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異次元からの侵略者

第131話 長い時間かけて分析してりゃ、敵じゃないよね

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線の激戦区、衛星基地ソゴムの次元を超えた先で、ミイとの再会をはたしたマイとユアとメドーラの三人。
 だけどミイは、侵略者側のマザーコンピュータだった。
 マイが魂の問題で、脱出用システムを使えない事が、ついにバレてしまう。
 そんなマイを、ここまで連れて来た事後悔するユア。
 だけど、メドーラは違った。
 マザーコンピュータミイを壊せば、全てが終わる。
 マイへの思いを乗せて、メドーラの銃弾がミイを撃つ。



 ガゴーン!
 マザーコンピュータミイに向かって、メドーラの放った銃弾が放たれる。
 しかし銃弾は、マザーコンピュータをすり抜ける。

「え?」
「な?」
 マイとユアは驚きの声をあげる。
「フォログラフですか。」
 メドーラは残念そうな表情を浮かべ、つぶやく。
「その通りさ。」
 メドーラの問いに、ケイネシアはにやけながら答える。

 立体映像。
 この作品では質量を持たせる事で、立体映像を実体化させるのが常だった。
 しかし、質量を持たない立体映像も、普通に存在する。

 ケイネシアは左手の指先を、パチンと鳴らす。
 それを合図に、マザーコンピュータの立体映像が消える。
 残されたのは、小さな一台のコンピュータだった。

「なぜこの様な事を。」
 自らの試みが外れたメドーラは、悔しい気持ちを抑えてケイネシアに問いかける。
「そりゃあ、マイが来るんだもん。
 久しぶりに、会ってみたいじゃん。」
「え、僕?」
「ふざけないでください!」
 自分の名前が出た事で、思わず反応するマイ。
 だがそんなマイの言葉を、即座にメドーラがかき消した。

「久しぶりに会いたい?
 会ってるじゃないですか!今!こうして!」
 メドーラは左手に握るソウルブレイドのクダを、ケイネシアに向ける。
 最後の銃弾を放った拳銃は、元のクダ状の形状に、戻っていた。

「いや、これは仮の姿であって、本体じゃないから。」
 ケイネシアは真顔で答える。
 本人はケイネシアと名乗ってはいるが、実態はマザーコンピュータミイの別動体。
 この姿でもミイではあるが、ミイの本体はあのクソでかいマザーコンピュータである。

「ふざけたお方ですね。」
 メドーラは、どうもケイネシアとはかみ合わない。
「あなた、本当にミイですか?」
 メドーラにとって、惑星ドルフレアで別れたミイと、目の前にいる人物とが、どうしても同一とは思えなかった。
 マイは、すんなり受け入れたのだが。

「そりゃ、二千年近く経ってんだもん。
 印象だって変わるさ。」
 ミイが、1900年前の惑星ドルフレアに行った事は、以前に書いた通りだ。

「そうですね。
 私にとっては数日ですが、あなたは違うようですね。
 まさか敵として現れるとは、思いませんでしたわ。」
 メドーラはそう言いながら、ソウルブレイドを展開させようとするが、出来なかった。
 元はユアから手渡された拳銃も、元のクダ状に戻ってしまった。
 それを再び武器に展開させる精神力は、今のメドーラにはなかった。

「敵だなんて、そんな。」
 ミイを敵と言いきるメドーラに、マイはショックを受ける。
「マイお姉さま、こいつは敵です。
 それも、今度の総攻撃の張本人です!」
 メドーラはマイを護るべく、マイの前に立つ。
「ごめん、マイ。
 あなたを巻き込む形になって。」
 ユアも、マイを護るように、メドーラの隣に立つ。

 そして、メドーラの持つソウルブレイドのクダに右手をそえる。
 そのままソウルブレイドを展開する。
 ちょっと前には実物と同じ構造の拳銃を作り出したが、今は1メートルくらいの鉄パイプがやっとだった。
「ごめんメドーラ。
 今はこれで対応して。」
 ケイネシアに敗れたダメージは、まだユアからはぬぐいきれてなかった。
「いいえ、ありがとうございます。ユアお姉さま。
 これで、マイお姉さまを護れます!」

 ユアもメドーラも、目の前のケイネシアを、いやミイを敵視している。
 先ほどの勝負では、手玉に取られたユア。
 それはケイネシア自身の実力。
 そしてケイネシアは、サポートAIのミイの能力をも併せ持つ。
 これは、ユアにメドーラ、そしてマイの三人の事は、分析済みな事を意味している。
 つまり、ユア達に勝ち目はなかった。

 それでも、ユアとメドーラは、ミイを敵視する。
 脱出用システムを使えないマイを、殺させはしない。
 ふたりとも、この一念だった。

 今度の総攻撃の首謀者は、あくまでマザーコンピュータミイ。
 その別動体である目の前のケイネシアを倒しても、意味がない。
 マザーコンピュータの方を壊さない限り、総攻撃は止められない。

 それでも、現状を打破するには、目の前のケイネシアをどうにかしなければならない。

「ねえ、ケイネシア。僕達は、本当に争わなければならないの。」
 ユアとメドーラが悲壮感を漂わす横で、マイが尋ねる。
 ユアとメドーラがマイを助けるために行動するのと同じで、マイもふたりを助けたいのだ。
 そしてマイは、目の前の人物を初めてケイネシアと呼んだ。

 マザーコンピュータであるミイ。その別動体であるケイネシア。
 マイにとって、ふたりともミイだった。
「初めて私の名前を呼んでくれたな。」
 ケイネシアも、マイが自分の名前で呼んでくれた事に気づく。

「あなたは、ミイの意志を継ぐ者って言ったわ。
 なら教えてよ。
 ミイは本当に、僕達と戦いたいの?」
 目の前の人物は、ミイと同一視出来る人物だが、自らの人格も持っている。
 マイはそんな認識だった。
 つまり、ケイネシアとしてどう思うのかを、聞きたかった。

「そりゃあ、何度も言うが、マイと争う気はないよ。」
「僕とだけなの?」
 ケイネシアのその言葉は、何度か聞いた。
 それは、他のふたりとは争うつもりなのだろうか?
「そ、マイとだけ。だって。」
 そう言うと、ケイネシアは手に持つ鞭を、ソウルブレイドのクダに戻す。
 それを見たユアとメドーラは、瞬時にケイネシアに襲いかかる!

「ぐは。」
「ごふっ。」
 ケイネシアが立っていた場所に、ユアとメドーラが倒れ伏す。
 そして、先ほどまでユアとメドーラがいた位置に、ケイネシアがいる。
「な、何が起きたの。」
 その詳細は見えなかったが、マイにもなんとなくだが、理解出来た。

「に、げろ、マイ。」
「マイお姉さま、お護り、出来なくて、ごめん、なさい。」
 ユアとメドーラは、気を失う寸前の所で持ちこたえている。

「ほらね。こっちが争う気はなくてもさ、あいつらは争う気満々だよ。
 どうしようもないよね。」
 ケイネシアはマイに対して、にっこりとほほえむ。
 これには、流石のマイも戦慄した。
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