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地球へ

第172話 機体の性能が全てではない

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線の激戦は終わった。
 その終戦をもたらしたのは、我らがマイだった。
 しかし、その事実を妬む者たちもいた。
 過去から召喚された未開人に、そんな能力はない。
 それは戦闘機の性能のおかげ、優秀なサポートAIのおかげだと、そう思う人も少なくなかった。
 そんな中傷を払拭するため、マイは戦闘機用シミュレータで勝負する事になった。
 同じ戦闘機、サポートAIのサポート無し。
 この同じ条件でも、マイは強い。
 それを証明するために。
 そして、その勝負の場へと移動する転送装置をマイがくぐった時、マイのパートナーであるサポートAIのアイとの接続が切れる。
 これにはアイも、大激怒。
 転送装置からマイの後を追おうとするアイを、アイツウとナコが必死に止める。
 今回の勝負は、親の七光を馬鹿にされた子供が、親の七光無しで勝負しようとするようなもの。
 そこに七光の親が駆けつけては、意味がなくなる。
 しかしアイは、それとは違う、もっと恐ろしい陰謀に、マイが巻き込まれたと直感する。
 そして取り押さえられたアイは叫ぶ。
 マイが死んだら、私がリムを殺す!


 戦闘機用シミュレータを通じ、宇宙空間へと放り出されたマイ。
 実際はシミュレータが映し出す映像で、宇宙空間に放り出された訳ではないが。
 マイは急いでシミュレータ用の戦闘機を把握する。
 マイのシリウスアルファーワンより、ひと回りは小型。
 エネルギーチャージで使用する主砲は無し。
 トライフォース用の伴機は、二機まで投影可能。
 そして、総エネルギー量が、明らかに少ない!
 いつものアルファーワンなら、五分と保たない量だ。
 この量は、この機体を普通に動かすなら、30分は保つのだが、マイは知らない。
 それは、普通じゃない動きなら、五分と保たないのも、また事実だった。

 マイは戦闘機を動かしてみる。
 またもや問題発生。
 アルファーワンより、反応が遅かった。
 そのタイムラグは、生死を別けるほどに、マイは感じた。
「ちょっとリム、これ反応遅くない?」
 思わずマイは叫ぶ。
「遅くないって。みんな同じ条件だから。」
 とリムが答えると同時に、宇宙空間に五機の戦闘機が現れる。

「これより戦闘訓練を開始します。」
 と、アナウンスが流れる。
 横一列に並んだ五機の戦闘機は、左右の両端の戦闘機は大きく外側に流れると、残りの三機が突っ込んでくる。
「か、カウントダウンくらいしてよ!」
 マイは戦闘機を急発進、迫る三機の下方へと戦闘機を飛ばす。
 三機と交差した後、左右に展開した二機からレーザー光線の攻撃を受ける。

 え、遅くない?

 とマイは思った。
 自分なら、急発進させた直後に、左右片方の機体から、マイの前方へ威嚇攻撃。
 かわすそぶりを見せたその先に、もう片方の機体から攻撃。
 これを左右の機体で繰り返す。
 そして、左右に気を取られてる隙に、残りの三機のトライフォースで囲む。

 この攻撃の遅さは、この機体の反応速度の遅さに関係あるのだろうか?
 アルファーワンを相手にするには、今の一瞬で勝負がついた。
 しかしマイが今乗っている機体は、アルファーワンではない。
 こちらも反応速度の遅い機体だ。
 そう、攻撃に対する回避行動も、マイの感覚よりも数段遅れる。
 すんでの所で、マイはなんとか攻撃をかわす。
「ちょっとリム、このシミュレータ壊れてない?
 反応速度が遅すぎるわよ!」
 思わず叫ぶマイ。
 そこへ、左右の機体から第二波攻撃。
 飛び去った三機も、上方へ大きく旋回させると、そのままこちらに戻ってくる。

 マイは思う。
 第二波遅くない?
 普通はかわした直後を狙うでしょ。
「壊れてないわよ。」
 そこへ、リムからの返答。
「みんな同じ条件よ。
 マイ、あなたの実力、見せつけてあげてよ。」
 と言われても、マイは戸惑う。
 明らかにツーテンポは遅い攻撃。
 しかし、それをかわすこちらの機体も、反応速度は遅い。
 ぎりぎりかわすのがやっとで、反撃に転じられない。

「たいした事ないですね。」
 そんなマイを見て、教え子のひとりが口走る。
「これだったら、マイの代わりに私達があの機体に乗ってれば、もっとあっさり解決出来たはずですね。」
 オープン回線でなされたその会話は、当然マイの耳にも入る。
 ちなみにマイがリムに話しかけたのは、リムとの専用回線を使っている。
 リムとの会話は、教え子達には漏れていない。

「なんですって。」
 教え子達の言葉に、マイはきれる。
 確かにあの戦闘時、マイだけでは生き延びれなかった。
 マイよりも経験を積んだユアとメドーラがいたから、マイも頑張れた。
 もし、この三人のうちの誰かが、この教え子達の誰かと交代していたら、普通に全滅していただろう。

「反応が遅いなら、先んじて動けばいい!」
 マイは二機の伴機を飛ばす。
 教え子達五機の戦闘機よりも、はるか遠方へ。
 そしてマイの機体は、迫る三機の機体に突っ込ませる。

「馬鹿め、トライフォースの餌食だ!」
 三機の先頭を飛んでる教え子が叫ぶ。
 マイはその戦闘機の右翼目がけてレーザー光線を放つ。
 当然、その戦闘機は左へ身をかわす。
 そこを、二本のレーザー光線が貫く!
 先ほど飛ばした伴機が、左手上空、右手上空から、この戦闘機を攻撃したのだ。
 教え子達は、あまりにも離れすぎた伴機に、マイのコントロールミスと判断し、注意を怠った。

 呆気に取られる教え子達。
 マイはそのまますれ違いざまに、今落とした機体の右後方を飛ぶ戦闘機も落とす。

 残りの一機は、飛び去った先で他の二機と合流。
 そこを、二機の伴機が強襲!
 散り散りになる三機。

「ひ、ひとり一殺!」
 教え子の誰かが叫ぶと、教え子の三機の機体は、それぞれ伴機を相手にしだす。
 出遅れた一機も、マイにではなく、近場の伴機に向かう。
 誰もマイには向かってこない。
 そんな教え子達を見て、マイははがゆく思う。
「ちょっとあんた達!なんで伴機を使わないのよ!」
 マイはオープン回線で叫ぶ。

 マイが相手の立場だったら、伴機二機を使って、敵側戦闘機一機を伴機二機と自機の三機で囲む。
 向こうは丁度三人いる。
 敵側の三機の機体を一機ずつ、三機で取り囲む事が可能なはず。

「厳しい事言うなよ。」
 回線を切ってリムはつぶやく。
「伴機二機をひとりで操るのは、結構難易度高いんだぜ。」
 眼帯に隠されたリムの右目は、青い輝きを放つ。
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