上 下
24 / 215
宇宙召喚編

第24話 狙われる理由

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 星間レースに優勝したマイ達ブルレア連邦に対し、レドリア合衆国が挑戦状を叩きつける。
 今まで恒星系の調査開発に投じた多額の出費が、無駄になってしまったからだ。
 その穴埋めに要求してきたのが、ブルレア連邦のシリウス構想である。
 シリウス構想の試作品であるマイとマインの機体を、求めてきたのだ。
 ブルレア連邦も、挑戦状を破り捨てる事はしなかった。
 戦闘の結果と言う事ならと、マイとマインがレドリア合衆国に接収される事を、黙認したのだ。
 これは、マイ達が勝とうが、何度も戦闘は行われる事を意味している。
 戦闘が終わるのは、マイ達がレドリアに拿捕された時か、レドリアの挑戦者を圧倒的に打ち負かして、挑戦する気を無くさせるしかなかった。


 人類の歴史は、戦争の歴史といってもいい。
 戦争は、人類に大きな科学的進歩をもたらした。
 戦場で争いあった人類は、道具を使い、機械の補助を受け、機械に依存するようになる。
 いつしか戦場から人類は消える。
 完全な機械化が実現したのである。
 しかし、その期間も長くは続かない。
 機械の管理制御面の隙を突かれ、乗っ取られる事もしばしば起こる。
 それに、機械が暴走する事もしばしば起こる。
 人類は再び、戦場に戻った。
 そして人類を補助する機械が発達し、戦場は完全な機械化が実現する。
 そして歴史は繰り返す。
 何度かこの循環を繰り返した後、とある古文書が発見される。
 これは、古代人の妄想を書き残したものであったが、今の時代の人類にとって天啓とも言える構想が、書き記されていた。
 それが、脱出用転送システムである。
 魂をアバターに入れ、転送させる。
 この時代、物質転送システムはあったが、生物を転送させる事は出来なかった。
 生物は転送させた瞬間、魂が抜けるのだ。
 この欠点の解決策を、はるか古代の人間が思いついていたのだ。
 この古文書を発見したブルレア連邦は、レドリア合衆国とグリムア共和国にも、この脱出用転送システムの事を伝える。
 戦争とはビジネス。
 ビジネスは、相手がいないと成立しない。
 レドリアもグリムアも、ブルレアから得た情報をもとに、独自のシステムを構築させた。
 ブルレアは、古文書の全てを伝えたわけではない。
 脱出用転送システムについてのみである。
 古文書に記された壮大な構想は、ブルレアに秘匿された。
 ブルレアはこの古文書に記された構想の実現に、とりかかる。
 それが、シリウス構想である。
 最初に、四機の機体が作られた。
 試作品の一号機、シリウスαI〔アルファーワン)
 試作品の二号機、シリウスαⅡ(アルファーツー)
 それが、マイとマインの乗る機体だった。

 情報のインストールが終わる。
「あ、やっと終わった。いつまで待たせるのよ?」
 先にインストールが終わったリムは、今やっと終わったマイにちょっと八つ当たり。
「それ、マイのせいじゃないでしょ?」
 マイの直前にインストールの終わったマインは、自分にも当てはまる事なので、思わず反射的に、強く反論してしまう。

 インストールにかかった時間はまちまちで、リムはすぐに終わったが、マイとマインへのインストールは、その倍の時間がかかった。
 これは、古文書の発見を知る時代に生きた人間には、半分くらい解説が省けた事を意味していた。
「そこ、けんかしない!」
 ジョーが注意する。
 ジョーはインストールの間、ずっと待っていたのだ。リム以上の時間を。
「ま、これで事情がのみこめただろ。なんでマイとマインが狙われるのか。」
「えと、分かりません。」
 マイのその発言に、ジョーはずっこける。
「アイ、ちゃんとインストールしたのか?」
「そのはずですが、マイには難しかったみたいですね。」
 いきなり話しの矛先向けられたアイは、自分の正当性だけは主張する。
「ちゃんと理解させるのが、おまえの役目だろ。」
 ジョーはそう言うが、アイは納得いかない。
「私も、マイ専用に分かりやすい解説をしています。ですが、それを理解出来るかどうかは、マイ自身の問題です。」
「ええ、分からなかったわ。」
 ジョーとアイとの口げんかに、マインがわってはいる。
「これ、古文書を提示すれば済む話しですよね。
 私達が狙われる理由がないわ。」
 マインはそう続けると、マイにほほえみかける。
 これが言いたかったんでしょ、と。
 でも、マイはそのほほえみの意味が分からず、キョトンとしている。
 そう、マイは普通に分からなかっただけだった。
 それにはマインも唖然。こんな事言うんじゃなかったと、ちと後悔。
「あ、それ私も思った。」
 マインの発言に、ユアも同調する。
「古文書の内容を公開すればいいだけでしょ?」
 それに対して、マインは首をふる。
「早い時期に、そうすればよかったけれど、今は事情が違うわ。
 目の前の機体を奪った方が手っ取り早い。
 古文書なんて所詮、古代人の妄想に過ぎないのだから。」
 マインのその発言に、一同納得する。

「マイに経験積ませるだけのはずだったのにな。
 本当にすまない!」
 ジョーはそう言って頭を下げる。
「ほんと、調子にのって優勝なんかするからよ。
 とんだ災難ね、マイン。」
 リムはそうマインに言葉をかける。
 横で聞いているマイにとって、これは一番こたえた言葉だった。
 勝ってはいけないレース。
 そんなレースに出る意味はあるのか?出るからには、勝ちたい!
 そんな身勝手な思いが、今、マインを危険にさらしてしまう。
「ごめん、マイン、私のせいで。」
 マイは、それだけ言うのが精一杯だった。
「謝る事なんて、ないわよ。」
 マインはマイの気持ちをくみとり、優しく声をかける。
「私がアルファーツーに乗ってる限り、これはつきまとう問題よ。
 その理由が分かっただけでも、良かったわ。」
 マイは、マインのその優しさが嬉しかった。
 マイは言葉にならずにうなずくのみだった。

「それにこれ、マインだけの問題じゃないからね?」
 マインを気づかうあまり、その事を忘れているのではと、ユアは心配になる。
「狙われるのは、マイも一緒よ?マイも気をつけないと駄目だよ。」
「あ」
 ユアに言われて、マイは初めて気がついた。
 僕も狙われるのか。そう言えば、僕の機体ってアルファーワンだったな。
「あは、そう言う事か。」
 機体の名前を思い出して、マイはようやくこれまでの話しの流れを理解出来た。レドリアが、なぜ挑戦状叩きつけてきたのかを。
「マインを巻き込んじゃってなんだけど、これって納得いかないよね?」
「ええ、レースの優勝に対する仕打ちじゃないわ。」
 全てを悟ったマイの発言に、ユアが続く。そしてケイに視線を向ける。
「え、私?」
 いきなり話しを振られた形のケイは少し戸惑う。
「私は、勝手に暴走しちゃって、すぐにやられちゃったから、強く言える立場じゃないけれど、、
 私も納得いかないわ。」
「なら、勝てばいいんだよ。」
 何かを思いついたように、ユアはつぶやく。
 そして、言葉をつなげる。
「勝てばいいんだよ、この前の星間レースの時みたいにさ。
 あの時だって、負けが決まったようなレースだった。
 それを、私達は勝ったんだ。」
「そうだね、今度も勝てばいいんだよ。」
 ユアの言葉に、マイも同意する。
「あのーふたりとも?それが出来そうにないから、みんな困ってるんじゃない?
 相手はあのゴンゴル三姉妹なのよ?」
 ケイがふたりを現実に戻す。
「そうだった、ゴンゴル三姉妹だった。」
 ユアは現実に戻された。
「ゴンゴル三姉妹なら、倒す方法あるじゃん。」
 マイは戻ってこなかった。いや、戻ったのか?
 一同が理解にくるしむ中、マイは続ける。
「みんなも見たじゃん、あの星間レースで。」
 そう、ゴンゴル三姉妹を倒す方法はあった。

 ブレイブ。
 それが先の星間レースで激突王ダントッパが、ゴンゴル三姉妹を打ち負かした戦術だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

えっちのあとで

奈落
SF
TSFの短い話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

義体

奈落
SF
TSFの短い話…にしようと思ったけどできなくて分割しました。

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...