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異次元からの侵略者

第152話 巨大化にも限度があるよね

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 超高次元空間で繰り広げられる、神武七龍神のブルードラゴンと、マイとユアとメドーラの戦闘機が三身合体したオメガクロスとの戦いは、激しい死闘となった。
 我を忘れたマイが操るオメガクロスは、ブルードラゴンが化身する龍神騎を、はるかに凌駕した。
 そしてオメガクロスの放つとどめのミサイルに、龍神騎は爆破される。


「ぐおおお!」
 爆炎の中、龍神騎のブルードラゴンが断末魔の悲鳴をあげる。
「これで、良かったんだよな。」
 マイは爆炎を見ながら、自分に言い聞かせる。
 この超高次元空間のブルードラゴンが倒れれば、北部戦線でのブルードラゴンも倒れる。
 これで、この戦争も終わる。

 しかし、物事は、そんなに甘くはなかった。

「ぐおおおん!」
 ブルードラゴンの雄叫びで、爆炎はかき消される。
 中から黒焦げになった龍神騎が、そに無残な姿を現す。
 龍神騎の装甲が膨らむように、肌から離れる。

 プシュー。
 装甲がわずかに離れた事により出来た隙間から、煙らしきものが掃き出される。
「おのれ、人間どもー!」
 ブルードラゴンは、怒りの言葉をはく。

「く」
 マイもびびってしまい、龍神騎に近づけない。
 オメガクロスに搭載された飛び道具は、すでに撃ち尽くしてしまった。
 攻撃するには、近づかないといけないが、それが出来なかった。

 プシュー。
 装甲の隙間から出る煙が、龍神騎を包んでいく。
「あれは、燐気?」
 メドーラが驚きの声を上げる。
「りんき?」
 マイは聞き返す。

「竜が天に昇る時に発するという、気の事です。」
 メドーラは手短に、マイの質問に答える。
「なんでそんなもんが。」
 マイは更なる疑問を口にするが、メドーラは燐気を発する龍神騎から、目が離せない。

「よくもこの我を、愚弄したなぁ!」
 ブルードラゴンの怒りの言葉とともに、燐気はさらに濃くなっていく。
「まさか、今になって、この燐気を放つと言う事は。」
 ユアは、その意味を理解する。

「許さん、許さんぞ人間どもぉ!」
 燐気はさらに濃く、上空高く立ちこめる!
「ええ、神武七龍神ブルードラゴンが、本気になったと言う事。
 真の姿を現すと言う事です。」
 メドーラはユアの考えを肯定する。

「ぐおおん!」
 ブルードラゴンの咆哮で、燐気の煙は一気にブルードラゴンに吸収される。
 そしてブルードラゴンは、真の姿をこの超高次元空間にて、顕現させる!

 二本の足で大地を踏みしめ、雄々しく直立する。
 強靭な長い尻尾をもち、背中には巨大な一対の翼を生やす。
 身体に似合わず短い腕の先には、鋭く光る四本のかぎ爪が獲物を狙う。
 獰猛な牙に、鋭い眼差し。
 全身を覆う鱗は、青系の色で統一され、神々しい美しさを感じさせる。
 そしてその巨体は、オメガクロスなど手のひらに収まるほどの巨大さだ。
 龍神騎の姿に比べると、およそ四十倍くらいには、巨大化したと言えよう。

「ぐおおおおおおおおお!!!」

 変身後、ブルードラゴンはけたましい雄叫びを上げる。
 マイ達は思わず両手で耳をふさぐ。
 オメガクロスも、思わずそのポーズをとる。
 オメガクロスの身体中がきしむ。
 どんなに素早く動いても、なんともなかったオメガクロスだが、この雄叫びには、全身が引き裂かれそうになる。

 ブルードラゴンは雄叫びをやめると、すかさず氷のブレスを吐く!
 オメガクロスは右方向へ飛んで、ブレスをかわす。
 ブルードラゴンはオメガクロスの方向へと首をまげ、そのまま氷のブレスを吐き続ける。
 オメガクロスはブルードラゴンを中心に、円を描くようにかわし続ける。
 そのブルードラゴンの背後へと飛んだ時、異変に気づく。

 ブルードラゴンは左へと首を捻るのだが、それ以外は動かそうとしない。
 足を動かして、向きの調整をしようとしない。
 足が地面に張り付いたかのように、全く動かない。
 背後に回ったオメガクロスに対して、左へとひねった首を戻して、今度は首を右からひねって、ブレス攻撃をする。

「何これ、動けないの?」
 マイも、ブルードラゴンの異変に気がつく。
 オメガクロスをブルードラゴンの背後の上空高く移動させる。
 そこから、ブルードラゴンを見下ろす。
「ぐおおおお。」
 ブルードラゴンも咆哮をあげるだけで、何も出来ない。

「まさか、大きくなりすぎたって事ですか?」
 メドーラが、ブルードラゴンの動けない理由を探り当てる。
「どうやら、そのようね。」
 ユアもメドーラと、同じ考えだ。
「どう言う事?」
 マイは察する事が出来ず、ふたりに聞いてみる。

「油断しないで下さい。」
 メドーラはブルードラゴンから目を逸らすマイを、注意する。
 慌ててブルードラゴンに視線を向けるマイ。
 その横で、ユアが説明する。

「物体の比率を変えるって事はね、体積は三乗に比例して、面積は二乗に比例するの。」
 ユアの説明を、マイもなんとなく理解する。
「なるほど、つまりアレなのね。」
「本当に分かりましたか?」
 メドーラはマイに問いかける。

 マイはブルードラゴンを見つめながらうなずく。
「つまり、三乗倍に増えた体積を、二乗に増えた面積だけでは、支えきれないって事でしょ。」
「そう言う事。」
 ユアはマイの意見を肯定する。
 メドーラは、マイが答えられる事が意外すぎて、言葉がでない。
「巨大に膨れ上がった身体を、狭い面積の足の裏だけで支えられるとは、思えないもんね。」
 と、ユアは付け加える。

「ええ、なぜブルードラゴンがこんなミスをおかしたのかは分かりませんが、これはチャンスですわ。」
「そうね、ブルードラゴンが対応する前に、攻撃しましょう。」

 メドーラとユアの言葉に、マイはうなずく。
 オメガクロスはナイフを両手に持つと、そのままブルードラゴン目がけて急降下。

 ガキーン!
 ブルードラゴンの背中に、ナイフを突き立てる!
 ガゴっ!
 だけどブルードラゴンの身体を覆う強靭な鱗に、ナイフは折れてしまう。
 落下速度も乗ったオメガクロスの一撃も、通じない。
「ぐあああ!」
 ブルードラゴンは、背中に張り付いたオメガクロスを、尻尾の一撃をぶち込んで、弾き飛ばす。

「そんな、アレが効かないなら、どうすればいいんだ。」
 倒れたオメガクロスの中で、ユアは軽く絶望する。
「いいえ、まだです。」
 だがメドーラはあきらめていない。
「鱗の薄いところを狙えばいいのです。
 ケイお姉さまの言葉を、思い出してください。」

 弱点は、ここ。

 ユアもその言葉を思い出すが、そこを攻めるための武器がない。
 二本あったナイフの一本は、先ほど折れてしまった。
 もう一本は、龍神騎との攻防の最中、落してしまった。
 それを探し出すのは、現実的ではなかった。

「ビームサーベル。」
 攻める手段を見いだせないふたりに対して、マイはつぶやく。
「オメガクロスには、ビームサーベルがあるわ。」
「でもそれは、」
「僕がやるから!」
 その手段を否定しようとするメドーラを、マイが制する。

 オメガクロスのビームサーベルは、フォログラフの投影に質量を持たせる事で、実体化させる。
 だけどそのフォログラフの投影は、サポートAIが担っている。
 そのサポートAIがいない今、ビームサーベルの投影は不可能。
 だけど、フォログラフの投影はサポートAIにしか出来ない訳ではない。
 その設計図をセットすれば、フォログラフの投影自体は可能。
 それは、マイにも出来る。
 問題は、その設計図を作れるか、である。

「ですが、本当に出来るのですか?」
 メドーラはマイに対して、疑問を投げかける。
「メドーラ、ここはマイを信じましょう。」
 ユアはメドーラをたしなめる。
 ユアはそのままメドーラを見つめる。
「で、ですが。」
 メドーラは反論しようとするが、ユアのまなざしの前に、何も言い返せなかった。

「分かりました。私もマイお姉さまを信じます。」
 メドーラは、渋々折れた。
 その事は、今のセリフの話し方からも、感じ取れた。

「ありがとう、ユア。メドーラを説得してくれて。」
 マイは目を閉じて、設計図のイメージに集中し始めていた。
「ついでに、オメガクロスの操縦を頼むわ。うまく逃げきって!」
 マイはオメガクロスの操縦系統を、ユアとメドーラに託す。

「え?」
 突然の事に驚くユアとメドーラ。
 ブルードラゴンはいつの間にか、自身を強化していた。
 ブルードラゴン自身の体重を軽くする事で、両足にかかる負担を軽減。
 両手も地面に付く事で、なんとか自身の向きを変えられる様になっていた。

「油断しましたわ。」
 メドーラはつぶやく。
 そして苦笑い。
 マイに対して油断するなと言ったのに、油断してたのは自分の方だった。

 オメガクロスの方へと向きを変えたブルードラゴンは、大きく口を開き、氷のブレスを吐く体勢にはいる。
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