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5.ゆきさん
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本日は、冬臣さんの休日です。
そして、珍しいお姿をたくさん見ることができました。
例えば、朝に起きていることや、新聞を読んでいるところ、軍服が箪笥の近くにかけられたままの状態だとか。
「お茶です」
「ありがとう」
出会ってからまだ少ししか経っていないけれど、冬臣さんはとてもお優しい人だということがわかっています。
夜に仕事に出てしまうので私の生活とは真逆の時間を刻んでいますが、それでも、一緒にいる時は楽しいです。
冬臣さんが読書を始めようとしていたところにお茶を出して、私も一旦休憩をしようとした瞬間でした。
──ドンドンドン
「はーい」
誰か来たようです。
私は急いで扉を開けました。
「あら、あなたがチヨさんで」
「そうです、けど……」
そこに立っていたのは、艶やかな長い黒髪をさげた、美しい女性。
すらっと細長い脚といい香りのする大人。
私は急に胸が痛むのでした。
「ああ、おにい……冬臣はいます?」
「冬臣さんにご用でしたか。少々お待ちを……あ、あの、お名前伺っても?」
「ゆき、です」
その『ゆき』という名から連想されるのは、深々と降り積もる雪の中に漆黒の雪の女王。つり目がちな彼女の印象は、そんな感じでした。
居間の方まで行って、冬臣さんに声をかけました。
私の声、すこし震えていたかもしれません。
「ゆきさんという女性がいらしてますよ」
「ゆき、なぜ……ありがとう、今行く」
冬臣さんは面倒くさそうな表情をして本を置いて立ち上がる。
「お兄様。お久しぶりで」
「ああ、そうだな」
「おにいさま……?」
はて。この女性、冬臣さんの妹さんでしたか。
それなら納得の美貌。冬臣さんと同じ深紅の瞳が珍しいのも相まって、どこか人外じみた、思わずうっとりしてしまう美の暴力。
ぼおっとふたりを眺めてしまっていました。
「チヨさんに会いたくて参りましたわ」
「え、私」
「ええ。お兄様が結婚だなんて何事かと驚きましたが、まさかこんな愛らしい方を妻に迎えるとは。羨ましいですわ」
「は、はは」
そう言うとゆきさんは私を抱きしめて頭を撫でてきました。
背の高いゆきさんが私を抱きしめると、なんだか包容力があって落ち着きます。うっかり背中に腕を回してしまいました。
「はぁ……チヨさんかわいい……いい匂い。ん~……」
「ゆきさん?」
「おい」
私の首筋に当たるゆきさんの鼻先がくすぐったくて、彼女の方を見ようとした時、冬臣さんがゆきさんを制止するような声で止めさせたのです。
「チヨが困る」
「あ、いえ、私は大丈夫ですよ」
「そういうことではなく……」
冬臣さんが目を逸らしてぶつぶつと何か言いたそうにしているのだけが伺えましたが、あいにく私には彼が何を思ってそうしているのか見当もつきません。
「まあ、お兄様ったら……ふふ。それもそうね。では私は帰りますわ。今日の目的はチヨさんを見ることでしたからね。では」
「ああ、お茶でもどうぞ、あがっていってくださいな」
「いいの。お兄様の機嫌を損ねてしまうと良くないですから」
ゆきさんははにかみながら手を振って帰っていった。
なんだか不思議な雰囲気の人だなぁ。なんて思っていると、急に後ろから重みを感じました。すると、腕がぎゅっときつく……
ああ、抱きしめられているのですね。
「あの、冬臣さん? 最近どうしたのですか」
「チヨ。失いたくないんだ……俺は君に狂わされてしまったのかもしれない。今までこうなったことなどないのに。妹は完全に君を狙っている」
「はは、ご冗談を」
「いや」
ぎゅっとされた苦しさから逃げようと腕を掴んで離れようとすると、片腕が私の両肩ごと抱いて引き戻されました。
その強引さに驚いたせい?
それとも──
心臓がドクン、ドクンと鳴って煩いのです。
「冬臣さんっ、離して」
「離さない」
恥ずかしさで耳まで真っ赤になってしまっていたでしょうね。
そう思っていると、冬臣さんの唇が、私の首筋に当たっていました。
ちゅ、と軽く弾むような音がしました。
「は、ぇ」
戸惑って、硬直していると、何度も首筋を味わうように口づけをしてきます。
込められていた力もスッと抜けて冬臣さんに身体を委ねるような状態になってしまいました。
なんとか逃げようとしても、力が入らなくて逃げられない。
というか、なぜ私は逃げようとしているの……?
「このまま食らい尽くしてしまいたい……」
背中を支えられて、見つめ合うような体勢になっていたと思います。
その時に見た冬臣さんの瞳は、燃え盛る炎が揺れていました。
このまま抱かれてしまうのだろうか。まだお昼ですよ? 本当に良いのでしょうか? でも、私たちは一応夫婦ですし……で、でも心の準備ができてません!
思考が巡り巡って頭が破裂してしまいそうです。
「だが君はまだ若い。若すぎる。16にもなっていない。そんな君に手を出してしまうのは悪いことに思う」
「そ、そうですよね」
ああ、助かった。
このまま私の処女が去っていくのかと思っていましたが安心です。
ほっと胸をなでおろしました。
「しかし俺はチヨを抱きたい気持ちは揺るがない」
「うっ、あ、え、ぇっと」
なんてことを言うのだろうか!
そんな真っ直ぐな瞳で私を見つめないでくださいっ……
恥ずかしいを通り越して溶けてしまいそう。
これからの私は、彼に抱かれてしまうことを想定して生活する日々が続きそうです。
そして、珍しいお姿をたくさん見ることができました。
例えば、朝に起きていることや、新聞を読んでいるところ、軍服が箪笥の近くにかけられたままの状態だとか。
「お茶です」
「ありがとう」
出会ってからまだ少ししか経っていないけれど、冬臣さんはとてもお優しい人だということがわかっています。
夜に仕事に出てしまうので私の生活とは真逆の時間を刻んでいますが、それでも、一緒にいる時は楽しいです。
冬臣さんが読書を始めようとしていたところにお茶を出して、私も一旦休憩をしようとした瞬間でした。
──ドンドンドン
「はーい」
誰か来たようです。
私は急いで扉を開けました。
「あら、あなたがチヨさんで」
「そうです、けど……」
そこに立っていたのは、艶やかな長い黒髪をさげた、美しい女性。
すらっと細長い脚といい香りのする大人。
私は急に胸が痛むのでした。
「ああ、おにい……冬臣はいます?」
「冬臣さんにご用でしたか。少々お待ちを……あ、あの、お名前伺っても?」
「ゆき、です」
その『ゆき』という名から連想されるのは、深々と降り積もる雪の中に漆黒の雪の女王。つり目がちな彼女の印象は、そんな感じでした。
居間の方まで行って、冬臣さんに声をかけました。
私の声、すこし震えていたかもしれません。
「ゆきさんという女性がいらしてますよ」
「ゆき、なぜ……ありがとう、今行く」
冬臣さんは面倒くさそうな表情をして本を置いて立ち上がる。
「お兄様。お久しぶりで」
「ああ、そうだな」
「おにいさま……?」
はて。この女性、冬臣さんの妹さんでしたか。
それなら納得の美貌。冬臣さんと同じ深紅の瞳が珍しいのも相まって、どこか人外じみた、思わずうっとりしてしまう美の暴力。
ぼおっとふたりを眺めてしまっていました。
「チヨさんに会いたくて参りましたわ」
「え、私」
「ええ。お兄様が結婚だなんて何事かと驚きましたが、まさかこんな愛らしい方を妻に迎えるとは。羨ましいですわ」
「は、はは」
そう言うとゆきさんは私を抱きしめて頭を撫でてきました。
背の高いゆきさんが私を抱きしめると、なんだか包容力があって落ち着きます。うっかり背中に腕を回してしまいました。
「はぁ……チヨさんかわいい……いい匂い。ん~……」
「ゆきさん?」
「おい」
私の首筋に当たるゆきさんの鼻先がくすぐったくて、彼女の方を見ようとした時、冬臣さんがゆきさんを制止するような声で止めさせたのです。
「チヨが困る」
「あ、いえ、私は大丈夫ですよ」
「そういうことではなく……」
冬臣さんが目を逸らしてぶつぶつと何か言いたそうにしているのだけが伺えましたが、あいにく私には彼が何を思ってそうしているのか見当もつきません。
「まあ、お兄様ったら……ふふ。それもそうね。では私は帰りますわ。今日の目的はチヨさんを見ることでしたからね。では」
「ああ、お茶でもどうぞ、あがっていってくださいな」
「いいの。お兄様の機嫌を損ねてしまうと良くないですから」
ゆきさんははにかみながら手を振って帰っていった。
なんだか不思議な雰囲気の人だなぁ。なんて思っていると、急に後ろから重みを感じました。すると、腕がぎゅっときつく……
ああ、抱きしめられているのですね。
「あの、冬臣さん? 最近どうしたのですか」
「チヨ。失いたくないんだ……俺は君に狂わされてしまったのかもしれない。今までこうなったことなどないのに。妹は完全に君を狙っている」
「はは、ご冗談を」
「いや」
ぎゅっとされた苦しさから逃げようと腕を掴んで離れようとすると、片腕が私の両肩ごと抱いて引き戻されました。
その強引さに驚いたせい?
それとも──
心臓がドクン、ドクンと鳴って煩いのです。
「冬臣さんっ、離して」
「離さない」
恥ずかしさで耳まで真っ赤になってしまっていたでしょうね。
そう思っていると、冬臣さんの唇が、私の首筋に当たっていました。
ちゅ、と軽く弾むような音がしました。
「は、ぇ」
戸惑って、硬直していると、何度も首筋を味わうように口づけをしてきます。
込められていた力もスッと抜けて冬臣さんに身体を委ねるような状態になってしまいました。
なんとか逃げようとしても、力が入らなくて逃げられない。
というか、なぜ私は逃げようとしているの……?
「このまま食らい尽くしてしまいたい……」
背中を支えられて、見つめ合うような体勢になっていたと思います。
その時に見た冬臣さんの瞳は、燃え盛る炎が揺れていました。
このまま抱かれてしまうのだろうか。まだお昼ですよ? 本当に良いのでしょうか? でも、私たちは一応夫婦ですし……で、でも心の準備ができてません!
思考が巡り巡って頭が破裂してしまいそうです。
「だが君はまだ若い。若すぎる。16にもなっていない。そんな君に手を出してしまうのは悪いことに思う」
「そ、そうですよね」
ああ、助かった。
このまま私の処女が去っていくのかと思っていましたが安心です。
ほっと胸をなでおろしました。
「しかし俺はチヨを抱きたい気持ちは揺るがない」
「うっ、あ、え、ぇっと」
なんてことを言うのだろうか!
そんな真っ直ぐな瞳で私を見つめないでくださいっ……
恥ずかしいを通り越して溶けてしまいそう。
これからの私は、彼に抱かれてしまうことを想定して生活する日々が続きそうです。
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