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異次元からの侵略者

第103話 超空間のはて

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、北部戦線の衛星基地ソゴムを目指す。
 そこに、苦戦中のメドーラとユアがいるからだ。
 ふたりは今、自分達の偽物と交戦している。
 その偽物を立体映像で投影したのは、他ならぬマイだ。
 投影したまま放置してたら、こうなった。
 責任を感じるマイであったが、北部戦線へ向かう途中、ふたりの戦闘機に足止めをくらう。
 この戦闘機は立体映像を投影したもので、人型機体の姿で襲ってきた。
 メドーラとユアの元に急ぎたくて、焦るマイ。
 そこへなんと、リムが駆けつける!
 右半身が麻痺してたリムだったが、アバター体の修理と、魂の調整が、やっとうまくいったらしい。
 マイは一抹の不安はあるものの、その場をリムに託す。
 マイは、メドーラとユアの元に急ぐ。


 超空間を飛ぶマイの戦闘機。
 ワープと言っても、瞬時に移動するわけではない。
 遠く離れたふたつの地点を、別の超空間を通って、その距離を短縮するだけだ。
 この超空間にも、うねりがある。
 そしてワープで行ける距離にも、限界がある。
 つまり、北部戦線に行くためには、三度のワープが必要だった。

「マイ、ワープアウトしたら、光速ブースターの立体映像を投影してください。」
 質量を持った立体映像の投影は、設計図のイメージさえセット出来れば、なんでも投影出来る。
 最初は自分の戦闘機の機体だけだと思ってたが、そうでもなかった。
 投影出来るのは、何でも投影可能。
 それが人間でも、投影可能だった。
 これが今回の事件のきっかけだった。
 マイは立体映像で何かを投影する時、メドーラとユアに大変な思いをさせてる事を、心苦しく思う。
 この思いを払拭するには、ふたりを見事、救い出す必要があるだろう。

「分かったよ、アイ。」
 マイはワープアウトと同時に、光速ブースターを投影させ、自機に装着させる。
 そのまま次のワープイン地点へと、急加速させる。

「リムは無事かな。」
 マイはぼそりとつぶやく。
「ここからじゃもう、確認出来ないわね。」
 マイの疑問に答えるアイ。
 既にリムの所から、二千万光年離れている。
 ちなみに宇宙ステーションから北部戦線への距離は、7500万光年だった。
 そしてアイには分かってた。
 今のリムの状況を。
 なぜなら、サポートAI達は宇宙ステーションの専用のカプセルにいるからだ。
 アイも、リムのパートナーのナコも、そのカプセルにいるので、情報の共有も可能なのだ。
 しかしその事に、今のマイは気づいていない。

 マイは戦闘機を光速の98%の速度で飛ばす。
 そして二度目のワープイン。
 この時、投影した立体映像の光速ブースターが消える。
 超空間では、立体映像は維持出来ないのだ。

 突然、戦闘機が激しく揺れる!
「な、何これ。」
 マイは操縦桿を握る手に力が入る。
「次元震です。」
 それは超空間の地震みたいなもので、滅多に起きるものではない。
 震源は、密接する時空間になるのだが、超空間に影響をおよぼすからには、その震源となる時空間は、えぐい事になってた。
「ねえ、ワープアウトしようよ。このままじゃ、機体がもたない!」
 操縦桿を力一杯握るマイは、悲痛な叫びを上げる。
「駄目です!超空間の方がマシです!
 今ワープアウトしたら、死にますよ!」
 アイも叫ぶのだが、次元震の影響で、よく聞き取れなかった。

 マイがワープアウトしようとしたその時、次元震が治まった。
 マイは右から視線を感じ、その方をチラ見する。
 するとなんと、青い竜が並走して飛んでいる!
「わ、竜がいる。」
 通信も回復し、マイのその一言を、アイが拾う。
「竜ですか?」
 アイは、レーダー類を確かめる。
「竜なんて、どこにも居ませんが。」
 レーダーには、竜の姿はどこにもなかった。
「居るよ、ここに。」
 マイは竜の方に視線を向ける。
 ふと、竜と目があった。

 なんて哀しい眼をしてるのだろう。

 マイがそう思った瞬間、青い竜は超空間のうねりの中へと、姿を消した。
 既に次元震の区間は過ぎていた。
 ワープアウトすると、予定地点から離れていた。
「待って、マイ。航路を算出し直します。」
 マイは、戦闘機の速度をゆるめる。

「そんな。」
 算出されたマイの現在地に、アイは驚愕する。
 そこは、宇宙ステーションから7500億光年離れていた。
 人類未到の地と言っても良かった。
 そこから宇宙ステーションに帰還するには、万回近いワープを必要とし、年単位での移動となる。
 当然、機体の整備も必要になる。
 つまり、マイは帰還の術を失った。

「こりゃあ、あの竜のせいだよな。」
 心当たりは、それしかなかった。
 次元震の影響だとしても、ズレる桁が違いすぎた。
 マイは戦闘機を止め、ゴツいヘルメットを脱ぐと、叫んだ。
「出てこい、青い竜!!」
 マイの叫び声が、漆黒の宇宙空間に虚しく響く。

 マイの声に、答える者は誰も居なかった。
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