未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

文字の大きさ
上 下
14 / 215
宇宙召喚編

第14話 滅んだ?民族の誇り

しおりを挟む
 これは西暦9980年のはるか未来のお話。
 この時代に召喚されたマイは、三国対抗の星間レースにブルレア連邦代表として、参加する事となった。
 代表者はマイ、ユア、ケイの三人。
 対する相手の発表は、まだ先だった。
 勝利を期待されていないこのレース、これに勝つ事を考えると、マイのわくわくがとまらなかった。


 マイは、部屋を出ていった銀髪のロングヘアの召喚者を追いかける。
「あの、待ってくださぁい。」
 走り寄ってくるマイの声に、銀髪の召喚者は立ち止まって振り返る。
「あの、あなたも日本人なんですか?」
「何?」
 マイの言葉に、銀髪の召喚者はマイを睨みつける。
「日本刀って、知ってたじゃないっすか。」
「黙れ、くそジャップ!」
 銀髪の召喚者は、右手でマイの口元を鷲掴みにし、そのまま壁に叩きつける。
「日本刀を知ってただけで、日本人だと?図に乗るなよ、劣等民族が!」
「れ、劣等って、ひどいよ。」
 壁に叩きつけられたマイは、なんとか口を開く。
「そ、そりゃあ、この時代には滅んでるみたいだけどさ、」
「何?」
 マイの言葉を聞いて、銀髪の召喚者の握力が鈍る。
 マイはその手を振り解く。
「それって、禁則事項だぞ。」
 銀髪の召喚者は、考えこむ。

 禁則事項とは、その者に知られてはならない事。
 主に、その者の将来に関わる事が、それに当たる。
 マイにとっては、はるか未来の事とはいえ、日本人の絶滅なんて知ってはいけない事だ。
 それをなぜ、マイは知ってるのだろうか?
 そして、それを知ってしまったらには、ここにはいられない。
 記憶を消去され、元の時代に戻された後、徐々に衰弱死に向かう。

「なんでそれを知ってるんだ?」
「ジョーが教えてくれたから。」
「何?」

 マイの解答に、さらに疑問が深まる。
 だけど同時に、見えてきたものもある。マイの特別性。
 メカニックマンという肩書きではあるが、実質このチームの司令官。
 そんなジョーが、あえて教えた。
 これには、何かある。
「なあ、ふたりきりで話しがしたいなあ。」
 銀髪の召喚者は、顔はマイに向いてるが、自分のサポートAIに対してそう言った。
「そうですね。あなたの気のすむように。」
 そう言って銀髪の召喚者のサポートAIは、マイのサポートAIであるアイと、がっしり肩を組む。
 そしてそのまま歩きだす。
「あの、ミサさん?何するのかしら?」
「なあ、たまには私達も、話し合わないか?アイ。おまえには聞きたい事があるんだよ。」
「私には無いですよー。」
 ふたりのサポートAIは、その場を後にした。
 残されたのは、マイと銀髪の召喚者のふたりだった。

「紹介が遅れたな。私はマイン。西暦2300年のハワイから来た。」
「ぼ、僕はマイ。西暦2020年頃の日本の、あれ?日本のどこから来たのでしょう?」
 マインという銀髪の召喚者の自己紹介に、つられたマイであったが、自分の出身地が分からなかった。さらに言えば、年代も定かではなかった。

「なるほどな、記憶が定かではないのか。なら禁則事項に少しくらい触れても問題ないって事か。」
 マイの様子を見て、マインはそう確信する。
 この確信が正解なのか、今のマインには分からない。
「あの、西暦2300年って事は、何か知りませんか?日本について。」
 西暦2000年頃からはその存在が曖昧になって、西暦3000年には確実に滅んだとされる日本。
 西暦2300年のマインなら、何か知ってるかもしれない。
 その時代、日本はどうなっていたのだろう?
「それは、私の口からは言えないな。どこから禁則事項なのか分からないからな。」
「そう、ですか。」
 マインの言葉に、少し落ちこむマイ。
 そんなマイを見て、自分が言える範囲の事を、マインは口にする。
「マイ個人ならそこそこ優秀っぽいが、集団になると、ダメだ。」
「なんの事ですか?」
 マイは、マインの言わんとする事が分からない。
「おまえら日本人の事だよ。とにかく個性を潰す。昆虫のコロニーのような人種だろ。」
「そう、ですね。だから滅んだのかな。」
 マインの言葉は、マイにとってどこか納得のいくものだった。
 そしてマインも、この言葉を口にして、何か分かった気がした。

 シリウス構想。
 個性を潰された日本人ほど、この構想にはふさわしいのかもしれない。

 そしてマインは言葉を続ける。
「私のおばあちゃんのおじいちゃんが、日本人だった。」
 マインのその言葉に、マイはやっぱりと思った。口にはしなかったが。
 ハワイという土地柄、日系人が多い気がするのは、マイの偏見かもしれない。
 ふたりの外見はアバターであるが故に、その外見からは人種の判断が出来ない。
 その行動と言動によって、推測するしかないが、それこそ偏見なのかもしれない。

「私は、私の中に流れる劣等民族の血が、死ぬほど嫌だった。」
 マインは、それで馬鹿にされた日々を思い出す。
「ちょっと待ってよ。マインはマインでしょ。」
 マインはその言葉にハッとする。そして怒りの感情もわいてくる。
 言わないでくれ、その先を。
 とマインは思った。
「マインはマイン。僕は僕だよ。劣等民族だなんて、関係ないから!」
 その後、しばしの沈黙。マインはマイの言葉の続きを待っていた。
 その様子に、マイも何か異質なものを感じとる。
「マイン?」
 マイの呼びかけで、マインは安堵する。
「その言葉、よくおばあちゃんが言ってたよ。マインはマインだって。劣等民族だなんて関係ないって。
 でも、その後にこう続けるんだ。日本人としての誇りを忘れるなって!」
 マインはその言葉を口にする事で、怒りの感情が込み上げてくる。
「私は、アメリカ人だ!アメリカ人の誇りはあっても、劣等民族の誇りなんて無い!無いんだよ…。」
 マインがいくら否定しても、その体に日本人の血が流れているのは、事実である。
「そんな誇りなんて、どうでもよくない?」
 マイには、マインの気持ちがいまいち分からない。民族の誇りみたいな事を言ってるが、その前に自分は自分だし、民族なんて大きな括りよりも、まずは自分自身の誇りの方が大切ではないのか?
 そんな事を考えているマイに、マインは言う。
「劣等民族だろうが、自分の民族に誇りを持てないヤツは、もっとくずだ!」
「そんな誇り、持ちたくないよ。」
 マイは、自分の薄れた記憶をたどっても、日本人としての誇りなんてものを、感じる事は出来なかった。
 どちらかと言うと、恥ずかしいぞ。
 そんなマイを見て、マインは何か分かった気がした。
「なるほど、そりゃ滅ぶわ。自分の民族に誇りを持てないんじゃな。」
「何?」
 マイも少しカチンとくる。
「ユダヤ人を見てみろよ。あいつら紀元前に国を滅ぼされたのに、しぶとく残ってただろ、おまえの時代でも。
 民族の誇りを持つって事は、そう言う事だ。」
 そのマインの言葉に、マイも納得してしまった。
 少なくともマイの時代、日本人である事に誇りを持っている日本人は、そう多くはなかった。
 これは時代のウネりの中に消えたとしても、歴史の必然だとしか思えない。

 そして、ここで疑問が浮かぶ。

 なぜマインのおばあちゃんは、日本人としての誇りを持てと言うのだろう。
 ああ、そうか。
 その答えは、マイにはすぐに分かった。
「おばあちゃん、おじいちゃんの事が大好きだったっんだよ。」
「え?」
 それは、マインが考えた事も無かった事だった。
 民族の誇りなんて分からず、個人の誇りの方が大事だと思うマイだからこそ、導き出された答えだった。
「大好きなおじいちゃんの血に、誇りを持ってたんだよ。」
「そう、なのか、?」
 確かに、そう考えると納得がいく。しかし、そんな単純なものなのだろうか?
「マインは、おばあちゃんの事嫌いなの?」
 その言葉に、マインは思わず涙ぐむ。
 日本人の誇りを持てと、しつこく言ってきたのは嫌だった。
 でも、それ以外の事は…。

「大好きだったよ、おばあちゃん。」
 それは、マインが自分の体に流れる日本人の血に、誇りを持てた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

おじさんと戦艦少女

とき
SF
副官の少女ネリーは15歳。艦長のダリルはダブルスコアだった。 戦争のない平和な世界、彼女は大の戦艦好きで、わざわざ戦艦乗りに志願したのだ。 だが彼女が配属になったその日、起こるはずのない戦争が勃発する。 戦争を知らない彼女たちは生き延びることができるのか……?

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

悪魔の契約

田中かな
SF
ショートSFです。暇つぶしにどうぞ

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...