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8.からまる (r15)
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冬臣さんからもらった誕生日の贈り物。かんざしを髪に挿して冬臣さんが早朝に帰ってきてまっすぐ自室で眠っているのを確認して、私は朝ごはんの支度をします。
冬臣さんは大体、お仕事が終わって帰ってくるのは陽が昇る前。早朝よりも早い時間です。夜中の3時か4時くらいに帰ってきて、それから眠りについてお昼まで眠る時もあれば、その前に起きることもあるそうです。私がここに来てからは必ず昼前には起きるようになったらしいのですが、それはきっと、私がいるから私の生活になるべく合わせてくれようとしているのだろうと思います。
私が6時くらいに目を醒まして、鳥の鳴き声と日光を縁側で浴び、寒い部屋を暖めるために火を点ける。私は仕事をしていませんが、料理に洗濯、掃除、といった一通りの家事をした後に趣味の読書や執筆をしたり、運動をしていました。
女性は働くことはせずに家を守ることに努めなくてはならないと女学校で言われてきましたが、それが退屈だと感じてしまう私は女失格なのかもしれません。
まだまだ練度が足りず完璧にこなせるとはいきませんが、それなりに家事をこなすことができるようになって自分の時間が取れるようになってきました。
顔を洗い、うがいをして朝食を簡単に済ませてから軽く体操をして洗濯をしようとしました。それなのに、なんだか上の空になってしまって思うように作業が進みません。
「はあ」
今日も手際よく家事をこなしていつものように過ごそうとしたのですが、昨日の冬臣さんの発言が脳内で何度も再生されてしまってその度に思考が停止するのです。だから、違うことを考えて気を紛らわせようとしますが、冬臣さんの私服や部屋で着ているような和服を見るともう頭の中は彼でいっぱいなのです。
「ああ、チヨ、しっかりなさい!」
己の頬をパチンっと乾いた音が響くくらい叩いてみましたが、やはり気になってしまいます。
なんとかやらなければならない作業を終わらせて休憩しようとすると、既にお昼近くなっておりそろそろ冬臣さんが起床する時間になっていたのです。
あわあわとしていると、扉が開く音がして冬臣さんが起きたことを悟りました。必死に今の慌てた顔を隠そうとして扉とは逆の方を向いて顔を見られないようにしました。
「おはよう」
「おはようございます」
「かんざし。似合っているよ」
「あ、あっ、ありがとうございました。私もとても気に入りました」
冬臣さんは水を飲んで少量の米だけを食べてお茶を飲んでから歯磨きをする。いつも通りの光景。その背中だって、いつも通りのはずなのに。
(なんでこんなに男前に見えるのよ、いつもに増して……)
そういえば、私は冬臣さんの裸を見たことがまだ一度もない。
お風呂だって別で入るし当たり前だけれども。ふとその事実を今日塗り替えるかもしれないと考えてしまうと心臓の鼓動がドクンドクンと鳴って止まない。
「うん。良かった。誕生日おめでとうチヨ」
「わっ、冬臣さん」
寝ぼけていらっしゃるのかどうかわからない。もしかしたらそう思わせているだけかもしれないけれど、冬臣さんは私をぎゅっと抱きしめてきた。
「あの」
「好きだ」
「は、はいっ」
私が返事をして、気づいた頃には冬臣さんの唇がふに、と触れていた。その衝撃で呼吸が止まってしまい、どうにもできずに棒立ちしていると冬臣さんは私の髪を指ですくって口づけをし、そのままの流れで姫抱きして自室へ戻ろうとした。
「冬臣さん!?」
「安心して。俺に身を委ねてほしい」
下からの冬臣さんも美形で男前でした。ただ美しいだけではない冬臣さん。きりっと整った眉と目元、低い声の影響も相まって威厳もある方で、それはきっと軍人さんだからなのでしょう。その圧倒的な雰囲気に私は『はい』としか言えないのです。
「はい……」
部屋に敷かれた布団に寝かせられる前にかんざしを取って布団の外へと置く。私の長くてくるくると癖のある髪が胸の下ほどまで垂れている。
「いつもまとめ髪をしているから初めて見た」
「寝る部屋も時間も違いますしね」
「……そうだな」
前髪を耳にかけて私の視界には冬臣さんしか映らなくなりました。そして目を閉じると、またあの柔らかい感触が触れました。もごもごとしていると、ゆっくりと押し倒されながら徐々に口の隙間をこじ開けるように舌が侵入してきました。
「んっ、ふ、ぅ」
厚くて長い冬臣さんの舌が私の震える舌を包むようにしたかと思えば、今度はなぞるように奥まで一気に這ってきたりする。
ぞくぞくと鳥肌が立つような未知の感覚に戸惑いを隠せないのです。それでも、呼吸を整えて冷静さを取り戻していくと、鼻腔に空気が通り抜ける度に感覚が研ぎ澄まされてだんだん舌が触れ合う心地よさと快を感じられるようになりました。
「かわいい……食べてしまいたい」
「ん、ぇ、ぅう」
冬臣さんの鋭い目付きは、まるで私を本当に食べてしまおうとしているかのような獣でした。牙を剥き出しにして食らい尽くされてしまうのだろうか。
手を繋ぎ、指先を絡めてぎゅっと強く繋がれると冬臣さんの手の大きさを直に感じられました。今まで繋いだこともなかったから、こんなに大きいことも、指が太いことも知りませんでした。
ちゅ、ちゅ、と舌が絡まって吸い付いて離さないようにしている水音が部屋に響いていることに気が付いた頃にはもう私は冬臣さんの接吻によって思考が蕩けてしまっていました。
冬臣さんは大体、お仕事が終わって帰ってくるのは陽が昇る前。早朝よりも早い時間です。夜中の3時か4時くらいに帰ってきて、それから眠りについてお昼まで眠る時もあれば、その前に起きることもあるそうです。私がここに来てからは必ず昼前には起きるようになったらしいのですが、それはきっと、私がいるから私の生活になるべく合わせてくれようとしているのだろうと思います。
私が6時くらいに目を醒まして、鳥の鳴き声と日光を縁側で浴び、寒い部屋を暖めるために火を点ける。私は仕事をしていませんが、料理に洗濯、掃除、といった一通りの家事をした後に趣味の読書や執筆をしたり、運動をしていました。
女性は働くことはせずに家を守ることに努めなくてはならないと女学校で言われてきましたが、それが退屈だと感じてしまう私は女失格なのかもしれません。
まだまだ練度が足りず完璧にこなせるとはいきませんが、それなりに家事をこなすことができるようになって自分の時間が取れるようになってきました。
顔を洗い、うがいをして朝食を簡単に済ませてから軽く体操をして洗濯をしようとしました。それなのに、なんだか上の空になってしまって思うように作業が進みません。
「はあ」
今日も手際よく家事をこなしていつものように過ごそうとしたのですが、昨日の冬臣さんの発言が脳内で何度も再生されてしまってその度に思考が停止するのです。だから、違うことを考えて気を紛らわせようとしますが、冬臣さんの私服や部屋で着ているような和服を見るともう頭の中は彼でいっぱいなのです。
「ああ、チヨ、しっかりなさい!」
己の頬をパチンっと乾いた音が響くくらい叩いてみましたが、やはり気になってしまいます。
なんとかやらなければならない作業を終わらせて休憩しようとすると、既にお昼近くなっておりそろそろ冬臣さんが起床する時間になっていたのです。
あわあわとしていると、扉が開く音がして冬臣さんが起きたことを悟りました。必死に今の慌てた顔を隠そうとして扉とは逆の方を向いて顔を見られないようにしました。
「おはよう」
「おはようございます」
「かんざし。似合っているよ」
「あ、あっ、ありがとうございました。私もとても気に入りました」
冬臣さんは水を飲んで少量の米だけを食べてお茶を飲んでから歯磨きをする。いつも通りの光景。その背中だって、いつも通りのはずなのに。
(なんでこんなに男前に見えるのよ、いつもに増して……)
そういえば、私は冬臣さんの裸を見たことがまだ一度もない。
お風呂だって別で入るし当たり前だけれども。ふとその事実を今日塗り替えるかもしれないと考えてしまうと心臓の鼓動がドクンドクンと鳴って止まない。
「うん。良かった。誕生日おめでとうチヨ」
「わっ、冬臣さん」
寝ぼけていらっしゃるのかどうかわからない。もしかしたらそう思わせているだけかもしれないけれど、冬臣さんは私をぎゅっと抱きしめてきた。
「あの」
「好きだ」
「は、はいっ」
私が返事をして、気づいた頃には冬臣さんの唇がふに、と触れていた。その衝撃で呼吸が止まってしまい、どうにもできずに棒立ちしていると冬臣さんは私の髪を指ですくって口づけをし、そのままの流れで姫抱きして自室へ戻ろうとした。
「冬臣さん!?」
「安心して。俺に身を委ねてほしい」
下からの冬臣さんも美形で男前でした。ただ美しいだけではない冬臣さん。きりっと整った眉と目元、低い声の影響も相まって威厳もある方で、それはきっと軍人さんだからなのでしょう。その圧倒的な雰囲気に私は『はい』としか言えないのです。
「はい……」
部屋に敷かれた布団に寝かせられる前にかんざしを取って布団の外へと置く。私の長くてくるくると癖のある髪が胸の下ほどまで垂れている。
「いつもまとめ髪をしているから初めて見た」
「寝る部屋も時間も違いますしね」
「……そうだな」
前髪を耳にかけて私の視界には冬臣さんしか映らなくなりました。そして目を閉じると、またあの柔らかい感触が触れました。もごもごとしていると、ゆっくりと押し倒されながら徐々に口の隙間をこじ開けるように舌が侵入してきました。
「んっ、ふ、ぅ」
厚くて長い冬臣さんの舌が私の震える舌を包むようにしたかと思えば、今度はなぞるように奥まで一気に這ってきたりする。
ぞくぞくと鳥肌が立つような未知の感覚に戸惑いを隠せないのです。それでも、呼吸を整えて冷静さを取り戻していくと、鼻腔に空気が通り抜ける度に感覚が研ぎ澄まされてだんだん舌が触れ合う心地よさと快を感じられるようになりました。
「かわいい……食べてしまいたい」
「ん、ぇ、ぅう」
冬臣さんの鋭い目付きは、まるで私を本当に食べてしまおうとしているかのような獣でした。牙を剥き出しにして食らい尽くされてしまうのだろうか。
手を繋ぎ、指先を絡めてぎゅっと強く繋がれると冬臣さんの手の大きさを直に感じられました。今まで繋いだこともなかったから、こんなに大きいことも、指が太いことも知りませんでした。
ちゅ、ちゅ、と舌が絡まって吸い付いて離さないようにしている水音が部屋に響いていることに気が付いた頃にはもう私は冬臣さんの接吻によって思考が蕩けてしまっていました。
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