上 下
133 / 215
異次元からの侵略者

第133話 千年も経ってりゃ、最早別人

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 マイとユアとメドーラの三人の目の前に現れた、ケイネシア。
 ケイネシアは自分を、サポートAIミイの意志を継ぐ者と呼称した。
 そしてケイネシアは、マザーコンピュータミイの外部端末だった。
 サポートAIであったミイは、自らの経年劣化を感じ、新たな身体を作り、記憶データを引き継ぐ必要があった。
 虐待される者達を見続けるブルードラゴンは、いつしか暴走する。
 それをふせげるのは、マイだけだろう。
 ミイは、マイと再会するその時まで、自らの意志を存続させる必要性を感じていた。
 あり合わせの材料で、大型の円筒形のマザーコンピュータを作った。
 そして、自由に動けるように、外部端末としてのアバター体も必要だった。
 円筒形のコンピュータは、修理や改善を加えて、千年間もたせた。
 だけど動き回るアバター体は、千年の間に六体も作り直した。
 今のケイネシアは、七代目であった。



 目の前のケイネシアは、ミイではない。
 ミイとは別の存在だと、マイは気がついた。

「そうだな。ミイの記憶データはあるが、ミイの人格はすでに消えている。」
 ケイネシアは、マイの言葉を肯定する。
「そう、なんだ。」
 自分の言った事とはいえ、マイはミイにはもう会えない事を、悲しく思う。

「そりゃあ、千年も経ってればなあ。
 最初の二代目くらいまでは、ミイの人格もあったかもしれんが、
 私は七代目だ。」
 ケイネシアは落ち込むマイをはげますように、明るく振る舞う。
「七代ですか。」
 ケイネシアの言葉に、メドーラが反応する。
 その七代と言う言葉の持つ意味に、想いをはせる。

「七代か。確か、このアバター体って、もって20年だっけ。」
 ユアも七代と言う言葉に反応する。
「いや、私の身体は、おまえ達の様なアバター体じゃない。
 メンテナンス次第で、500年はもつ。」
「嘘ですね。」
 ケイネシアの言葉を、メドーラは否定する。
「同一の魂の意思でいられるのは、それ程長くはありません。
 これは、人の魂だろうが、AIの人工知能だろうが、同じはずです。」

「だから、メンテナンス次第だって。」
 ケイネシアは、メドーラが言う一般論に例外がある事を告げる。
「私にも先代の意思は残ってるが、それ以前の世代は、記憶が残ってるだけだ。
 現にサポートAIミイの意識は、すでに消えている。」

 ケイネシアの言葉に、メドーラは思う。
 ケイネシアの言う世代とは、新しく作られた身体の事を言ってるのだろうか。
 それとも…。

「ま、今はそんな事、どうでもいいよな。」
 話しが横道にそれそうな事を、ユアが修正する。
「ケイネシア、おまえはミイの遺志を伝えるために、マイを待ってたんだろ。」
 ケイネシアはユアとメドーラを野蛮人と切り捨てる一方、マイとだけは、対等に渡り合おうとしていた。
 これは、邪魔なユアとメドーラのふたりを排除しようとしてた事から、うかがえる。

「そうだな。」
 ケイネシアはユアの言葉に、目を閉じてニヤける。
 サポートAIミイが、共に行動して感じた、マイ達三人の性質。
 それを長年分析してた訳だが、実際会ってみて、初めて分かる事もある。
「ミイは、マイだけに伝えたかったみたいだけど。」
 ケイネシアは目を開くと、マイに視線を向ける。
「私は、おまえ達にも伝えたい。」
 ケイネシアはその視線を、ユア、メドーラにも向ける。

「ブルードラゴンを、止めてくれ。」
 ケイネシアは頭を下げる。

「ブルードラゴン。」
 マイはその言葉をつぶやく。
 千年前、ケイが依代になったブルードラゴン。
 そして、ケイの意識は、すでにない。
 そしてマイは思い出す。
 グリーンドラゴンであるナツキにも、同じ事を言われた事を。

「でも、どうやって。」
 ブルードラゴンを止めろと言われても、どうしていいか分からない。
 これは、書いてるヤツにも分からない。
「もうひとりのケイネシア。
 あちらが、ブルードラゴンの意志を継ぐ者って事でしたわね。」
 メドーラは、出会った頃にケイネシアが言っていた事を思い出す。

「ああ、そうだ。」
 メドーラの質問に、ケイネシアが答える。
「ついでに教えといておくが、あっちのケイネシアのアバター体には、ローランの孫の双子の姉弟の魂が、受け継がれている。
 もっとも、ふたりの意識は、すでにないがね。」

「あれ、でも。」
 マイは、もうひとりのケイネシアに出会った頃を思い出す。
「ローランの事も、ブルードラゴンの事も、知らないって言ってたよ。」
「そりゃあ、元はひとの魂だからな。
 千年も前の事なんて、覚えてないよ。
 自分の名前すら、覚えてない。」
 マイの疑問に、ケイネシアが答える。

 あの当時は、まだ設定が固まっていなかったとか、今思いついたからとか、そう言う事ではない。
 AIであるミイの記憶データは、物理的な欠損が無い限り、無くなる事はない。
 しかし、人の記憶は違う。
 歳をとれば、昨日の晩飯すら覚えていない。
 まして、千年前の事なんて、詳細に覚えている方が、おかしい。
 だが、記憶は残らなくても、強い意志は残る。
 それが、虐げられた者の哀しみや怒りといった感情だった。

「なるほど、あの変態の方を、どうにかすればいいんだな。」
 もうひとりのケイネシアと聞いて、ユアももうひとりのケイネシアの事を思い出す。
「変態?」
 マイはユアに聞き返す。
「あいつ、私の、その、む、胸を、その、」
 ユアは口ごもる。
「え、胸がどったの?」
 マイは聞き返すが、ユアは言葉が出ない。
「ユアお姉さまの胸を、もみもみしてましたわ。」
 ユアに代わって、メドーラが答える。
「えー、僕ももみもみした事ないのに?」
「ちょ、ちょっとマイ。あんたももみたいの?」
 ユアは両腕で胸を覆い隠す。
「だって以前、僕の胸もんだじゃん。」

「なんですって。」
 メドーラは怒りの感情がこみ上げるままに、ユアをにらむ。
「あ、あれは、友情のスキンシップってヤツじゃない。」
 それは、星間レース直後の休暇中のバカンスでの出来事だった。
 本作品には未収録だが、これがアニメ化した時の水着回に、そのシーンが出てくるだろう。
「僕もしたいなぁ、友情のスキンシップ。」
 マイは両手を前に突き出して、にぎにぎする。
「や、やめてよ、マイ。」
 ユアは身体をねじらせ、マイのにぎにぎから逃げる。

「今は、こんな事してる場合じゃないでしょ。
 あ、後でもませてあげるから!」
 今にも泣き出しそうなユア。
 それを見て、マイも正気に戻る。
「あ、うん。なんかごめん。」
 そんなふたりを見て、メドーラは思う。
 胸をもまれたのは、立体映像の偽者のユアだったような気がする。
 でも、マイお姉さまのお胸を、恐れ多くももんだみたいなので、黙っておいた。

「あれ、でも。」
 マイは、またもや、もうひとりのケイネシアの事を思い出す。
「確か、総攻撃の準備が出来たとかって、消えたんだよね。
 あの連絡したのが、あなたじゃなかったっけ?」
 マイは目の前のケイネシアに、視線を向ける。

「その準備をしてるのは、マザーコンピュータのミイだよ。
 私はただの、連絡係にすぎない。」
 ケイネシアは、自分の関与を否定する。
「そうですか、あなたをどうにかすればと思ったのですが、違いましたか。」
 メドーラは、鉄パイプに展開したソウルブレイドを、ケイネシアに向かって振りかぶっていた。
 倒れた状態では、頭目がけてぶん投げるしかない。
 メドーラはそのタイミングを図っている。
「わ、ダメだよメドーラ。」
 マイに注意され、メドーラは鉄パイプをそのまま下にする。

 ブルードラゴンをどうにかしたい現状。
 それには、マザーコンピュータミイも、どうにかする必要がありそうだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑星保護区

ラムダムランプ
SF
この物語について 旧人類と別宇宙から来た種族との出来事にまつわる話です。 概要 かつて地球に住んでいた旧人類と別宇宙から来た種族がトラブルを引き起こし、その事が発端となり、地球が宇宙の中で【保護区】(地球で言う自然保護区)に制定され 制定後は、他の星の種族は勿論、あらゆる別宇宙の種族は地球や現人類に対し、安易に接触、交流、知能や技術供与する事を固く禁じられた。 現人類に対して、未だ地球以外の種族が接触して来ないのは、この為である。 初めて書きますので読みにくいと思いますが、何卒宜しくお願い致します。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ
SF
あるところに誰もがうらやむ才能を持った科学者がいた。 科学者は天賦の才を得た代償なのか、天涯孤独の身で愛する家族も頼れる友人もいなかった。 愛情に飢えた科学者は存在しないのであれば、創造すればいいじゃないかという発想に至る。 そして試行錯誤の末、科学者はありとあらゆる癖を詰め込んだ最高傑作を完成させた。 科学者は人工生命体にリアムと名付け、それはもうドン引きするぐらい溺愛した。 そして月日は経ち、可憐な少女に成長したリアムは二度目の誕生日を迎えようとしていた。 誕生日プレゼントを手に入れるため科学者は、リアムに留守番をお願いすると家を出て行った。 それからいくつも季節が通り過ぎたが、科学者が家に帰ってくることはなかった。 科学者が帰宅しないのは迷子になっているからだと、推察をしたリアムはある行動を起こした。 「お母さん待っててな、リアムがいま迎えに行くから!」 一度も外に出たことがない関西訛りな箱入り娘による壮大な母親探しの旅がいまはじまる。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する

紫電のチュウニー
SF
 宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。  各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な 技術を生み出す惑星、地球。  その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。  彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。  この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。  青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。  数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

処理中です...