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Episode4 京子

321 久志、出撃!

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 こんな状況で眠れるとは思っていなかった。
 隔離壁かくりへきの生成は、想像以上に体力を消耗しょうもうさせるようだ。熟睡からの目覚めにハッと目を開くと、綾斗あやとの視界に「おはよ」という久志ひさしの顔が飛び込んで来た。

「今、何時ですか?」
「そろそろ日が変わる所だよ。少しは休めた?」
「はい」

 食い付くようにたずねて、その答えに安堵あんどする。目を閉じていたのは30分程だろうか。
 アルガスのテントの中は、相も変わらず施設員や護兵ごへいたちが黙々と仕事をしている。

「もう少し休んでても構わないよ?」
「そう言う訳にも行きませんよ。松本さんは見つかりましたか?」
「それっぽい情報は入ってないよ。けど、仲間がやられたって言う話もないから安心して」

 久志は左手に抱えていた白衣を側の椅子に掛けて、戦闘の音に耳を澄ます。
 「分かりました」と置き上がる綾斗に、枕元の眼鏡を差し出した。

「少し曲がってたから直しておいたよ。掛け具合はどう?」
「ありがとうございます。問題ありません」

 綾斗は眼鏡をかけてベッドから足を下ろし、毛布の上に乗せてあった上着を掴んだ。
 所々に血の跡や破れはあるが、まだ原形は留めている。

「もういいの? まだ早いんじゃない?」
「大した怪我はしていないんで、アップして向かいます。久志さんも出撃ですか?」
「うん。曳地ひきちさんに残ってろって言われたけど、流石にそろそろ出たいかな」
「それって……脚は大丈夫なんですか?」
「……やっぱりわかる?」
「まぁ……」

 苦い顔の久志に、綾斗も苦い顔で答える。
 久志が佳祐けいすけに脚を折られたのは夏の始めの頃だ。もうすっかり歩けるようになり普段の生活に支障はなさそうだが、戦闘となればそうはいかない。
 たまに動きに出る違和感は、無理すれば悪化させてしまうものだろう。

「脚なんて無くたって、キーダーは戦えるよ」
「脚がないと逃げられないんですよ。だから無理はしないで下さいね」
「分かってるよ、ありがとね」

 久志は緩んだゴムで髪をまとめ直し、「行くね」と手を上げた。

「久志さん、出撃ですか。気を付けて行って来て下さいね!」
「ありがとう」

 入口近くから声を掛けてきたのは白衣姿の銀次ぎんじだ。ずっとテント待機だった颯太そうたがキーダーとして出撃して、本部から呼び出されたらしい。
 彼の声に反応して、周りの施設員たちも次々に久志を送り出していく。

 改めて綾斗が「気を付けて」と広げた手を、久志はパチリと叩いて外へ出て行った。
 駆けていく背中を見送る綾斗に、銀次がゼリードリンクを渡す。

「颯太さんからの差し入れです。綾斗さんの体調はどうですか?」
「まぁまぁかな。ありがとうね」

 てきぱきと動く銀次はテント内を回り、意欲的に作業している。
 そんな彼を呼ぶ声があった。

「銀次」

 壁に張り付いて地面に座り込むマサだ。
 「はい」と答える声が震えて、綾斗は彼がマサを慕っていた事を思い出した。




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