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Episode4 京子
312 嘘……?
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彼女が境界線を越えて来た時から、大まかな位置は把握していたつもりだ。
接触した修司の話では脚を怪我しているというが、相変わらず諦めは悪いらしい。
「修司くんとソックリだね」
付け焼き刃の能力者が減ったホルスが、いよいよ本来の戦闘員を出して来た。そのタイミングを狙って、彰人は律の元へ向かう。
豪快な動きと出力のレベルは京子と似ている。けれど京子は別の所で戦っているのを確認済みだ。
「会いたかったよ」
少し前に動きが止んで、クールダウンする彼女の行く手を阻む。律は思った以上にダメージを受けているようで、ロングスカートの前が裂け、脚が半分以上露出していた。
黒く汚れた頬をカーディガンの袖で拭い、律は「彰人」と鋭く目を光らせる。
数日前に地下牢で会った時は落ち着いている様子だったが、再び戦場に戻った彼女は本来のテンションを取り戻しているようだ。
「随分と元気だね。さっきまで戦ってたみたいだけど、相手は誰だった?」
「敵討ちでもしてくれるつもり?」
「そうじゃないよ。ただの興味本位」
彰人はニコリと目を細める。
「貴方っていつもそんな感じよね。何考えてるか分からないその笑顔に、残酷な言葉を隠してる。私を逃がした貴方は私を倒すつもりなんでしょう?」
「そうだね、僕も君と戦うつもりでここに来たんだ。残っててくれて良かったよ」
「────」
律は疑いの目でじっと彰人を睨んだ。
「僕はただ任務をこなしてるだけだよ」
「もういいわ」
本音をそのまま言ったつもりだ。
律は諦めたように首を左右に大きく振り、胸の前で腕を組む。
「さっき戦ったのは太ったオジサンよ。粘着質でやりにくかったわ」
「太ってるのと体格が良いのを混同しちゃ駄目だよ」
「そんなの同じよ。どうでも良いわ」
彼女を相手していたのはマサかと予測を立てていたが、どうやら中国支部の曳地らしい。さっき飄々とした顔で走って行く姿を見掛けた。
彼とはあまり話したことはないが、アルガスでは西のリーダーとして評価の高い男だ。
「それで、どっちが勝ったの?」
「面倒だから途中で止めたわ」
さっきの曳地と今の律を見れば、彼女にとって不利な展開だった事は想像できる。脚の怪我と聞いていたが、腹の辺りにも血が滲んでいるのが分かった。
「じゃあ今度は僕と戦って決着を付けようか」
「勿論よ」
彼女が戦いを快諾する。
彰人は「良かった」と笑んで、能力の抑制を緩めた。
元バスクの彰人は、特例として銀環を付けずに能力を自分で制御してきた。ただ、キーダーになって久志から渡された銀時計が、幾分かその役目を果たしている。それは前の戦いでも彼女に説明していた。
彰人は銀色の腕時計を外してポケットにしまう。
「こうすることが君と戦う礼儀かなと思って。一応言っておくけど、バーサーカーには及ばない程度だから安心して」
「嘘……?」
「嘘じゃないよ。君がバーサーカーの力を知らないだけだ」
みるみると湧きだつ気配が、律を途端に怯ませる。
戦いに向けてそれなりに準備してきたとはいえ、あの薄暗い地下牢では限度があるだろう。
決着がつくのは一瞬だ。
光の刃で胸を突かれた律が、彰人の腕の中に崩れた。
接触した修司の話では脚を怪我しているというが、相変わらず諦めは悪いらしい。
「修司くんとソックリだね」
付け焼き刃の能力者が減ったホルスが、いよいよ本来の戦闘員を出して来た。そのタイミングを狙って、彰人は律の元へ向かう。
豪快な動きと出力のレベルは京子と似ている。けれど京子は別の所で戦っているのを確認済みだ。
「会いたかったよ」
少し前に動きが止んで、クールダウンする彼女の行く手を阻む。律は思った以上にダメージを受けているようで、ロングスカートの前が裂け、脚が半分以上露出していた。
黒く汚れた頬をカーディガンの袖で拭い、律は「彰人」と鋭く目を光らせる。
数日前に地下牢で会った時は落ち着いている様子だったが、再び戦場に戻った彼女は本来のテンションを取り戻しているようだ。
「随分と元気だね。さっきまで戦ってたみたいだけど、相手は誰だった?」
「敵討ちでもしてくれるつもり?」
「そうじゃないよ。ただの興味本位」
彰人はニコリと目を細める。
「貴方っていつもそんな感じよね。何考えてるか分からないその笑顔に、残酷な言葉を隠してる。私を逃がした貴方は私を倒すつもりなんでしょう?」
「そうだね、僕も君と戦うつもりでここに来たんだ。残っててくれて良かったよ」
「────」
律は疑いの目でじっと彰人を睨んだ。
「僕はただ任務をこなしてるだけだよ」
「もういいわ」
本音をそのまま言ったつもりだ。
律は諦めたように首を左右に大きく振り、胸の前で腕を組む。
「さっき戦ったのは太ったオジサンよ。粘着質でやりにくかったわ」
「太ってるのと体格が良いのを混同しちゃ駄目だよ」
「そんなの同じよ。どうでも良いわ」
彼女を相手していたのはマサかと予測を立てていたが、どうやら中国支部の曳地らしい。さっき飄々とした顔で走って行く姿を見掛けた。
彼とはあまり話したことはないが、アルガスでは西のリーダーとして評価の高い男だ。
「それで、どっちが勝ったの?」
「面倒だから途中で止めたわ」
さっきの曳地と今の律を見れば、彼女にとって不利な展開だった事は想像できる。脚の怪我と聞いていたが、腹の辺りにも血が滲んでいるのが分かった。
「じゃあ今度は僕と戦って決着を付けようか」
「勿論よ」
彼女が戦いを快諾する。
彰人は「良かった」と笑んで、能力の抑制を緩めた。
元バスクの彰人は、特例として銀環を付けずに能力を自分で制御してきた。ただ、キーダーになって久志から渡された銀時計が、幾分かその役目を果たしている。それは前の戦いでも彼女に説明していた。
彰人は銀色の腕時計を外してポケットにしまう。
「こうすることが君と戦う礼儀かなと思って。一応言っておくけど、バーサーカーには及ばない程度だから安心して」
「嘘……?」
「嘘じゃないよ。君がバーサーカーの力を知らないだけだ」
みるみると湧きだつ気配が、律を途端に怯ませる。
戦いに向けてそれなりに準備してきたとはいえ、あの薄暗い地下牢では限度があるだろう。
決着がつくのは一瞬だ。
光の刃で胸を突かれた律が、彰人の腕の中に崩れた。
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