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地球へ

第200話 愛を持つ者

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 こんなはるか未来に召喚されたマイだったが、何故かこの時代の地球の事が、気にはならなかった。
 マイの召喚された場所は、地球をはるかに離れた宇宙ステーション。
 そこがマイの生活拠点であり、任務への出撃拠点でもあった。
 この時代の地球は、召喚前のマイの髪の毛から創られたクローンの、アルファによって支配されていた。
 そして地球を含んだ太陽系は、宇宙地図からその姿を消していた。


 カツーン、カツーン。
 ベータと別れたマイ達は、その部屋を出て、大ホールを列車へと向かう。
 ミサはアイをおぶっている。
 ベータに憑依されて体力の尽きたアイ。
 最初はマイがおぶろうとしたのだが、これは自分の役目だと、ミサが強引に割り込んだ。

「私達、地球にいるアルファに勝てるのかな?」
 長い沈黙が続く中、マインがその沈黙をやぶる。
 いつもなら、こんな沈黙はマイがやぶってくれる。
 だけどベータから聞かされた衝撃の事実に、今のマイは、それどころではなかった。
 そんなマイを見て、マインは自分がその役目を代わるしかないと思った。

 マイもミサも、その問いには答えられない。
 特にマイは、ベータの話しで聞いたアルファに、勝てる気がしなかった。
 召喚前の自分を元にしたクローンのアルファ。
 そのアルファに優ってると思える要素が、マイにはなかった。

 カツーン、カツーン。

 長い沈黙の中、足音だけが響く。
「さあな、愛を持つ者に敗れたいみたいだし、なんとかなるんじゃねーの?」
 再び訪れた沈黙を、今度はミサがやぶる。
 マインの問いを、マイは答えられないと、ミサには分かってた。
 アイがミサの背中でお眠り中の今、マインの問いにはミサが答えるしかなかった。
 でも安易に勝てるとは、ミサは言えなかった。

「その愛を持つ者ってのも、よく分からないのよね。」
 マインは歩きながら考えこむ。
「まさか、私とマイで愛しあえ、とか言わないよね?」
 マインはマイへと視線を向ける。

 マイには自覚はないが、マイの魂が男である事は、確定している。
 それはつまり、そう言う事なのかと、マインは思う。

 マイはそんなマインに、視線を向ける。
 思わずマインは、視線を逸らす。
「多分、そう言う事じゃ、無いと思うよ。」
 マイは声の音量は小さいが、はっきりとした意思をもって、そう言いきる。
 そんなマイに、マインは視線を戻す。

「うまく言えないけど、自分の事よりも他人を思いやる心とか、いたわれる心とか、そう言う事だと思う。」
「え、何それ?」
 マイの発言の意図が、マインには分からない。
「それって、自分はどうなってもいいけど、他人を助けろって事?」
「それは、」
 マインの反論に、マイは言葉が出ない。
「人はね、自分の心に余裕が生まれて、初めて他人を助けられるのなのよ。
 あなた、他人のために死ぬつもりなの、マイ。」
 マインはマイの思想の危うさに警鐘を鳴らす。
 マイは何も言い返せず、押し黙る。

「ふ。」
 そんなふたりの会話に、ミサは思わずニヤける。
 そして思い出す。
 以前召喚されたマイに、マインを庇って死んだマイがいた事を。
 この馬鹿げた行為こそ、愛を持つ者の証なのかもしれない。
「馬鹿は死んでも治らない、か。」
 ミサはつぶやく。

 マインに対して、うまく説明出来ないまま、マイ達は列車にたどり着く。
「遅かったじゃないか。」
 列車の中から、メカニックマンのジョーが降りてきた。
「な、なんでおまえがここにいる!」
 ミサは思わず叫ぶ。
 この大ホールに来るには、ここに停車している列車に乗るしかない。
 しかもこの直通列車は、この一両しかない。
 その一両がここに停車している限り、新たな来訪者は、来る事が出来ないはず。

「この区画の切り替えは、俺の権限で自由に出来るんだぜ。
 忘れたのか?」
「それは、居住区に限った話しだろうが!」
 ジョーの発言に、ミサはすぐさま反論する。
 居住区の増築改築は、ジョーの思念でどうとでも出来た。
 実際それでメドーラの部屋を新たに作り、マイの部屋もマイの活躍にともない、広くなった。

「きょ、居住区みたいにはいかなくても、ふ、不可能ではない、わ。」
 ミサにおぶされたままの、アイがつぶやく。
「アイ、気がついたか。」
「ええ、おかげさまで。」
 意識を取り戻したアイにミサは安堵し、アイはミサの背中から降りる。
 そしてアイは、話しを続ける。
「区画をいじらなくても、転移装置の設置くらいなら、あるいは」
 アイはそこまで言うと、足元がふらつく。
「アイ!」
 倒れそうになるアイを、マイが走りこんできて、支える。
「ありがとう、マイ。それに、マインも。」
 アイは礼を言う。
 マインも倒れこむアイに、駆け寄っていた。
 マイに少し、遅れをとったが。

「なるほど、そう言う事か。」
 ミサは、アイの言わんとする事を理解する。
 そしてそのまま、ミサはジョーを殴る!
 ミサの拳は、ジョーの身体をすり抜ける。
「フォログラフ?」
 それを見て、マインはつぶやく。
「ああ、そう言う事。」
 ミサは列車内の乗車口付近から、一枚のカードらしき物を拾い上げる。
 ジョーのフォログラフ映像が、少し乱れる。

「居住区みたいに自由には出来なくても、これを仕掛ける事くらいは、出来るわな。」
 ミサは拾い上げたカードを、あった所へ落とす。
 乱れたジョーのフォログラフ映像は、元に戻る。
「悪趣味すぎるぜ、ジョー。」
 映像が戻ったジョーに対して、ミサはニヤける。
「勝手な行動をとった、おまえ達に言われたくないな。」
 映像が戻ったジョーもニヤける。

「ち。」
 ミサは思わず舌打ち。
「で、何しに来たんだ、ジョー。」
 随分遠回りになったが、ミサはやっとジョーがここに来た理由を尋ねる。
「まさか、勝手な行動を取った私達を、咎めに来た訳じゃ、ないよな?」
 と言ってミサはニヤける。
「いや、マイとマインがどこまで知ったのか、それを確かめにきた。」
「え?」
 マイはジョーの発言に驚く。
 どこまで、という事は、ベータが話した内容には幾つかの段階があって、その全てを話してはいなかった、という事なのだろうか。

「ああ、安心しろ。ベータは肝心な所を、ぼかしてくれたぜ。」
「そうか、安心した。そこは自分達で、たどり着かないといけないからな。」
 ミサの答えに、ジョーは安心する。
「ねえ、どういう事よ。ちゃんと説明しなさいよ。」
 横で聞いてたマインは、納得いかない。
 ベータの話した内容は、全てではなかった。
 その先があるというのだ。
 マイは、そんなマインの肩に手を置いて、首をふる。
 マイには、なんとなくその意味が分かった。

 愛を持つ者。
 この言葉の意味は、自分でみつけないといけない。
 マイは帰り道でのマインの態度を見て、そう確信する。

「そんな事よりも、ジョーに確認したい事があるんだけど。」
「そんな事?」
 マインは、自分が聞きたい事をそんな事と言われ、少しピクつく。
「なんだ?」
「僕のアバター体、作ったのはジョーだよね。
 なんで女性型で作ったの?」
「それは前にも言ったじゃないか。」

 マイのアバター体が女性型である理由。
 それは以前にも聞いた。
 その時は、マイの性格が女々しくて、女の腐った様な性格だから、との答えが返ってきた。
 しかし、ベータの話しからして、真相は違うはず。

「ほんとは違うんでしょ。
 本当の事を話してよ、ねえ!」
 思わず叫ぶマイは、涙声だった。
「分かった、本当の事を話そう。」
 ジョーも、ベータからある程度話しを聞いてしまったマイには、ちゃんと言わなければいけないと、覚悟を決める。
「ただ、この通信は傍受されてる可能性が高い。
 だから、エスの53区画に来てくれ。
 そこで直接話そう。」

 ここで、ジョーのフォログラフ映像が消える。
 同時に、映写機と思われるカードらしき物も、消え去った。

「エスの53区画か。
 また厄介な所を指定したもんだぜ。」
 ミサはぽりぽりと頭をかく。
 マイ達四人は、列車に乗ってこの大ホールを後にする。
 そのエスの53区画とやらには、今乗っている列車の終点、つまりこの列車に乗った駅で、乗り換えて向かう事になる。
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