上 下
113 / 215
異次元からの侵略者

第113話 通信不能領域へ

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線の中心部にある、衛星基地ソゴム。
 そのソゴムの中心近くに、次元の歪みがあった。
 この歪みの向こうには、侵略者達の存在する、多次元空間がある。
 次元剣を使って、その多次元空間への扉を開いた、マイ達三人。
 この場に残っても、16時間後には再開される総攻撃によって、逃げ場も無く死ぬだけだ。
 扉の先の多次元空間は、侵略者達の領域だ。
 彼らに白兵戦を挑む事になるだろう。
 マイとユアとメドーラの三人は、ここに残って死ぬより、先に進んで死ぬ事を選ぶ。
 いや、三人は死ぬ気など無かった!


 マイ達が異次元空間へと移動すると同時に、サポートAI達とのコネクトが切れる。

 どうやらこの異次元空間とは、通信不能らしい。
 それでもアイツウは、パートナーであるメドーラに呼びかけ続ける。
「どうやら向こうとは、通信不能のようだな。」
 ユアとの通信が切れて、ユウがつぶやく。
「そのようね。マイがどうなったか、心配です。」
 ユウのつぶやきに、アイが答える。

「侵略者達の総攻撃も、あと16時間ってところか。」
「そのようね。」
 ユアのつぶやきに、アイが答える。
 そしてしばらく、ふたりとも無言。
 この間も、アイツウはメドーラへの呼びかけを続ける。

「なあ、これってジョーに報告した方がよくないか?」
 ふたりの沈黙を破るように、ユウが喋りだす。
 ジョーはマイ達のチームのメカニックマンである。
 メカニックマンであると同時に、このチームの司令官でもある。
「確かに。ジョーに報告すべきよね。」

 アイが答えると、ふたりともしばらく無言になる。

「なあ、早く報告してこいよ。」
「私がですか?言い出しっぺは、あなたですよね?」

 ふたりとも、今やらなければならない事は、分かっている。
 だが、出来ればやりたくない。
 そう、この場を離れたくなかったのだ。

 アイは、これ以上マイとのつながりを、切りたくはない。
 マイがマインの部屋へお泊まりした時、マイははちまきを外し、そのままマイは死にかけてしまった。
 そして、衛星基地ソゴムへ向かう際、アイは気づかなかったが、マイは7500億光年かなたに飛ばされ、つながりが切れていた。
 この様な事が何度も続けば、マイに会えなくなる日は、必ずくる。
 アイは、確信持って、そう言えた。

「私は嫌だからな。」
 この場を離れたくないのは、ユウも同じだった。
「マイとメドーラ、ケイの事でなんか隠してるだろ。」
 ユウの離れたくない理由は、それだった。
「私のいない所で、ユアを巻き込むのは、我慢出来ないからな。」
 ユウは、パートナーのユアが心配だった。

 今回の侵略行為、千年前に飛ばされたケイが、何らかの形で関わっている事は、最早明確だ。
 それなのに、ケイの事情を知り、その詳しい経緯を話さないマイとメドーラは、信用出来ない。
 ユウが不信感を抱くこのふたりと、ユアが一緒に居ることが耐えられない。
 そして、そんなふたりの記憶を探る事も出来るのに、それをしようとしない、アイとアイツウにも、不信感がつのる。

 信用出来ない奴らの中に、ユアをひとりにしたくない。
 ユウは、その想いで一杯だった。
 ユアは、この場を離れる事など、考えていない。
 たとえアイとアイツウが故障なりで動けなくなったとしても、今いる専用カプセルから、ユウが出る事はないだろう。

「分かりました。私が行きます。」
 アイは観念した。
 ユウの決心は、ゆるがない。
 マイとのつながりを切りたくないアイだが、今は切れてる最中。
 回復手段が分からない以上、アイの理由は、ユウの決心に劣る。

「マイの事も、頼みますよ。」
 アイは、メドーラに呼びかけ続けるアイツウに、声をかけて、ジョーの待つ司令室に向かう。
 アイツウはメドーラに呼びかけ続け、アイの話しかけに、応えようとはしなかった。

 司令室のジョーの周りには、膝くらいの高さの円柱状のロボットが四台いた。
 ジョーはこのロボット達に、何やら情報処理をさせている。

 司令室の扉が開き、アイが入ってくる。
「遅かったな、アイ。」
「く。」

 司令室にいるジョーにも、マイ達の大まかな情報は、分かっている。
 だけど、詳細な情報は分からない。
 アイが直接報告に来る事が可能になったのは、マイ達が多次元空間に突入して、マイ達とのつながりが切れた時。
 その時点で報告に来るべきなのに、こなかった。
 ジョーは暗に、その事を責める。

「ジョー、侵略者の次の総攻撃が、あと16時間後に迫ってます。
 予定より、六時間早い…」
 アイの報告を、ジョーが制する。
「いや、詳しくは記憶を見せてくれ。」
 ジョーがそう言うと、ジョーの近くにいた円柱状のロボットの一台が、アイに近づく。
 ジョーも、近場にいた円柱状のロボットに腰掛ける。

 アイは近づく円柱状のロボットを見て、少し戸惑う。
 これにアイが腰掛ければ、ジョーはアイの記憶を見る事が出来る。
 それは、アイが体験した事のみではなく、その時感じた感情まで、ジョーに伝わってしまう。

 アイは最近のジョーに対して、不信感を持っている。
 この感情を、ジョー本人には知られたくなかった。

「分かりました。では、私が自動操縦を終え、マイと再接続した辺りから、伝えます。」
 アイは円柱状のロボットに腰掛ける。
 アイがマイの記憶を探って得た情報が、そのままジョーに伝わる。
 ケイに似た人物が言った、18時間後の総攻撃。
 マイが7500億光年かなたに飛ばされた事。
 青い龍との出会い。

 ナツキとの再会は、あえて隠した。
 そのため、マイが戻ってこれた経緯が、ちょっと訳分からん話しになってしまった。
 アイは、この神武七龍神のナツキの関与は、隠しておきたかった。
 この関与を知れば、マイとメドーラが隠している、ケイとミイについての記憶を、探る事になるだろう。
 アイは、それが嫌だった。

「まじか。なんですぐ逃げないんだよ。」
 アイの記憶を見たジョーは、頭をかかえる。
「どうしたのですか、ジョー?」
 アイは、ナツキ関連を隠した辺りの事を突っ込まれると思っていた。
 だが、ジョーはそれに気づかないほど、頭を悩ませていた。

「コアブレイカーを使う。」
 ジョーは顔をあげ、アイに向かってそう告げた。
「コアブレイカーって、あのコアブレイカーですか?」
 アイの声も、少し震える。

 コアブレイカー。
 文字通り惑星を中心核から破壊する超兵器。
 球状の宇宙ステーションの中心核も、惑星の中心核と原理は同じ。
 なので、球状の衛星基地ソゴムも破壊出来る。
 西暦6980年頃に完成したこの兵器は、歴史上、三度使用された。
 一度目は、鉱物資源の豊富な惑星が、採掘目的で破壊された。
 二度目と三度目は、戦乱時に衛星基地が破壊され、その報復に、中央司令部のある惑星が破壊された。
 他にも実用実験として、破壊された星や人工衛星は、数えきれない。
 当然、この実験に巻き込まれた悲劇も、数多く存在する。
 人類と人類が作り上げた人工物以外をも破壊する、この超兵器。
 あまりの破壊力に、放棄条約が締結される。
 それが、西暦7235年の事である。

 衛星基地ソゴムの内部のどこかに、侵略者が通る次元の扉がある事は、明確だった。
 その出入り口を、ソゴムごと破壊するのが、コアブレイカーを復活させた目的である。

 その次元の扉に、向かう者がいる事を、誰も予期していなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

TS調教施設 ~敵国に捕らえられ女体化ナノマシンで快楽調教されました~

エルトリア
SF
世界有数の大国ロタール連邦の軍人アルフ・エーベルバッハ。彼は敵国アウライ帝国との戦争で数え切れぬ武勲をあげ、僅か四年で少佐にまで昇進し、救国の英雄となる道を歩んでいた。 しかし、所属している基地が突如大規模な攻撃を受け、捕虜になったことにより、アルフの人生は一変する。 「さっさと殺すことだな」 そう鋭く静かに言い放った彼に待ち受けていたものは死よりも残酷で屈辱的な扱いだった。 「こ、これは。私の身体なのか…!?」 ナノマシンによる肉体改造によりアルフの身体は年端もいかない少女へと変容してしまう。 怒りに震えるアルフ。調教師と呼ばれる男はそれを見ながら言い放つ。 「お前は食事ではなく精液でしか栄養を摂取出来ない身体になったんだよ」 こうしてアルフは089という囚人番号を与えられ、雌奴隷として調教される第二の人生を歩み始めた。 ※個人制作でコミカライズ版を配信しました。作品下部バナーでご検索ください!

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

異世界転移した先で女の子と入れ替わった!?

灰色のネズミ
ファンタジー
現代に生きる少年は勇者として異世界に召喚されたが、誰も予想できなかった奇跡によって異世界の女の子と入れ替わってしまった。勇者として賛美される元少女……戻りたい少年は元の自分に近づくために、頑張る話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...