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Episode4 京子

277 譲りたくない気持ち

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 車輪型の光が視界を斜めに横切る。
 触れそうになったその攻撃を背後への跳躍ちょうやくで逃れ、京子は趙馬刀ちょうばとうを構えた。

 地面に突撃した光が、グルグルと土にめり込んで弾ける。
 以前の戦いで、同じ攻撃を趙馬刀の刃で受け止めた事があった。あの時の感触は今も手に残っている。

りつ!」

 迷いなく叫んだ相手を間違える訳ない。
 この攻撃を他に操る人間を見たことが無かった。
 ホルスの幹部だった女、安藤律だ。

 いつこの戦場に入り込んだのかは分からないが、記憶と似たカーディガンとロングスカートに乱れた様子はない。
 夜の色が彼女を引き立てているのか、大きな瞳も風になびく長い髪も一年前と同じで、ずっと地下牢で過ごしていたようには見えなかった。

「どうして戻って来たの?」
「…………」

 律は黙ったまま、感情のない顔を京子に向けている。
 それでも攻撃のタイミングを狙って、お互いに相手の出方を待っている。

「脱獄したなら、そのまま逃げられたんじゃない? 修司しゅうじにでも会いに来たの?」
「…………」
「それとも、彰人あきひとくんって言った方が良かったかな?」

 律と、修司と、彰人と──三人の関係は少々複雑だ。他人の京子が入り込めるものじゃない。
 案の定、律はその名前に苛立って伏し目がちだった瞳を大きく開いた。

「……はぁ?」

 ぽつりと吐いた声を懐かしいと思う。
 全力で戦える相手を前に興奮を隠しきれず、京子は気配を増幅させた。

「やる気なら良いよ。敵か味方かって事以外、理由なんて要らないもんね」

 「そうね」と律は笑んだ。下がっていた口角がゆっくりと上を向いて、生気のなかった瞳に光が宿る。

「私はホルスとしてここに来たの。貴女とまた戦えるなんて、何かの因縁いんねんかもしれないわね」
「そうだね」

 けれど互いに立ち昇らせた力を解き放とうと構えた瞬間、

「律さん!」

 修司の声が戦意をさえぎる。彼が二人の間に飛び込むまで一秒と掛からなかった。

「修司」
「修司……くん」

 かつてホルスへ取り込もうとした律と、彼女の元を離れてキーダーを選んだ修司。二人もまた横浜以来の再会だ。
 京子は律と戦いたかった。けれど、

「京子さん、俺にやらせて下さい!」

 「お願いします」と訴える修司の趙馬刀の刃が、いつも見るよりもだいぶ大きかった。
 ずっと律に会いたかった修司の気持ちをけることが出来ない。
 
「修司は強いよ。けど、慢心まんしんしちゃ駄目だよ? 気を付けて」
「はいっ!」

 緊張の声に修司の肩を叩いて、京子は別の気配がする方向へと地面を蹴った。







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