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地球へ

第182話 未来のコンピュータ事情など知らん

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に召喚されたマイは、泥沼と化していた北部戦線の激戦を終わらせた。
 しかしマイの心は晴れない。
 この戦いにより、ユアとケイと言うふたりの仲間には、もう二度と会えなくなった。
 この先ふたりの出番が無くなるのだが、これがアニメ化された時、ふたりの声優さんに申し訳ない。
 これからは、回想シーンという形で、ふたりの出番もあると思う。
 しかしそれは、アニメの監督さんに任せよう。
 私はただ、物語を進めるだけだ。
 そしてマイの心が晴れない理由は、まだあった。
 それがリムの変容。
 久しぶりに会ったリムは、マイにとって、遠く離れた人になっていた。
 残る仲間はただひとり。
 マイはそのひとりに、僅かな希望を託す。
 この物語の初期40話くらいしか出ていない、その人物に。
 そんな希望の旧キャラマインは、マイさえ忘れて、作者さえどうでも良くなった初期設定を、今さらほじくり返している。
 その事にマイは、まだ気づいていない。


 ぷしゅー。
「ただいまー。」
 アイと別れたマイは、自分の部屋に帰ってきた。
 自分の部屋に入るのにただいまと言ったのは、この部屋に先客がいるからだ。
 アイツウと、ナコである。

 アイツウが突っ立ている目の前には、巨大な三枚のモニターが横に並んで浮かんでいる。
 アイツウの左右の手元には、キーボードらしき物が浮かんでる。
 アイツウが左右のキーボードに打ち込むのに合わせ、左右のモニターに、何やらプログラムが走る。
 それとは別に、中央のモニターにも、何かのプログラムが実行されている。

「へー、この時代でもキーボードってあるんだ。」
 マイは物珍しげに、アイツウの右手のキーボードを覗きこむ。
 宙に浮いたそのキーボードには、文字が無かった。

「おっと、アイツウの邪魔は、しないでね。」
 マイはいきなり後ろに引っ張られる。
 転びそうになるマイだが、数歩後ろに下がってバランスを取る。
 マイを引っ張ったのは、ナコだった。

「ちょっと、何するのよ、ナコ。」
 思わず文句を言うマイの口もとに、ナコは人差し指をあてる。
「アイツウの邪魔は、しないでね。」
 ナコは再び注意する。満面の笑みで。
「う、うん。」
 これにはマイも、少し気圧された。

「思考入力にも、限度があるからね。
 どうしても旧時代式の手入力にも、頼らざるを得ないのよ。」
 アイツウから離れた場所に移ると、ナコはマイの疑問に答えた。
「へー、そうなんだ。」
 思考入力とか言われても、マイにはよく分からない。

 アイツウの目の前のモニターとは別に、何かウインドウらしき物が浮かんだり、消えたりしている。
 マイの時代には無いこの技術は、サポートAIのアイツウの能力をフルに使っているのだろうと、マイは思った。
 つまり、普通の人間なら、マイの時代の人間と、大差無いのではないのか、と。
 思考入力とやらも、以外と簡単に出来たりして。

「基礎部分は、終わりました。
 後は、お喋りしながらでも、出来ますよ。」
 アイツウは振り返って、にっこり笑う。
 同時に左右にあったモニターは消え、中央の一枚だけになる。
 そして左右のキーボードも消え、中央に一枚のキーボードが現れる。

「凄いねアイツウ。
 何やってるのか、全然分からなかったよ。」
 とマイは感想を述べる。
「私もサポートAIの端くれですから。」
 とアイツウはにっこり笑う。
 その横で、モニターに釘づけのナコは驚きの表情を浮かべる。

 アイツウはお嬢さま風と言う設定はあるが、ナコには無い。
 一応ツンデレ気質のリムを、にっこりと見守るお姉さん風にしたいと思うが、どうもキャラは定まらない。

 そんなナコの表情を見て、アイツウの表情も引き締まる。
 だがマイの質問は止まらない。
「ねえ、なんで僕の部屋でやってるの?
 コンピュータルーム使えばいいじゃん。」
 戦闘機用シュミレーターのある部屋の奥に、コンピュータルームはある。
 マイは一度も、入った事は無いが。

「それは、履歴を残したくなかったから。」
 と言うアイツウの表情が、少し曇る。
「履歴?」
 聞き返すマイに、アイツウはうなずく。
「リムの変容。
 本部は何か、隠しているわ。」
「ええ、これは隠したくもなるわね。」
 と、ナコが続ける。

 ナコの見つめるモニターには、何やら棒グラフらしき物が複数上下し、心電図らしき線が、ぴこぴこ走ってる。
 マイには、何がなんだか、分からない代物だ。

「つまり、どう言う事?」
 よく分からんモニターを見つめ、思いっきり悩んだ表情で、マイは尋ねる。
「これを見ても分からないなら、教えられないわ。」
 とアイツウは首をふる。
「つまり、機密事項ってヤツだ。」
 とナコはニヤける。
 マイはムッとする。
「つまりリムは、以前のリムとは、別人って事ね。」
「別人って言うよりも、これは、本人って言うべきよね。」

 マイの発言に釣られて、アイツウはつぶやく。
「え、何?」
 よく聞こえなかったマイが聞き返す。
「な、何でもないわ。」
 慌ててアイツウは、ケムに巻く。
「問題は、リムのあの眼帯だな。」
 とナコは話題を変える。
「え、ええ。あの眼帯の下がどうなってるのか分かれば、もう少し解析出来るのですが。」
 とアイツウも、ナコの話題に乗っかる。

「それなら僕、見たよ。」
「ほ、本当ですか?」
 マイが意外にも話題に乗ってきたので、アイツウも驚く。
「う、うん。リムがああこれ、って見せてくれたよ。」
 とマイは、眼帯をめくる仕草をする。
「それが本当なら、アイから記憶の共有出来るわね。」
 アイツウは早速、アイに通信を入れる。
 同一フロアに居るのなら、通信は出来る。

「え?」
 だがアイの機能は停止していた。
「どうしたの、アイツウ。アイに何かあったの?」
 アイツウの表情の変化に、マイは少し不安になる。
「な、何でもないわ。
 どうやら遠すぎて通信出来ないみたいね。」
 とアイツウはごまかす。
 そう、マイに言える訳がない。
 アイが機能停止している事を。

「となると、この謎はしばらくおあずけか。」
 としょげこむナコ。
「いいえ、何とかなりますわ。」
 とアイツウは希望を見つける。
「ご存知の通り、私はアイのコピー体として、作られました。
 だから、マイの記憶も覗けるはずです。」
「え、そうなの。」
 唐突な設定に、驚くマイ。
「ええ。ですから、その時の事を、よく思い出して下さい。」
 と、アイツウはマイの額に左手をかざす。
「う、うん。分かったよ。」
 マイは目を閉じて、その時の事を思い出す。

「ほんと、ミズキは私に、何を見せたいのかしらね。」

「な、」
 マイの記憶の中で、リムの青い瞳を見たアイツウは驚く。
 そして震える手で、キーボードを打ち込み、プログラムを走らせる。
「こ、これは。」
 プログラムの結果に、ナコも驚く。
 だがマイには、よく分からない。

 恐るべき何かが、リムには起きていた。
 それは召喚者の概念をくつがえす物だったが、今のマイには、まだ分からない概念だった。
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