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地球へ

第197話 古文書の正体

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代にマイ達を召喚するきっかけになった、とある古文書。
 これを書いた人物のクローンをこの時代に創り出したが、彼は地球を占領してしまう。
 その地球を奪還するため、ふたり目のクローンが創られた。
 ひとり目の時は、彼の才能を開花させる方向で育てて、失敗した。
 ならば今度は、生前の彼の様に育てる事にした。
 その育てる場所は、夢の中だった。
 生前の彼の人生をなぞる様に、ふたり目のクローンは育てられた。
 しかしある時、彼は気づく。
 この世界が夢である事に。
 それからの彼の行動は、やばかった。
 夢の中なので、なんでも思い通りに出来た。
 彼は好奇心のおもむくまま、その才能を開花させていく。
 ひとり目のクローンと同じ様に。
 さらに彼は、自分の意識を深く潜り込ませる事で、集団無意識に到達してしまう。
 ここで彼は、自らの出生の秘密を知る。
 ひとり目のクローンとの対立を迫られる中、彼はひとり目のクローンの気持ちを、集団無意識を通じて知る事になる。
 それは同じ自分として、共感出来るものだった。
 ひとり目のクローンと対立するか、それとも共闘するか。
 面白そうなんで、対立する方を選んだ。
 ふたりのクローンの間で、激しい戦いが繰り広げられたが、これはふたりにとって、盛大なじゃれあいにすぎなかった。
 初めて現れた対等な人間との競争を、楽しんだだけだった。
 ふたりとも、本気で殺し合う気は、これっぽっちもなかった。
 ふたりは集団無意識を通じ、分かりあっていた。
 それに気づいた人類は、古文書を書いた本人の魂を、この時代に召喚する事にした。
 そしていつしか、眠り続けるふたり目のクローンの身体は衰弱し、死をむかえる。
 そんな彼の魂は、意識を集団無意識に潜り込ませる事で、この世にとどまる。


 アイに憑依した少年は、自らベータと名乗る。
 ベータに対してアルファも居る事を告げ、マイの事をゼロと言う。
 マイはガンマではないかと、マインは思った。

「それなら、これを見てくれた方が早い。」
 ベータは、自らの肉体が入った装置の下部の引き出しから、一冊のノートを取り出す。

 そのノートを見て、マイは青ざめる。

 薄い水色のノート。
 表紙に何やらアルファベットが印字されていて、Cの文字がやけに目立つ。

「何これ。ノート?」
 手渡されたノートを、マインは表裏ひっくり返しながら、まじまじと見つめる。
「この時代に、こんなのにお目にかかれるなんて、思ってもみなかったわ。」
「それがシリウス構想の古文書だ。」
「え?」
 ベータの言葉に、ノートを調べるマインの手が止まる。

「もっともそれはレプリカ。
 本物はアルファが破棄した。」
 自分を見つめるマインに対して、ベータは言う。
 マインはノートをぱらぱらと、めくってみる。
「本物を破棄したところで、写しはごまんとある。
 なにせ、有名な古文書だからな。」
 ノートを熱心に調べるマインに、その言葉は入らない。

「これは、日本語?」
 ノートを開いて、マインはそう感じる。
 漢字らしき物が見られるが、それは他のアジア圏の国でも使われている。
 しかし画数の少ない文字が混じるのは、マインの記憶では日本語だけだ。
 これが日本語なら、これを読める人物が、ここにいる。

「ねえマイ、あなたなら読めるんじゃない?」
 マインはマイの方へと視線を向ける。
「どうしたのよ、マイ!」
 マイは、青ざめた顔で、立ち尽くす。
「な、なんでもないわ。」
 マイは作り笑顔を浮かべる。
 マイが無理してる事くらい、マインにも分かる。

「あなたの何でもないは、信用できないわ。」
 マインは真剣な眼差しで、マイを見つめる。
「僕も、これ以上みんなに、迷惑かけるつもりはないよ。」
 マイも真剣な眼差しで、マインを見つめ返す。

 それは、数話前の出来事。
 しかし、お互いのパートナーによって、消された記憶。
 マインもマイも、何を根拠にそう言ったのか、よく分かっていない。
 しかし、何故か確信はあった。

「そう、分かったわ。もう何も言わない。
 で、あなたにはこれが、読めるんじゃない?」
 マインはそう言って、持ってるノートを胸の高さに持ってくる。
「そ、それは。」
 マイの表情は、一瞬くもる。
 だけどマイは、すぐに気を取り直す。
「ちょ、ちょっと、見せてもらえるかな。」
 マイは気丈にふるまってみせるが、その声は、わずかに震える。

 マイがノートを受け取ろうと伸ばす手も、かすかに震える。
 しかしマインは、何も言わない。
 マインは黙ってノートを差し出す。
 マイはノートを受け取り、そのノートを開く。

「やっぱり。」
 マイは開口一番、そう吐き捨てる。
「これ、僕が書いたノートじゃん。」
 マイはアイに視線を向ける。
 このアイの身体には、ベータが憑依している。
「え、うそ。」
 マインはその事実に驚く。
 マイには読めるだろうとは思ったが、まさかマイが書いた物とは、思わなかった。

「これは僕が物語を作るために書いた、設定集。
 なんでここにあるのよ。」
 マイは問いただす。
 その相手は、アイでもベータでも、どちらでもよかった。
「それが、シリウス構想の元になった、古文書だからよ。」
 その言葉を発したのは、アイなのか、それともベータなのか。
 マイには判断出来なかったが、そんな事はどうでもいい。
 問題なのは、なぜ自分の書いたノートが、ここにあるのか、だ。

「じゃあ、マイの発想が、転送システムを完成させたの?
 やるじゃん、マイ。」
 マインはマイの腰をパンと叩く。
「違う、僕じゃない。」
 腰を叩かれたマイは、反射的に思ってた言葉を口にする。
「ぼ、僕は、アバター体に魂を召喚させるなんて、書いてない。」
 マイはマインを見つめ、震えを抑えながら、なんとか口にする。

「でも、それらしき事は、書いてた。」
 ベータのその言葉に、マイもマインも、ベータの憑依したアイに視線を向ける。
「確か、物体に意識を飛ばして、」
「あ。」
 ベータのその言葉に、マイは心当たりがあった。
「その物体から、辺りの様子をみる。ってのがあったよね?」
 マイの感嘆の声には構わず、ベータは続けた。

「それって、ライブカメラ?」
 マインはつぶやく。
 色々な場所に設置されてるカメラを、専用のゴーグルから覗く事で、その場にいる雰囲気を味わえる。
 これはマインの時代には、普通にあった技術だ。
 対応するカメラは世界中を網羅していた。
 そしてGPS衛星と連動する事により、部屋に居ながら、世界中を旅する臨場感を味わえた。
 同じ様に旅をする人と、語り合う事も可能だった。

「いや、それじゃない。」
 と言ってベータは首を振る。
「マイの書いた設定では、文字通り物体に意識を飛ばすもの。
 転がすボールに意識を飛ばして、辺りの様子を探る。
 と言った物かな。」
 とベータは説明する。

「でも、アバター体への魂召喚だなんて、書いてない。」
 マイは首を振る。
 自分の書いた内容が、そこからかけ離れた物に変化されてるのが、恐ろしく感じる。
「そりゃあ、君の時代には無かった技術が、ふんだんにあるからね。
 この時代にあった解釈が、なされただけの事だよ。」
 と言ってベータはニヤける。

「なるほど。確かに、過去の時代には考えられなかった事が、はるか未来では、日常になってるものだもんね。」
 マインはしきりにうなずく。
 そしてマインに疑問が浮かぶ。
「あれ、そしたらシリウス構想って、この古文書の内容を、拡大解釈したって事?」

「それには、ちょっとした説明がいるな。」
 こうしてベータは、くそ長い説明を始める。
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