未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

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地球へ

第183話 思いついた設定は全部ぶち込もう

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 リムとの合同訓練から戻って来たマイ。
 マイの部屋はアイツウに占領され、半分コンピュータルームと化していた。
 その傍らに、ヘルメットがひとつ、落ちていた。
 マイはこれが気になって仕方なかったのだが、前回のお話しに組み込む余裕は無かった。
 このヘルメットはカードバトル用サポートヘルメットだった。
 このヘルメットのゴーグル部分にカードの情報が表示される。
 そのカードの効果はもちろん、効率的な使い方や、敵に回した時の対処法なども、脳内に直接伝えられる。
 このヘルメットは、プレイングミスの無いサポートAI達と、マイが楽しくデュエル出来る様に、アイツウが作ってくれた物だった。


 アイツウが弾き出したリムの現状分析に、リムのパートナーであるナコは、ショックを受ける。
 それは、アイツウも同じだった。
 しかし、弾き出された分析結果を見てもよく分からないマイは、ショックの受けようがなかった。

「そんな、リムが、リムが。」
 ナコはその場にしゃがみこむ。
 そして泣き出した。
「うわーん。」

「え、どうしたのよ。」
 マイにとって、ナコのこの行動は意外だった。
 ナコはリムのパートナーであるサポートAIだ。
 サポートAIが泣くなんて、マイは思いもしなかった。

「どうしたのよ、ナコ。しっかりしてよ。」
 マイはナコの前にしゃがみこみ、ナコの両肩を揺らす。
 そんなマイの両手を、ナコははねのける。
「ありがとうマイ。私の事心配してくれて。あなたも大変なのに。」
「え?」
 ナコは泣きやみ、マイに笑顔を向ける。
 マイには、ナコの言葉の意味が分からない。

 しかしナコの笑顔は続かない。
 ナコの表情はすぐに曇る。
「ごめんなさい。今は誰とも話したくないの。」
 と言いながらナコは立ち上がり、どこからともなく、折り畳まれた何かを取り出す。
 その折り畳まれた何かを、部屋の隅に放る。
 その何かは折り畳み状態が解除されていき、部屋の床に着くと同時に、簡易テントになった。
「今は、ひとりにして。」
 と言い残して、ナコは簡易テントの中に引き篭もった。

「うーん、ひとりになりたいのに、なんで僕の部屋なんかな。」
 とマイは感想をつぶやく。
「仕方ないじゃない。」
 と、アイツウはマイの疑問に答える。
「リムの部屋だと、リムとの思い出が多すぎるんだから。」
「そっか。」
 アイツウのその言葉が、マイにもなんとなく分かる気がした。
「私だって、そうだから。」
 とアイツウは小声で続ける。

「ねえ、リムに何があったの。
 僕にも分かるように説明してよ。」
 とマイは話題を戻す。
「そうね。」
 と言ってアイツウは、モニターを見上げる。
 モニターには訳の分からないデータの羅列が続いている。
 それが何を意味してるのか、マイには分からない。
 その説明をしてほしいのだが、なぜかナコもアイツウもはぐらかす。

 そんなマイを無視して、アイツウはモニターとキーボードを消す。
 消すと言うのは、画像オフではない。
 文字通りモニターとキーボードの存在を消したのだ。
「ちょっと、何するのよ。」
 説明を求めるマイは、納得いかない。
「これは、いつまでも表示していい物では、ありません。」
「じゃあ、説明くらいしてよ。
 リムに何があったのよ。」
 アイツウはマイの口もとに人差し指をあて、マイの発言を制する。

「これは最高機密事項です。
 これ以上、口にするのはやめなさい。」
 アイツウの表情はキツい。
 だけどマイも、納得いかない。
 口もとに当てられたアイツウの人差し指をどかし、マイも反論する。
「何でよ。僕がリムの事を心配するのが、なんで」
「ここがコンピュータルームならば、私達三人、消されてます。」
 マイが言い終わる前に、アイツウは反論する。

「え、三人?」
 マイにとって、それは数が合わない。
 アイツウとナコ。あとひとりは、誰だろう?
「理解などしてなくても、見た瞬間、あなたも消されるのです。」
 とアイツウは、最後の数合わせをする。
 マイの理解は、追いつかない。
「これは、それほどやばい機密事項なのです。
 今この区間に居るのが私達だけで、助かりました。」

「そ、そんな。」
 やっとマイの理解が追いつく。
「僕はただ、仲間の心配をしてるだけなのに。」
 マイの背中が震える。
 対してアイツウは、かける言葉が見つからない。
「みんな僕のそばから居なくなっていく。
 僕もう、やだよ。」
 マイの瞳から、涙がこぼれる。

「マイ。」
 アイツウはマイが、不憫に思えた。
 はるか太古の時代から、この時代に召喚させられた。
 そして戦争をさせられ、仲間を失った。
 なぜマイが、こんな思いをしなければいけないのか。
 それはマイが、シリウス構想の根幹をなす魂である事を、アイツウは知っている。
 だからこそ、マイが不憫に思えてならない。

「そうだマイ、デュエルしましょうか。」
 とアイツウは、唐突に話題を変える。
「デュエル?」
「マイにもカードデータが理解出来る様に、これを作っておいたわ。」
 と、アイツウは今回のお話しの冒頭に登場した、ヘルメットを手渡す。
 マイはおもむろに、ヘルメットをかぶる。
 アイツウは一枚のカードをマイに渡す。
 マイの脳裏に、そのカードの効果が浮かぶ。

「へー、いいじゃんこれ。」
 これならサポートAI相手でも、いい勝負が出来そうだ。
 やる気になったマイだが、アイツウは水をさす。
「その前に、購買からメロンパン買ってきてもらえますか?」
「え?」
 話題の切り替えに、マイの理解が追いつかない。

「実は私、そろそろエネルギー切れなのです。
 少し無茶をしすぎました。」
 とにっこり笑うアイツウだが、アイツウの着る簡易ドレスは、その布地が安物っぽく変化していた。
 事の重大さを、マイも理解する。
「でも僕、購買なんて行ったことないよ。」
 マイはいつも、食堂で食事を済ませていた。
 その隣にある購買には、行った事が無かった。

「それなら私が、ナビゲートいたします。」
 とアイツウは、マイの額に左手をかざす。
 マイの脳裏に、購買へと進む目線が浮かぶ。
 棚からメロンパンを取り、レジに進む。
 自動レジを通して、精算機にコインを投入。
 そして帰路につく。

「精算には、このコインを使って下さい。」
 アイツウは一枚のコインを、マイに手渡す。
「分かったよ、アイツウ?」
 マイは、アイツウを見てゾッとする。
 少し目を離してたら、アイツウは変わってた。

 簡易ドレスの布地は、さらに安物感を増す。
 肌も普段は人間と変わらないが、いかにもな作り物感をかもしだす。
「ど、どうしたのよ、アイツウ。」
 それはマイへのナビゲートに、エネルギーを使ってしまったからなのだが、マイには分からなかった。

「エネルギー不足により、生体維持モードに移行します。
 マイ、お願いです。急いでください。」
 アイツウのその声も、いかにもな人工音声に変わっていく。

「分かったよアイツウ。急いで行ってくるね!」
 マイは部屋を飛び出した。
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