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Episode4 京子
279 勝ち目はないのか
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誰かが彼女を助けに来る事なんてないと思っていた。それが敗因だ。
元キーダーの松本秀信は、綾斗と同じバーサーカーだ。
アルガス解放で一度トールになった彼は、ホルスの作った薬で能力を復活させた。
恐らく今まで相当な量を飲んでいるのだろう。
前に海から上がった死体の確認へ行った時に彼と会って、その異常なまでの臭気に気付いた。体内に蓄積された毒が、彼の身体を蝕んでいる。
口元に血の跡が見えて、修司は怪訝に眉を顰めた。
あの時と同じように松本は身体をふらつかせているが、律との戦闘を阻んだ彼に攻撃を仕掛けることが出来ない。
ただそこに立っているだけなのに、圧倒的なレベルの違いを肌で感じ取ってしまったからだ。
「オニイサン、久しぶりだな」
「…………」
松本が自分を覚えていたのは意外だった。逆に律は「誰?」と彼を睨みつけている。
忍とさえ会った事のない彼女が松本に会う機会など、皆無に等しいのかもしれない。
「誰でも良いだろ。これ以上続けたらアンタが死ぬだけだぜ。一回離れなよ」
「助けてなんて言ってないわ! ふざけないで!」
足からの出血に身を屈め、それでも律は修司と戦う意思を見せる。
「俺は構いませんよ。律さんと決着をつける覚悟はできています」
「キーダーが私情で戦うものじゃない」
松本の手刀が素早く律のみぞおちを突く。
ダメージで注意が散漫になっているのか、彼女はクリティカルヒットを喰らってガクリと崩れた。松本が「ふん」と彼女の腹を片腕で拾い上げ、小脇に抱える。
「貴方は律さんを助けに来たんですか?」
「そんな優しい世界じゃねぇんだよ」
横浜の戦いの時、負傷した彼女を助けに来る仲間は1人もいなかった。
「まだ死なれちゃ困るだけだ。こっちはちゃんと戦える人手が足りないんでね」
「だったら俺と、戦って下さい」
「はぁ?」
敵だと認識されていないのだろうか。
律を抱えたまま背を向けようとする松本に向けて、修司は趙馬刀を構える。
無謀だと分かっている。けれどここで去って行く彼の行動に安堵するのはキーダーとして間違っていると思う。
だから全力で戦いを挑んだ。
「前に会った時も威勢が良かったよな? アンタの事は強いと思ってるよ。ただ──」
松本はカッと目を開き、空いた手で盾を生成する。
振り下ろした趙馬刀の刃が、彼に触れることはなかった。
「俺に敵う訳ないだろ、若僧が」
盾にめり込んだ刃が数倍の力で突き返される。
修司は数メートル先の地面へ叩き付けられた。
元キーダーの松本秀信は、綾斗と同じバーサーカーだ。
アルガス解放で一度トールになった彼は、ホルスの作った薬で能力を復活させた。
恐らく今まで相当な量を飲んでいるのだろう。
前に海から上がった死体の確認へ行った時に彼と会って、その異常なまでの臭気に気付いた。体内に蓄積された毒が、彼の身体を蝕んでいる。
口元に血の跡が見えて、修司は怪訝に眉を顰めた。
あの時と同じように松本は身体をふらつかせているが、律との戦闘を阻んだ彼に攻撃を仕掛けることが出来ない。
ただそこに立っているだけなのに、圧倒的なレベルの違いを肌で感じ取ってしまったからだ。
「オニイサン、久しぶりだな」
「…………」
松本が自分を覚えていたのは意外だった。逆に律は「誰?」と彼を睨みつけている。
忍とさえ会った事のない彼女が松本に会う機会など、皆無に等しいのかもしれない。
「誰でも良いだろ。これ以上続けたらアンタが死ぬだけだぜ。一回離れなよ」
「助けてなんて言ってないわ! ふざけないで!」
足からの出血に身を屈め、それでも律は修司と戦う意思を見せる。
「俺は構いませんよ。律さんと決着をつける覚悟はできています」
「キーダーが私情で戦うものじゃない」
松本の手刀が素早く律のみぞおちを突く。
ダメージで注意が散漫になっているのか、彼女はクリティカルヒットを喰らってガクリと崩れた。松本が「ふん」と彼女の腹を片腕で拾い上げ、小脇に抱える。
「貴方は律さんを助けに来たんですか?」
「そんな優しい世界じゃねぇんだよ」
横浜の戦いの時、負傷した彼女を助けに来る仲間は1人もいなかった。
「まだ死なれちゃ困るだけだ。こっちはちゃんと戦える人手が足りないんでね」
「だったら俺と、戦って下さい」
「はぁ?」
敵だと認識されていないのだろうか。
律を抱えたまま背を向けようとする松本に向けて、修司は趙馬刀を構える。
無謀だと分かっている。けれどここで去って行く彼の行動に安堵するのはキーダーとして間違っていると思う。
だから全力で戦いを挑んだ。
「前に会った時も威勢が良かったよな? アンタの事は強いと思ってるよ。ただ──」
松本はカッと目を開き、空いた手で盾を生成する。
振り下ろした趙馬刀の刃が、彼に触れることはなかった。
「俺に敵う訳ないだろ、若僧が」
盾にめり込んだ刃が数倍の力で突き返される。
修司は数メートル先の地面へ叩き付けられた。
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