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異次元からの侵略者

第130話 最後の銃弾

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代の戦争は、脱出用システムにより誰も死なない戦争になっていた。
 と思っていたのだが、そうでもなかった。
 脱出時に転送される超空間に細工するだけで、簡単に無効化出来た。
 サポートAIのサポートが無いと、脱出のタイミングはシビアになる。
 召喚された魂がアバター体になじんでないと、超空間の移動に耐えられない。
 この作品の根底の設定だったはずの、脱出用システム。
 実は欠陥が多かった。
 そして、この時代で死んだら、本当に死ぬ。
 その事実を知ったマイは、死への恐怖にその身を震わせる。



「どうしたの、マイ。死ぬのが怖いの?」
 ユアはマイに声をかける。
 マイは震えを抑えるのがやっとで、声が出ない。

「やっぱりマイは、覚悟が出来てなかったのね。」
 マイには驚かされてばかりだったユアも、マイに同情する感じに、そして、少し呆れてしまう。
「その原因を作ったのが、こいつらよ!」
 ユアはケイネシアをにらむ。

「はあ?」
 いきなり話しをふられ、ケイネシアも戸惑う。
「おいおい、原因は明らかに、お前ら野蛮人だろ。」
 ケイネシアも言い返す。
 元は、子供を殺された事に対する報復処置であった。
 皆がマイみたいだったら、起こりえなかった事。
 それをマイ以外のヤツには、非難されたくはない!

「どっちが野蛮人よ!
 関係ないヤツも、無差別に殺しやがって!」
 売り言葉に買い言葉。
 ユアも怒鳴りつけて反論する。
 右手に持つ刀は、マイとメドーラを護るためのもの。
 しかし、今やその刀で、攻撃に転じたい気分だ。

「やめ、てよ。」
 マイはユアにあゆみ寄ると、ユアの左ひじを右手でつまむ様に、つかむ。
「っ!」
 反射的にユアは、マイをはねのける。
 マイは数歩後退りして、踏みとどまる。
「やめてよ、ユア!」
「な?」
 マイの怒声が、ユアに向かう。
 ユアには、その理由が分からない。

「やめるのは、あっちでしょ!」
 ユアは右手に持った刀で、ケイネシアを指差す。
「あいつが、諸悪の根源でしょ!」

「違う、よ。」
 マイはそう口にすると、身体が大きくふらついた。
「マイお姉さま!」
 そんなマイを、メドーラは駆け寄って支える。
 メドーラは左手に持った拳銃の銃口を、ケイネシアに向けたまま、右手でマイを抱きよせる。

「マイお姉さま、どうなされたのです?」
 死ぬ可能性を示唆された時から、マイの様子は、明らかにおかしい。
 圧倒的な絶望を押し付けられ、それでもなんとか踏ん張るように、メドーラは感じた。
「メドーラ、僕、僕。」
 マイは泣き出してしまった。
「マイお姉さま。」
 自分の腕の中で泣くマイに対して、メドーラも言葉が出ない。

「マイ、しっかりしなさい!」
 そんなマイに、ユアは檄を飛ばす。
「確かにサポートAIと繋がっていない今、脱出用システムの発動はシビアだけど、それで死ぬと決まった訳じゃないでしょ!」
「違う、違うのよ、ユア。」
 ユアの励ましに、マイは首を振る。

 今のマイの魂にとって、脱出用システムは耐えられない。
 この脱出用システムに頼る時、それはマイの死ぬ時だ。

「なるほど、そういう事か。」
 そんなマイの様子を見て、ケイネシアは理解した。
 ケイネシアは、元サポートAIのミイの別動体である。
 サポートAIならば、今のマイがどの様な状態なのか、推察する事はたやすい。

「マイ、あなたの魂は、すでに限界なのね。」
 ケイネシアの言葉に、マイはメドーラの腕の中でうなずく。
「マイ?」
 ユアには、意味が分からない。
「あなたは、何を言ってるのですか!」
 メドーラはマイを抱き寄せる右手に力を込め、ケイネシアを睨む。

「さあね。」
 ケイネシアはにやける。
 ケイネシアにとって、これ以上説明する義理はない。
 自分とマイだけが分かっていれば、それでいい。
 だけどちょっとだけ、ヒントを与えたい気分にもなる。

「マイは、戦いたくないらしい。野蛮なおまえらと違ってな!」
「なに?」
 そのまま一触即発なユアとケイネシア。

「やめてよ、ふたりとも!」
 メドーラから離れて、マイが叫ぶ。
「私は、争う気は無いんだけどね。」
 ケイネシアはにこやかに表情を変える。
「よく言う。戦争仕掛けた張本人が!」
 ユアも小声だが、はっきりとした鋭い言葉をあびせる。

「やめてよ、ユア。なんで争うの?」
 マイはケイネシアとユアのふたりを見て、ユアに声をかける。
「私?なんで私なのよ。」
 ユアもなんか納得いかない。
 先に手を出したのは、向こうである。
「なんで争うのよ。
 なんで話し合いで解決しようとしないのよ!」
 マイは自分の思いをぶつける。

 今回の侵略行為は、元は子供のけんかだった。
 そこに親が出てきて、子供を殺した事への報復。
 そんな報復なら、すでに済んでるだろう。
 マイは、あとは話し合いで解決出来ると思っていた。

 だが、ユアは首を振る。
「遅すぎたよ、マイ。」
「え?」
 マイには、ユアの言葉の意味が分からない。
 メドーラは目を閉じてうなずき、理解を示す。

「話し合いで解決出来る局面は、すでに過ぎた。
 もはや、戦いのフェーズだよ。」
 ユアの言葉に、マイは絶句。
 返す言葉がなかった。

「でも、安心して。
 サポートAIがいなくても、脱出用システムの作動は問題ないから。」
 ユアは、死への恐怖に震えたマイを、優しくはげます。
「違うのよ、ユア。」
 だけどマイは、首を振る。
「僕の魂は、脱出用システムに耐えられないの。」
「え、なにそれ。」
 マイの告白に、ユアは驚く。
「今度脱出用システムが発動したら、僕は死ぬ。」

 ついにその事実を告げるマイ。
 ユアが何か言おうと口を開くが、そこへメドーラがわりこむ。
「マイお姉さま、死ぬってどういうことですか!」
「えと、死ぬって事だよ。」
 メドーラの突然の剣幕に、マイはそれ以上の言葉が出ない。
「なんでそんな状態で、こんな所に来たのですか。」
 メドーラも涙声でマイにうったえる。

「だって、ふたりが心配だったから。」
 マイが衛星基地ソゴムに来たのは、アイツウに頼まれての事。
 メドーラとユアを助けてと。

「ばか、私達だったら、なんとか、なんとか、ならなかったか。」
 ユアも、そんな状態でソゴムに来たマイを責めるが、言ってる最中にトーンダウン。
 マイが来なければ、メドーラの暴走は止められなかっただろう。
「でも、言ってくれれば、こんな所には来なかったよ。」
 ユアはマイと一緒にここまで来た事を、後悔する。
 ソゴムから全速力で逃げてれば、なんとかなったかもしれない。
 総攻撃に巻き込まれたとしても、マイを護れたかもしれない。

「いいえ、ここに来たのは、正解でしたわ。」
 悔やむユアを、メドーラは否定する。
 メドーラはケイネシアをにらむ。
「入り口にいたケイネシアに、総攻撃の事を告げたのは、あなたですね。ミイ。」
「そ、そりゃそうだけど。」
 いきなり話しをふられて、戸惑うケイネシア。

「だったら、総攻撃の準備をしてるミイ。
 あなたを壊せば、全てが終わりますね。」
 メドーラはケイネシアに向けていた拳銃を、マザーコンピュータミイに向ける。

 そして、残り一発の銃弾を放つ。
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