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異次元からの侵略者

第155話 ドラゴン退治の後は何故かむなしい

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 超高次元空間にて、ひとりの召喚者が逝った。
 その哀しみが、新たな力を呼び覚ます。


「バイワンラァン!」
 マイがその名を高らかに叫ぶと、バイワンラァンはビームサーベルが変化した剣を持ってポーズを決める。
 蒼白く光ってたマイの身体も、元に戻る。
 だが、マイの瞳は蒼白いままだった。

「ぐおおー!」
 四つん這いで歩を進めていたブルードラゴンも、突如現れたバイワンラァンに、その歩みを止める。
 後ろの二本の脚で直立し、身構える。
 そしてお決まりの氷のブレスをはく。

 バイワンラァンは一歩も動かず、ブレスを受ける。
「ちょっとマイお姉さま。なぜかわさないのです。」
 メドーラもこの行為に、マイを責める。
「こんなもの。ユアの受けた痛みに比べれば、どうってことないわ。」
 マイのそのつぶやきは、メドーラに対して発したというよりも、自分に対しての戒めのようだった。

 バイワンラァンが右手に持つ剣を右下へと振り下ろすと、全身を薄く覆っていた氷が、瞬時にはじけ飛ぶ。
 ブルードラゴンは再び氷のブレスをはく。
 バイワンラァンは一歩右に動き、ブレスをかわす。
 そして両手で剣を握る。
 剣はほのかに、蒼白い光に包まれる。

「ユア、ごめんね。僕が不甲斐ないばかりに。」
 バイワンラァンは、その場から高らかにジャンプする。
 ブルードラゴンは、バイワンラァンの姿を見失なう。

「ケイ、ごめんね!」
 バイワンラァンは、剣先を頭上に向け、胸の前で両手でしっかりと剣を握る。
 そのまま頭からほぼ垂直に落下する。
 そして地面すれすれで、その向きを変える。
 その剣の向けられた先は、ブルードラゴンの左胸。
 バイワンラァンは落下の勢いそのままに、ブルードラゴンの左胸を狙う。


 こっちこそ、ごめんね、マイちゃん。
 そして、ありがとう。


 ケイの言葉が、マイの脳裏に響く。
 そしてそれは、同じコックピット内にいるメドーラの頭の中にも、同様だった。
「え?今のは?」
 メドーラにも聞こえたケイの言葉。
 メドーラは思わずマイの方を見る。
 マイの横顔は凛とひきしまり、その瞳は蒼白い光をやどしている。
 そしてマイには、メドーラの言葉が耳に入らないようだった。

 そんなマイを見て、メドーラは理解する。
 最初にブルードラゴンの左胸を狙った攻撃の時、マイはケイの言葉を聞いてしまったのだろうと。
「マイお姉さま。あなたって人は。」
 メドーラの瞳にも、涙が浮かぶ。

 バイワンラァンは光の矢と化し、ブルードラゴンの左胸を貫いた。

 ぐおおお。

 ブルードラゴンは上空を見つめて絶叫する。

 バイワンラァンはブルードラゴンの後方上空で立ち止まり、ブルードラゴンを見下ろす。
 と同時にバイワンラァンの姿は消え、元のオメガクロスに戻る。
 オメガクロスの左胸は、煙の様な蒼白い光を上げている。
 ここは、一度は治った様に見えた箇所だが、バイワンラァンへの二段変身が解けた事で、元に戻ったようだった。
 そしてマイの左にあったユアのアバター体も、消えていた。
 蒼白い光を宿していたマイの瞳も、元に戻る。

 絶叫が止んだブルードラゴンの身体は、霞のようにかき消えていく。
 そしてブルードラゴンの額の位置に、ひとりの少女がその姿を現す。
 気を失っているその少女は、その高さからそのまま、地面へと落ちていく。

「ミズキぃ!」
 マイはその名を叫びながら、オメガクロスを急降下させる。
 そして地面すれすれで、両手で少女の身体をキャッチする。

 水色の簡易ドレスにその身を包んだその少女は、最初に姿を見せたミズキより、幼かった。
 最初のミズキが13歳くらいの姿だった。
 しかし今のミズキは、6歳くらいの姿である。

「ミズキ、しっかりして!」
 マイはオメガクロスのコックピットから呼びかけるが、ミズキの反応はない。
 ミズキは静かに寝息をたて、穏やかな表情で眠っている。
 その眠りを妨げるのはどうなのかと、戸惑うところだ。
 だけどマイ達は、北部戦線の戦闘を終わらせるため、ブルードラゴンを説得しに来たのである。
 このまま眠らせておく選択肢は、無かった。
 いや、選択肢ならば他にもある。
 ここでミズキを殺せば、全てが終わるはず。
 メドーラには思いつく選択肢だったが、マイには考えもおよばない選択肢だった。

 マイ、駄目じゃない。

 唐突に、オメガクロスのコックピット内に、何者かの声が響く。
「誰?」
 その声にメドーラは反応するが、マイは無反応だった。
 メドーラは一瞬、グリーンドラゴンのナツキかとも思ったが、惑星ドルフレアで出会ったナツキの声とは、だいぶかけ離れていた。
 そんなメドーラを無視して、謎の声は続く。

 ここに来ていいのは、マイだけでしょ。
 なんで他の人をよこすのかなあ。

「そんな事知らない。何言ってるの。」
 マイは謎の声の言葉を、きっぱり否定する。
 メドーラはマイを見つめる。
 思えば、疑問ばかりが浮かぶ。
 マイはオメガクロス、バイワンラァンを知っていた。
 それは無意識下にあった知識なのだろう。
 そしてこの声も、同じなのかもしれない。

 えー、知らないってなによ。
 もう、ほんと今度のマイは、にぶちんさんだなあ。

「今度の?」
 メドーラはその単語に引っかかる。
 まるでマイと言う名は世襲制で、以前にもマイを名乗る人物がいたかのよう。
 実際マイは、サポートAIのアイの、十人目のパートナーである。
 以前の九人もマイと名乗ったのかはともかく、メドーラは知らない。
 マイが十人目のパートナーである事を。
「今度の僕?」
 そしてマイもまた、メドーラと同様の疑問をいだく。

 まあ、いいわ。
 ここに来たふたりは、そっちに送り返したからねぇ。

 この言葉を最後に、謎の声は途切れる。
「ちょっと待ってください。ふたりって誰の事ですか!」
 メドーラは途切れた謎の声に問いかけるが、当然何の反応もない。
「マイお姉さま、今の声は誰ですか。」
 メドーラは質問の矛先を、マイに変える。
「ぼ、僕だって知らないよ。」
「ですが、あちらは知ってるようでした。
 マイお姉さまにも、心当たりくらい、あるでしょう。」
「そんなのないよ。」
「よく思い出してください。
 マイお姉さまは、オメガクロスの事も、バイワンラァンの事も知っていました。」
「わ、分からないよ。僕もなんで知ってるのか、こっちが聞きたいよ!」
 マイは右手で自分の顔を覆う。
 メドーラから自分の表情を隠すように。

「マイお姉さま。」
「それに、メドーラだって分かってるでしょ。僕がメドーラや、」
 ここでマイは言葉に詰まり、涙ぐむ。
「…ユアみたいに、賢くない事を。」
 マイはなんとか言葉を絞り出す。

「そんな事、」
 反射的に出てきた言葉も、その後が続かない。
 確かにマイは、物事を知らなすぎた。
 それはマイの経験不足からくるものだったが、それでも説明つかないほど、物事を知らない。
 期待の超新星と呼ばれたくらいだから、召喚されて間もない事は、メドーラにも分かる。
 召喚直後は様々な研修を受け、実戦投入される事になる。
 戦闘機の操縦。
 ソウルブレイドの使い方。
 マジカルポシェットの装備品一式の使い方。
 そして、召喚された目的ごとに対しての研修。
 だけどマイは、戦闘機の操縦しか、訓練を受けていない。

「そうですね。今はそんな事、関係ないですわね。」
 メドーラは首をふり、話題を変える。
「今は、これからどうするかが問題ですわ。」

 超高次元空間にて、両手にミズキを抱えてオメガクロスは立ち尽くす。
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