未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

文字の大きさ
上 下
199 / 215
地球へ

第199話 四機の試作品

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に女性型アバター体に魂を召喚されたマイは、やはり男だった。
 しかし召喚前の記憶がほとんど残ってない今のマイには、自分が男であるとの自覚はなかった。
 マイが女性として召喚されたのは、男嫌いのマインと仲良くなるためだと言う。
 この時代の人類は、このふたりに何をさせたいのだろうか。
 いや、このふたりの召喚については、ベータが深く関与している。
 ベータはいったい、何を考えているのだろうか。


「で、あなたは私達に、何をさせたい訳?」
 自分が男という自覚の無いマイの事を受け入れたマインは、改めてベータに問う。
 マイもそれが気になって、自然とベータに視線が向かう。

「それは、地球をアルファから取り戻すためだよ。」
 ベータはさも当然の様に、平然と答える。
「え、僕達だけで?」
 ベータのその答えに、マイは驚く。
 それはマインも同じで、マインもマイの隣りで驚きの表情を浮かべる。
 アルファはこの時代の人類と戦争して、地球を護りぬいた。
 そんなヤツ相手に、マイとマインだけで、何が出来るのだろう?

「混乱の世の中を治めるには、暴力による統一しかない。」
 不安がるマイ達をそのままに、ベータは語りだす。
「そんな暴力で統一した者は、いつか愛を持つ者に取って代わられる事を、望んでいる。」

 ベータの持論に、マインは呆気に取られる。
「何言ってるの、意味が分からない。」
「いや、なんとなく分かる気がするよ。」
 マインの横で、マイは理解を示す。
 ベータもアルファも、元は召喚前のマイの髪の毛を元に創られた、クローン人間。
 マイにも通じる所があるのだろう。

「分かるって、地球護りぬいたヤツ相手に、私達ふたりで何が出来るの?」
 理解を示すマイに、マインは反論する。
「それに、愛を持つ者って誰よ。
 私とマイじゃなくて、もっと適任者がいるんじゃないの?」
 そんなマインに対して、マイは首をふる。
「多分、僕達が適任。
 そのためのシリウス構想でしょ?」
 マイはベータに視線を向ける。

 ベータはニヤリとニヤける。
「ふふ、やっぱりマイには分かるんだね。」
「いいえ、詳しくは分からないわ。説明してちょうだい。」
 流石のマイでも、朧げにしか分からない。
「私には、さっぱり分からないわ。」
 マインはお手上げだった。

 そんなマインに、ベータが問いかける。
「マイン、君はシリウス構想に対して、どんな認識なんだい?」
「そんなの、高性能な戦闘機の開発でしょ。」
 マインは、さも当然の様に、そう答える。
 しかしベータは首をふる。
 そんなベータの仕草に、マインは少しカチンとくる。
「多分、その開発の目的が、シリウス構想なんだと思う。」
 ベータに対して文句を言いたげなマインを制するように、マイが口をはさむ。

 ベータは、マイの発言に対してうなずく。
「確かに元は、古文書に書かれた思想を実現させる、戦闘機の開発だった。
 でも、アルファがその開発に、意味を持たせた。」
「アルファ。」
 ベータの発言を聞いて、マインはつぶやく。
「なるほど、私とマイ。
 シリウスアルファーシリーズのパイロットしかこの場にいないのは、そういう事ね。」
 マインも朧げながら、理解する。

 マイの戦闘機は、シリウスアルファーワン。
 そしてマインの戦闘機は、シリウスアルファーツー。
 アルファーシリーズは試作品として造られた機体で、後のベータシリーズとガンマシリーズとは、意味あいが違った。

「でも、私とマイだけで足りるの?」
 自分達の機体に思いを馳せたマインは、新たな疑問が浮かぶ。
「確かアルファーシリーズって、四体作られてるでしょ。
 私達も、四人必要なんじゃないの?」
「それなら、心配ない。
 アルファースリーには、僕が乗るから。」
 ベータはマインの疑問を、あっさり解決。
 右手の親指を立てて、自分の方に傾ける。

 とは言え、今のベータはアイに憑依している。
 この状態で、どう操縦するのだろうか。
 マイとマインのそんな疑問を察知して、ベータは答える。
「ああ、アルファースリーはふたり乗りだから、アイとミサが乗るんだよ。
 僕はアイに憑依させてもらうけどね。」
「ち。」
 ベータの答えに、ミサは顔をそむけて舌打ち。

「えー、じゃあ、僕達のサポートは、どうなるの?」
 マイは思わず叫ぶ。
 アイとミサは、サポートAI。
 マイ達の戦闘機での出撃時は、宇宙ステーションの専用カプセルから、マイ達をサポートする。
「それなら、アルファースリーの中からサポートするから、問題ないよ。」
 とベータは、マイの疑問をあっさり解決。
 しかしマイには、新たな疑問が浮かぶ。

「じゃあ、あなたのサポートは、どうなるの?」
「僕にサポートはいらない。と、言いたいけれど、」
 ベータはそう言うと、なぜか照れた様な表情を浮かべる。
「ナコとアイツウがいるじゃん。
 何のためのチームだと思ってんの?」
 ベータは照れながら、その台詞を言いきる。

 ナコとアイツウ。
 ふたりのパートナーは遠出していて、やる事の無くなったサポートAI。
 今はマイの部屋で、暇してる。

「なるほど、これで僕達三人でトライフォースが出来るね。」
 ベータの発言に、マイはうなずく。

 トライフォース。
 戦闘機三機による、三角形を意識した三身一体の陣形。
 この陣形の応用が、この作品における基本戦術だった。

「でも、あと一機足りないわ。」
 喜ぶマイを尻目に、マインはもうひとつの疑問を投げる。
 アルファーシリーズの機体は、全部で四機。
 マイとマイン、ベータが乗っても、あと一機残っている。
「シリウスアルファーゼロは、アルファの機体なんだよ。」
 マインの疑問に、ベータが答える。

「アルファ?ああ、アルファね。」
 マインは一瞬、地球にいるアルファと、戦闘機のアルファーシリーズのアルファーとが、ごっちゃになった。
「でも、アルファーゼロがアルファの機体って、どう言う事?」
 マイは頭がこんがらがる。

 それは、アルファーシリーズ最後の機体、アルファーゼロはこの宇宙ステーションにはなく、地球にあるって事。
 そして、地球にいるアルファの機体。
 この事は、何を意味するのか、マイには分からない。
「それは、地球に行けば分かるんじゃない?」
 マイの疑問に、マインが答える。
「それがシリウス構想、なんでしょ?」
 マインはベータに視線を向ける。

「そう言う事。」
 と言ってベータは目を閉じる。
 するとその場に、アイが倒れこむ。
「おい、アイ!」
 そんなアイの身体を、走りこんできたミサが受け止める。
「しっかりしろ、アイ!」
 ミサはアイに呼びかける。
 ベータがアイへの憑依を解いたのだ。
「わ、私は、平気だから。」
 アイは消えいる声で、笑みを浮かべる。
「だから、無理するなって。」
 ミサにも、アイが無理してる事くらい分かる。

「それじゃあ、地球への出発は、準備ができ次第って事で。」
 マイとマインの頭の中に、ベータの声が響く。
 同時に、ベータの身体を入れた装置が、床下へと格納されていく。

 マイ達はアイの回復を待って、この部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

転生少女は大戦の空を飛ぶ

モラーヌソルニエ
ファンタジー
薄っぺらいニワカ戦闘機オタク(歴史的知識なし)が大戦の狭間に転生すると何が起きるでしょう。これは現代日本から第二次世界大戦前の北欧に転生した少女の空戦史である。カクヨムでも掲載しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

戦争と平和

澤村 通雄
SF
世界が戦争に。 私はたちの日本もズルズルと巻き込まれていく。 あってはならない未来。 平和とは何か。 戦争は。

処理中です...