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銀の笛奪還編

第22話 勇者推理を間違えてた

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 勇者ウラワが魔王を倒した後の事を語る、クマガイユミコ。
 ユミコの話しは、どこまで本当なのだろうか。
 俺には、全部本当に思えてならない。


「だから私は、タカスナの前から姿を消した。」

 つまりユミコの愛したタカスナは、当時10歳のスーシ姫と一夜を供にしたのか。
「最低だな。何が勇者ウラワだよ。最低のクズ野郎じゃないか!」
 俺は思わず吐き捨てる。
 俺はそんなヤツの子孫だなんて、この身体に流れる血を、一滴残らず流し捨てたい気分になる。

「でもね、この話しには後日談があるのよ。」
 とユミコは話しを続ける。
「スーシ姫はあの晩、タカスナに睡眠薬を盛ったのよ。」
「逆じゃねーのか!」

「お疲れのタカスナに対する、特別なおもてなし。
 笑っちゃうでしょ。
 私の銀の笛は、心地いい子守唄だったのよ。」
 ユミコの声に、涙がこもる。
「笑えねーよ、そんな話し。」
 俺の目からも、涙が流れる。

「私がそれを知ったのは、六年後。
 ふたりの馴れ初めを聞いた時だったわ。」
「馴れ初めって、そう言う事か。」
「ええ、そう言う事よ。」
 つまり俺は、タカスナとスーシ姫の子孫って事か。
 ユミコの話しを聞いた後だと、やはり、心が痛む。

「だから私は決めたの。
 絶ーっ対、タカスナの子孫の力になってやるって。
 これはあの時、タカスナを信じられなかった事への、罪滅ぼしよ。」

「あなたってひとは。」
 俺は感動のあまり、涙が流れる。
「死してなお、タカスナの為に、力になろうだなんて。」
「はあ?勝手に殺さないでよ。」
「え?あなたは幽霊でしょ?」
「幽霊がどうやって、力になるのよ。
 私は生きてます。」
「でも、あなたの姿が見えません。
 どこにいるのですか。」
「私の身体は、あなたの前の、壁の向こう。」

「壁の向こう。」
 俺の目の前には、金属で作られた仰々しい壁がある。
 これが古代技術らしいが、詳しくは分からない。

「つまり、冷凍睡眠ってヤツですね。」
「んー、出来ればそれが一番良かったんだけど、寝てたら外の様子が分からないじゃん。」
「あ、そだね。」
 今俺の前に現れたユミコ。
 確かに寝ていたら、そのまま寝過ごしてしまう。
 俺が現れる時期を、ピンポイントで分からないかぎり。

「だから私は、禁断の技法をこの肉体に施したの。
 あの日から私の心臓は、一年に10万回しか鼓動しなくなったの。」
「10万回?」
 俺はその数に驚く。
「10万回って言ったら、人の心臓が1日に鼓動する回数と、ほぼ同じじゃないか!」

「ええ、だから私の肉体には、この453年の歳月は、453日でしかないわ。」
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