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第179話 あまり話しを前後させてはいけない
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これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
この時代に召喚されたある召喚者は、召喚前、酷い虐待を受けていた。
その少女に対する虐待は、少女の父親からのものだった。
この父親は周囲の眼がある時は、いい父親を演じていた。
だから少女が虐待を周囲に訴えても、誰も本気にしなかった。
少女の母親でさえも。
その都度虐待は酷くなっていき、少女はいつしか、周囲に助けを求めるのをやめた。
少女が父親にだけではなく、周囲にも憎しみの感情を持ち始めた、そんなある日、少女のおばあちゃんが虐待現場を目撃してしまう。
おばあちゃんは、自分の息子である少女の父親の行為に、ショックを受ける。
しかし、この父親の幼い頃を思えば、これは当然の結果なのかもしれない。
おばあちゃんは、少女を引き取り、育てる事にした。
少女の母親は当然反対したが、虐待に気が付かなかったこの母親を、おばあちゃんは信用出来なかった。
おばあちゃんの愛情たっぷりに育った少女は、ねじ曲がる事なく、まっすぐ育った。
そしてこのおばあちゃんが、大好きだった。
しかし、同時に思う。
なぜこのおばあちゃんの息子であるあいつが、あんなクズ野郎だったのかと。
そして少女は、男性嫌いになった。
ぷしゅー。
転移装置の扉が開く。
中からマイとアイとナコが出て来る。
リムの教え子達との実戦訓練を終えて、帰ってきたところだった。
三人の表情は、一様に暗い。
それは、訓練が終わった直後のリムの態度が、そうさせた。
今までのリムとは違い、どこか他人行儀なその態度。
マイに対して、何か含みのあるその態度は、マイを不安にさせた。
そしてリムのパートナーであるはずのナコは、リムとひと言も言葉を交わさなかった。
「ナコ、リムってどうしちゃったのかな。」
マイはナコに話しかける。
「分かりません。それを今から解析します。」
ナコは両脚の屈伸運動をしながら、そう答える。
「解析?」
聞き返すマイを尻目に、ナコはアキレス腱伸ばしに切り替える。
「はい。今取ってきたデータを元に、アイツウが既に始めてます。」
「そ、そうなんだ。」
マイは、何やら壮大なプロジェクトが始まってる事に驚く。
「それじゃあ、先に行くわね。」
ナコは驚くマイを尻目に、歩きだす。
サポートAIであるナコの身体は、走る様には造られていない。
だから可能な限り、早く歩くしかなかった。
ナコから出遅れて、マイとアイも歩きだす。
そしてふたりは、メディカルルームの前で立ち止まる。
「マイン。」
とマイはつぶやいた。
北部戦線での戦闘で負傷したマインは、今もこのメディカルルームの中だ。
北部戦線の戦闘は終わったが、あの戦闘以降、この区画にいる召喚者はマイとマインだけだ。
マイは部屋の片隅で、会えなくなった仲間を思い、何度も涙した。
そしてマインと言う希望にすがりに、メディカルルームの扉の前に、何度も脚を運んだ。
しかしマイは、中に入る事が出来なかった。
入ってしまったら、マインにも会えなくなってる様な、そんな気がしたからだ。
しかし今のマイは、扉に手を伸ばす。
遠くなってしまったリムの存在。
残った仲間はマインだけだと言う思いが、マイを一歩踏み出させた。
そんなマイの腕を、アイがつかむ。
「アイ?」
マイは反射的に声が出る。
「な、何してるの、マイ。」
アイにとって、マインに会おうとするマイの行動は、予想外だった。
今までのマイの行動パターンとは違うから。
「何って、僕はマインに会いたいだけだよ。」
と、マイはアイにつかまれていない方の腕を伸ばす。
「だ、駄目よ。」
アイはマイと扉の間に身体をねじ込み、身を挺してマイの邪魔をする。
「ちょ」
「マイ、あなたがこの扉を開けなかったのは、何のため!」
怒りそうになるマイの規制を制するように、アイが叫ぶ。
実際アイの奇抜な行為に、マイはめんくらう。
「何のため?答えなさい!」
「そ、それは。」
「マインまで、失いたくないからでしょ!」
「う、うん。」
アイの突然の迫力に、マイは気圧され、言葉が出ない。
「だから、私が見て来てあげるわ。
あなたは帰りなさい。」
アイは優しげな口調に変わる。
「で、でも。」
マインと会う気になったマイにとって、今のアイの言葉は、マインとの再会を先延ばしにする理由には、ならなかった。
「早くリムの事を、知りたくないの?」
アイは話題をリムに切り替える。
「リム?」
リムの名前が出て、マイは思い出す。
ナコとアイツウが、なんかリムの事を解析しようとしてる事を。
そのためナコは、そそくさと先に帰った。
リムの変様。
それは、明らかにリムの右目だろう。
眼帯で隠されたリムの右目は、青い光を放っている。
これは神武七龍神のミズキの仕業だろう。
ミズキはリムに、何を見せるつもりなのだろう。
そしてこの事実は、恐らくマイしか知らない。
ナコとアイツウにも、伝える必要がある。
「マインはずっと治療中のままでしょ。
だから先にリムの方を、見て来たらどうかな?」
リムの事を思うマイに、アイはそう提案する。
「そうね。」
マイがマインに会う事を邪魔したアイの真意は、気になるところ。
しかし、アイの言う事はもっともだと、マイは思った。
「それじゃ、僕はリムの事を見てくるから、マインの事、よろしく。」
マイは軽く手を振って、帰り道を急ぐ。
アイも手を振って、マイに応える。
そしてマイが引き返せないくらいに進んだ頃、アイはメディカルルームに入った。
ふと、マイは気になった。
リムの解析をするのが、なぜマイの部屋なのか。
なぜコンピュータルームを使わないのか。
疑問に思ってマイが振り返った時、丁度アイがメディカルルームの扉を閉めたところだった。
マイはナコかアイツウに聞けばいいかと、そのまま帰り道を進む。
この時代に召喚されたある召喚者は、召喚前、酷い虐待を受けていた。
その少女に対する虐待は、少女の父親からのものだった。
この父親は周囲の眼がある時は、いい父親を演じていた。
だから少女が虐待を周囲に訴えても、誰も本気にしなかった。
少女の母親でさえも。
その都度虐待は酷くなっていき、少女はいつしか、周囲に助けを求めるのをやめた。
少女が父親にだけではなく、周囲にも憎しみの感情を持ち始めた、そんなある日、少女のおばあちゃんが虐待現場を目撃してしまう。
おばあちゃんは、自分の息子である少女の父親の行為に、ショックを受ける。
しかし、この父親の幼い頃を思えば、これは当然の結果なのかもしれない。
おばあちゃんは、少女を引き取り、育てる事にした。
少女の母親は当然反対したが、虐待に気が付かなかったこの母親を、おばあちゃんは信用出来なかった。
おばあちゃんの愛情たっぷりに育った少女は、ねじ曲がる事なく、まっすぐ育った。
そしてこのおばあちゃんが、大好きだった。
しかし、同時に思う。
なぜこのおばあちゃんの息子であるあいつが、あんなクズ野郎だったのかと。
そして少女は、男性嫌いになった。
ぷしゅー。
転移装置の扉が開く。
中からマイとアイとナコが出て来る。
リムの教え子達との実戦訓練を終えて、帰ってきたところだった。
三人の表情は、一様に暗い。
それは、訓練が終わった直後のリムの態度が、そうさせた。
今までのリムとは違い、どこか他人行儀なその態度。
マイに対して、何か含みのあるその態度は、マイを不安にさせた。
そしてリムのパートナーであるはずのナコは、リムとひと言も言葉を交わさなかった。
「ナコ、リムってどうしちゃったのかな。」
マイはナコに話しかける。
「分かりません。それを今から解析します。」
ナコは両脚の屈伸運動をしながら、そう答える。
「解析?」
聞き返すマイを尻目に、ナコはアキレス腱伸ばしに切り替える。
「はい。今取ってきたデータを元に、アイツウが既に始めてます。」
「そ、そうなんだ。」
マイは、何やら壮大なプロジェクトが始まってる事に驚く。
「それじゃあ、先に行くわね。」
ナコは驚くマイを尻目に、歩きだす。
サポートAIであるナコの身体は、走る様には造られていない。
だから可能な限り、早く歩くしかなかった。
ナコから出遅れて、マイとアイも歩きだす。
そしてふたりは、メディカルルームの前で立ち止まる。
「マイン。」
とマイはつぶやいた。
北部戦線での戦闘で負傷したマインは、今もこのメディカルルームの中だ。
北部戦線の戦闘は終わったが、あの戦闘以降、この区画にいる召喚者はマイとマインだけだ。
マイは部屋の片隅で、会えなくなった仲間を思い、何度も涙した。
そしてマインと言う希望にすがりに、メディカルルームの扉の前に、何度も脚を運んだ。
しかしマイは、中に入る事が出来なかった。
入ってしまったら、マインにも会えなくなってる様な、そんな気がしたからだ。
しかし今のマイは、扉に手を伸ばす。
遠くなってしまったリムの存在。
残った仲間はマインだけだと言う思いが、マイを一歩踏み出させた。
そんなマイの腕を、アイがつかむ。
「アイ?」
マイは反射的に声が出る。
「な、何してるの、マイ。」
アイにとって、マインに会おうとするマイの行動は、予想外だった。
今までのマイの行動パターンとは違うから。
「何って、僕はマインに会いたいだけだよ。」
と、マイはアイにつかまれていない方の腕を伸ばす。
「だ、駄目よ。」
アイはマイと扉の間に身体をねじ込み、身を挺してマイの邪魔をする。
「ちょ」
「マイ、あなたがこの扉を開けなかったのは、何のため!」
怒りそうになるマイの規制を制するように、アイが叫ぶ。
実際アイの奇抜な行為に、マイはめんくらう。
「何のため?答えなさい!」
「そ、それは。」
「マインまで、失いたくないからでしょ!」
「う、うん。」
アイの突然の迫力に、マイは気圧され、言葉が出ない。
「だから、私が見て来てあげるわ。
あなたは帰りなさい。」
アイは優しげな口調に変わる。
「で、でも。」
マインと会う気になったマイにとって、今のアイの言葉は、マインとの再会を先延ばしにする理由には、ならなかった。
「早くリムの事を、知りたくないの?」
アイは話題をリムに切り替える。
「リム?」
リムの名前が出て、マイは思い出す。
ナコとアイツウが、なんかリムの事を解析しようとしてる事を。
そのためナコは、そそくさと先に帰った。
リムの変様。
それは、明らかにリムの右目だろう。
眼帯で隠されたリムの右目は、青い光を放っている。
これは神武七龍神のミズキの仕業だろう。
ミズキはリムに、何を見せるつもりなのだろう。
そしてこの事実は、恐らくマイしか知らない。
ナコとアイツウにも、伝える必要がある。
「マインはずっと治療中のままでしょ。
だから先にリムの方を、見て来たらどうかな?」
リムの事を思うマイに、アイはそう提案する。
「そうね。」
マイがマインに会う事を邪魔したアイの真意は、気になるところ。
しかし、アイの言う事はもっともだと、マイは思った。
「それじゃ、僕はリムの事を見てくるから、マインの事、よろしく。」
マイは軽く手を振って、帰り道を急ぐ。
アイも手を振って、マイに応える。
そしてマイが引き返せないくらいに進んだ頃、アイはメディカルルームに入った。
ふと、マイは気になった。
リムの解析をするのが、なぜマイの部屋なのか。
なぜコンピュータルームを使わないのか。
疑問に思ってマイが振り返った時、丁度アイがメディカルルームの扉を閉めたところだった。
マイはナコかアイツウに聞けばいいかと、そのまま帰り道を進む。
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