
「え?」
「うん、まぁ……ローヌさんのような美女を死なせたくないからって言う理由でいいや」
「……まぁ」

 何やら照れるローヌさんだったが無視してガルマーダの家までたどり着いた。オレは、その扉を蹴破り、本を読んでいたアーゼに命令する。

「アーゼ。緊急患者。メーデー!」
「わ、わけがわかりませんわ……って魔人!? しかも妊婦!?」
「とにかくガルマーダを呼べ! てか、お湯もってこい!」
「りょ、了解しました!」

 さて患者をベッドに寝かせる。美女さんは呻き声をあげて苦しそうだ。

 お湯をもってきたアーゼだったが、隣にガルマーダがいない。

「が、ガルマーダ様が緊急のクエストのためご不在で、代わりにテレサ様が……」
「おほっ! 美女キタコレー!」

 別の意味で危険なヤツを召喚しちゃった! ローヌさんの貞操のピンチ!

「……もしわたしの赤ちゃんが生きてなかったら、わかってる?」
「任せろ。あなたの赤子を救ってみせよう」

 ふざけていた空気を一気にシリアスにしちゃいましたよローヌさん!   あらやだ、かっこいい。

 そして出産が……はじまった。

 部屋から出ていったオレとアーゼは無事に美女さんの赤ちゃんが産まれることを祈る。するとテレサがオレを呼んで中にいれる。

 まだ出産の最中なのに何ゆえに、と思っていると驚愕の事実が発覚した。

「この美女の魔力が不足している……! このままではこの人と赤ちゃんの命が危ない!」

 魔人にとって魔力というエネルギーは生きていく生命エネルギーらしい。魔人の身体で魔力不足のままの出産はまずいらしい。

 要するにだ。

「どうしろと?」
「魔力を注入しろ」
「おーけー。注射、おしゃぶり、形容しがたきバベルの塔のどちらかを選んでちょ」
「普通のにしろ!」

 ボケキャラのテレサに怒られたので普通の触手さんを美女さんの身体に触れて、エーテルを注入。

 みるみるうちに美女さんの顔色がよくなり、そして――――






「という感じなことがあった」
「すんげーなオイ」

 帰ってきたガルマーダに事の結末を伝えると無事に出産は成功した。元気な女の子だ。母親に似て、将来は美女になるだろう。

「んなことより、あの人。魔人だろ。お前、怖くねぇのかよ」
「形が普通の人と変わらない限りは。口がいきなりバイオでハザードみたいにクパァになったら、もう無理」
「そんな形容し難き化け物は生物界にはいねぇから」

 未だにクパァができるのは、触手さんのみのようである。

 すると美女さんが赤ちゃんを抱き抱えてこちらにきた。

 産まれた彼女の名前はライカである。来る華と書いて『来華』。ちなみに名付け親はオレです。

「はいはい。パパですよー」
「あーぅ」
「待て。我はパピーではないぞよ」

 魔人の美人さんことローヌさんがオレをパピーに仕立てあげる。我はパピーではないぞな。

「じゃあ、お兄ちゃんでいいわよね。ほーら、ワインお兄ちゃんでちゅよー」
「だーぅ。きゃっきゃっ」
「ほっぺを引っ張らない」

 顔を弄ばれるオレって……。まあ、べつにどうでもいいや。

 というか、この赤ちゃん異様に成長速度早くね?
 普通はまだまだ寝たきりが多いと思うのだが。

「魔人は魔力が生命エネルギーって前に言っていただろ。そのエネルギーが多ければ多いほどよく育つってわけだ」
「テレサ氏が異様に詳しい。さては、魔人の女の子と寝たな」
「三割程度しか仲良くしてないから、まだだ。そう……まだ、ね」
「フラグを立てるなし」

 この百合女。キマシタワーをそんなに建設したいのか。

 アーゼやローヌさんに毒牙をかけられないように注意せねば。

「なぜ、ワインにこれほどまでになついているのですの」
「私達、魔人は魔力で親族を判断する種族なの。たぶん、ワインのエーテルがこの子の中にもあるから、お兄ちゃんって思われているのよ」

 なるほど。現代ジャパニーズで言う血縁関係ってわけか。

「それにしてもワインくんの魔力注入……とてもすごかった」
「あの、その言い方やめてくれません。なんか、とてもいやらしく聞こえるので」
「あら、アーゼちゃん。私達魔人がエーテルを注がれることは結婚を申し込まれることと同義よ」
「えぇ!?」

 なんやて。だから、パピー扱いしたのか?

「でも、この歳のワインくんだとさすがに……ね」
「ほっ……」
「けど。ふふ……後、二年もしたらとても良い男になるわよねぇ~」
「わ、ワインとの結婚は断じて認めませんわ! 特に五歳も歳上の方と!」

 なぜかアーゼが強く反対。ローヌさんって十九歳なのか。今はじめて知った。

「あらあら。アーゼさんってもしかして……?」
「ッ! ち、違いますわ。わたくしはただ弟のようなワインが……その、あの」
「ふふ。では私のことをお義姉さんと呼んでもいいですよ」
「くっ。ローヌさんはそれでいいですの! ワインのようなまだ将来がわからない子どもよりも、もっといい人がいるはずです!」
「私はワインくんの容姿も魔力も好みだから問題ないわぁ。娘も彼のこと気に入ってるし」

 そうですね。現在進行形でほっぺを弄ばれていますしね。

「くぅっ。まさかこんな子どもにモテ期だと。なぜだ! なぜワタシには一部の美女美少女しか応えてくれないんだー!」
「女だからだろ」
「ならば、ワタシも汚いバベルの――――ぐふっ!?」

 なんか危ないことを言いかけたテレサを触手パンチ。とりあえず、お前は退場な。

「あーぅ? だー!」

 ライカの背中から小さな触手が……なんですと?

「あらあらまあまあ! パパと同じことができるのかしらこの子!」

 さりげなくパパと呼ばないで。明らかにパパに仕立てる気満々じゃんローヌさん。

 というかこの子まで触手とはねぇ。

「第二のワインが生まれることを祈りますわ。……自重してくれなさそうだし」
「「同感」」

 オイこら。人を化け物みたいな言い方するな。

 というかライカもオレの顔を触手でぺしぺしして遊ばないの。
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