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宇宙召喚編

第28話 未来の部屋の中

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚された召喚者には、サポートAIがつく。
 召喚者はチップを内蔵した鉢巻をする事で、サポートAIへの意思伝達が出来る。
 そして、情報のダウンロードが可能となる。
 サポートAIは、常に召喚者と一緒にいる。
 召喚者が戦闘機に乗り込む時は、一緒にいられないが、額に当てがったチップにより、意思伝達は可能。
 司令室の一角にある専用カプセル内にいるサポートAIの声は、召喚者の左手のリストバンド型通信機から、召喚者に届く。
 それが不可能な時は、召喚者の脳内に直接届ける。
 こうして、常に共にいる事が前提の、召喚者とサポートAI。
 この前提が、崩れる時が来てしまった。


 マインの部屋の前でマインを待つマイとジョー。
 マイは、ジョーの横顔をまともに見る事が出来なかった。
「ゼロ!」
 ジョーのカウントダウンが終わる。
「ま、まだ待ってよー。」
 中からマインの声がする。
「待てなーい。開けるぞー。」
 ぐいーん。
 ジョーは部屋の扉を強引に開く。
「さ、マイ。いってらっしゃい。」
「はい。」
 ジョーの凛々しい笑顔にキュンとするマイ。
「ん?どうしたの?早くしないと。」
「は、はい!」
 ジョーに見とれて動けなくなったマイを、早く行こうとうながす。
「い、行ってきます。」
「おう、行ってこい。」

 ジョーに促されて、マイは恐る恐るマインの部屋に入る。
「お、お邪魔しまーす。」
 マインの部屋はモノがあふれ、マイの部屋より広かった。
「広ーい。これが女の子の部屋か。初めて入った。」
 マイは第一印象を述べる。
「女の子の部屋って、あなたも女の子でしょ。」
 マインは少し照れて、そう返した。
「えと、」
 中身はおっさんなマイ。それを言おうか迷ったが、やめておいた。
「僕以外の女の子って意味だよ。」
 それを聞いて、マインは疑問に思った。初めて入った女の子の部屋。
「えと、気を悪くしたら、ごめんね。マイって友達いなかったの?」
 その言葉に、こくりとうなずくマイ。
「ご、ごめんなさい。実は私も友達少なくて、友達を部屋に入れるのは、初めてなの。」
 そう言うマインも、少し照れ顔だ。
「って、マイって記憶が曖昧なんだっけ。」
 マインは、マイとの以前の会話を思い出す。
「そうなんだけど、友達は少ないって言うか、居なかったような感じなんだよね。」
 マイは記憶をたどってみても、記憶は曖昧すぎて、よく分からん。
 まるで、数日前に見た夢を思い出そうとしてるような、そんな感覚だ。
「それも変なのよねぇ。」
 マインはマイの様子を不思議がる。
「普通は覚えているものよ。何月何日の朝に召喚されたのか。
 最後に食べた食事は何だったのか、くらいは。」
「随分違うんだね、所で、」
 マイはマインの部屋を見渡す。

 ベッドがあって、本棚があってテレビがあって、レコーダーの類いがあって、ゲーム機っぽいのが数台。マイにも見覚えのあるゲーム機も混じっている。
「随分違うんですけど、僕の部屋と。」
「マイは召喚されたばかりだからね。これから増えてくわよ。」
 マイの言葉に、先輩ヅラなマイン。
 マイの返しを待つのだが、マイの反応がない。
「マイ?」
 会話の途切れたマイに、マインは声をかけてみる。
 それで我にかえるマイ。
「あ、ごめん。いつもだったらアイがインストールしてくれるんだけどね。」
 マイはチップを内蔵した鉢巻をくるくる回しながら応える。
「そっか、いつもはインストール入るんだっけ。今は、私の説明がいるのね。」
 マインも鉢巻を外した弊害に気がつく。
「うん、説明お願い出来るかな。」
 慣れない事を頼むのは、マイには少し気がひけた。
「いいわ、ミサがやってくれたようにやればいいのね。」
 マインは、どちらかといえば、乗り気だが。
「それでは、こほん。
 私達召喚者はね、働きの報酬として、好きなモノを貰えるわ。」
「好きなモノ?お金とかじゃないの?」
 早速説明に割り込むマイ。
「いい質問ね。」
 長文説明待ったなしと思ってたマインは、ひと呼吸おけるこの展開は、どちらからというと、嬉しかった。
「お金で貰っても、私達の移動区画内にお店はないから、お金は使えないの。」
「でも、居酒屋区画ってのがあるんでしょ?アイとミサがしょっちゅう行ってるじゃん。」
 早速つっこみを入れるマイ。あったよね、そゆの。
「私はお酒飲めないから、よく分からないんだけど、多分、ポイント対応なんだと思う。」
「ポイント対応って?」
「んー、私の説明が良くなかったわね。報酬で貰えるのは、モノじゃなくてポイント。このポイントをモノに換えてるイメージかな?」
 マイは早くも頭がいたくなる。
「ちょっと待って、ポイントってポイントカードとかあるわけ?
 今マインは、何ポイント持ってるの?」
「さあ?」
 マインも早速説明に行き詰まる。
 書いてるヤツも迷走してるのは、秘密だぞ。
「私も報酬であれ欲しい、これ欲しいって言うだけで、ポイント意識した事ないから、よく分からなーい。
 でもちょっとお菓子食べたいって時のミサの反応だと、ポイント対応だと思うのよ。」
 マインも、よく分かっていないらしい。
 書いてるヤツも、今思いついた設定だから、なんとなくで理解しよう。
 マイも、なんとなくで理解した。
「欲しいモノなら、多分何でも貰えるわ。例えばこれ。」
 マインはゲーム機の山を指差す。
「この時代のゲーム機はもちろん、私の時代のゲーム機、もっと古い昔のレトロなゲーム機。
 なんか、イメージ出来るモノなら、いけるみたい。」
 またもや曖昧な説明。アイの補完説明が欲しい所だ。
 でも、普段何気なくやってる行動を言葉にしようとしたら、こんなとこだろう。

「ゲーム機か。」
 マイは、八台くらいあるゲーム機の山に興味を持つ。
 こんな沢山のゲーム機。プレイする時間はあるのだろうか?
 一応建前としては、マイ達召喚者は、戦争するためにこの時代に召喚されている。
 ゲーム機のコントローラーを手に取って見比べてみるも、時代によっての変化は、あまりなかった。
「ゲームに興味あるの?やってみる?」
 マインはコントローラーをいじりはじめたマイに、聞いてみる。
「いや、今はマインと話していたいから。」
「ま、マイったら。」
 マイの応えに、少し照れるマイン。
 そんなマインにお構いなく、マイの興味は次に移る。

 今度は本棚だ。
 五段の本棚で、横幅は十メートルはありそうだ。
「これ、全部読んだの?」
「当然。」
 マインは鼻を高くして応える。
「本も報酬で貰えるわ。歴史に関する本はダメだったけれど、それ以外なら貰えたわ。この時代に発見された理論に関する本なんかは、ちゃんと貰えたわ。」
「それはなんともいい加減な判断基準だね。」
「ほんとよ。歴史モノの創作物はよくて、歴史書はダメってなんなのよ?」
 マインも、曖昧な判断基準をグチにする。
「西暦5000年頃を舞台にした本なら、史実だろうが創作だろうが、こっちには分からないじゃん。どっちも空想よ。」
 マインのグチも、もっともなような、違うような。
 マイにはよく分からなかった。
 そんなマイに、一冊の本が渡される。
「これが『のがない』よ。この前話しに出てきたでしょ?」
 かわいらしい女の子のイラストが表紙に描かれたその本。
 そしてその本は、マイには読めなかった。
「これ、何語で書かれてるの?英語でもなさそうだし。」
「何語って、現代語だけど。あ、そっか。チップないから、翻訳機能働かないのか。」
「ふーん、これが現代語か。アルファベットでもないようだし、八千年もすれば変わるもんだねぇ。
 ってあれ?マインって英語を喋ってるんだよね?僕は日本語」
「マイ!」
 マイは、何かに気づく。
 それ以上考えるなとばかりに、マインは叫んだ。
 何事かとマインを見るマイに、マインはあたふたと言い繕う。
「あ、あのね、マイ。えっとね、えっと、そう!
 この時代って、夢みたいなもんなのよ。
 召喚された夢を見ているの。現実には、ちょっと違うけど。
 分かる?」
「ああ、そんな説明されたっけ。それがどうしたの?」
 マインは、ひとまず理解してくれたマイに、ほっとする。
「夢なのよ。夢の中なら、出来る事はなんでも出来る。
 意思疎通なんて、出来て当たり前でしょ?
 私達はずっと会話してきたのよ。これは出来て当然なの。」
 マインの説明に、どこか疑問を持ったような表情のマイ。
「マイ、お願い、私を信じて。
 私達は、ちゃんと話せてる。英語、日本語、関係ない。
 私達は、意思疎通出来てるの。この事はもういいでしょ?
 これ以上考えないで。お願い。」
 マインの切実な表情に、この先何かあるとマイは思った。
 それは何かと興味はあるが、マインは詮索しないでほしいみたいなので、マイは考えるのをやめた。

 出来る事は出来る。
 つまり、出来ない事は出来ない。
 英語と日本語で、何で会話が成立するんだ?
 こう思った瞬間、会話は成立しなくなる。
 会話は出来なくても、意思疎通は出来る。
 こう思えれば、意思疎通は出来る。
 だがこの考え方は、会話を媒介にしない状況では、かなり危うい。

 次にマイは、部屋の片隅に、敷物を被せられた棚らしきモノに興味がわく。
 マイは敷物をめくる。
「だ、ダメー、そこはダメー」
 マインは止めに入るも、間に合わなかった。
 敷物の下に隠されていたのは、店によくあるショーケースだった。
 中身は、美少女フィギュアが多数。
「み、見られた。見られたくなかったのに。」
 マインは床にがっくし両手をつく。
 マイが部屋に入るまでの十秒の猶予。
 その間に出来たのは、ここに敷物を被せる事だけだった。
「えー、いいじゃん、これ。見られたっていいじゃん。」
「ほんと?」
 マイの言葉に、マインもほっとする。
 美少女が言ってると思うと、凄くいい場面だ。
 しかし、中身はおっさんな事を思うと、凄く気色悪い!
 これは、触れないでおこう。後で削除するんだ、このシーンは。
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