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Episode4 京子
273 待ってるぜ
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駅に居た田中が、彰人の指示で境界線ギリギリまで戻る。
四方に立ち上る光の柱で囲われたフィールドを見渡す事の出来る小さな広場は、主要道路から入り込んだすぐの所にあった。位置情報をやり取りし、田中はそこで到着するバスを迎える。
「お疲れ様です。さっき連絡した諜報員の田中です」
その肩書き故、アルガスの中でも認知度は極めて低い。降りて来る施設員の中には怪訝な顔を向けるものもいたが、顔馴染みの施設員が説明してすぐに誤解を解くことが出来た。
颯太をリーダーに医療班がテントを張り、施設員たちがサポート体制を整える。数人の護兵も混じっているが、桃也からの戦闘指示は入っていないようだ。
田中がそれぞれに動くメンバーの横で、彰人からの連絡を伝えた。
ホルスが提案したという戦いのルールに、マサは胸元のアスコットタイを結び直して充満する気配の強さに「ふぅ」と息を吐き出した。
観覧車のイルミネーションが綺麗だ。
戦闘でそうなったのか、建物は所々大きく崩れている。闇に隠れた人の数が多いのはハッキリと分かるが、今まさに途絶えようとしている気配が幾つかあるのも確かだった。
「本当にそんなルール、相手さんは守るつもりで居るのかね」
「小僧の心配をするなら、覚悟して行動するんじゃぞ」
マサの横に並んだ大舎卿が、闇の一点を凝視しながら忠告する。その先に強い気配がある。もしそれが味方なら、そんな怖い顔はしないだろう。
「俺も付いて行きますか?」
「要らんよ」
「じゃあ、バラバラにってことで。ご武運を」
大舎卿は「おぅ」と鼻を鳴らし、暗闇の中へと吸い込まれていく。
マサは武者震いを感じながら、中へ踏み込もうとした足を一度その場で踏み鳴らした。
「こりゃ凄ぇな」
キーダーとして実戦に挑むのは初めてだった。ただでさえ能力者としてのブランクがある。
ついさっきまで戦う気は満々だったのに、急に立ち竦んでしまう。
「ここに来たかったんだろ?」
自戒のように呟いた。
佳祐に力を消された時は、絶望のままアルガスを出ようと思った。同期の仲間に励まされてここまで来れたのは、今日この日を迎える為だったのかもしれない。
「けど、俺だけが戻って良い訳ないよな? この戦いに加わらなかったら、絶対に後悔する」
マサはずっと胸に溜めていた想いを虚空に吐き出した。
今頭に浮かんでいる相手は朱羽だ。
彼女は可愛い後輩で、それ以上でもそれ以下でもない。自分はずっとセナが好きで、他の誰かを同じ目で見る余裕なんてこれっぽっちもなかった。その意思は朱羽にもハッキリ伝えたつもりだ。
『可能性のない恋愛に同情は1%も要らない』と、昔やよいの言っていた言葉が今もずっと頭の片隅に残っている。
けれど、朱羽が事務所に戻れない理由の5%くらいは自分だという事も知っている。
彼女があの事務所に居るのは1つの選択だとは思うけれど、今回の戦が今までの比でないからこそ、本部所属のキーダーの責務を果たすべきではないだろうか。
「死人が出るぞ。けど、だからこそ──だろ?」
マサはおもむろに取り出したスマホで、朱羽に電話を掛けた。
「なぁ朱羽、キーダーとして復帰する覚悟があるなら、お前もこっちに来いよ」
「待ってるぜ」と一方的に伝え、マサは晴れ晴れした表情で戦場へ踏み込んだ。
四方に立ち上る光の柱で囲われたフィールドを見渡す事の出来る小さな広場は、主要道路から入り込んだすぐの所にあった。位置情報をやり取りし、田中はそこで到着するバスを迎える。
「お疲れ様です。さっき連絡した諜報員の田中です」
その肩書き故、アルガスの中でも認知度は極めて低い。降りて来る施設員の中には怪訝な顔を向けるものもいたが、顔馴染みの施設員が説明してすぐに誤解を解くことが出来た。
颯太をリーダーに医療班がテントを張り、施設員たちがサポート体制を整える。数人の護兵も混じっているが、桃也からの戦闘指示は入っていないようだ。
田中がそれぞれに動くメンバーの横で、彰人からの連絡を伝えた。
ホルスが提案したという戦いのルールに、マサは胸元のアスコットタイを結び直して充満する気配の強さに「ふぅ」と息を吐き出した。
観覧車のイルミネーションが綺麗だ。
戦闘でそうなったのか、建物は所々大きく崩れている。闇に隠れた人の数が多いのはハッキリと分かるが、今まさに途絶えようとしている気配が幾つかあるのも確かだった。
「本当にそんなルール、相手さんは守るつもりで居るのかね」
「小僧の心配をするなら、覚悟して行動するんじゃぞ」
マサの横に並んだ大舎卿が、闇の一点を凝視しながら忠告する。その先に強い気配がある。もしそれが味方なら、そんな怖い顔はしないだろう。
「俺も付いて行きますか?」
「要らんよ」
「じゃあ、バラバラにってことで。ご武運を」
大舎卿は「おぅ」と鼻を鳴らし、暗闇の中へと吸い込まれていく。
マサは武者震いを感じながら、中へ踏み込もうとした足を一度その場で踏み鳴らした。
「こりゃ凄ぇな」
キーダーとして実戦に挑むのは初めてだった。ただでさえ能力者としてのブランクがある。
ついさっきまで戦う気は満々だったのに、急に立ち竦んでしまう。
「ここに来たかったんだろ?」
自戒のように呟いた。
佳祐に力を消された時は、絶望のままアルガスを出ようと思った。同期の仲間に励まされてここまで来れたのは、今日この日を迎える為だったのかもしれない。
「けど、俺だけが戻って良い訳ないよな? この戦いに加わらなかったら、絶対に後悔する」
マサはずっと胸に溜めていた想いを虚空に吐き出した。
今頭に浮かんでいる相手は朱羽だ。
彼女は可愛い後輩で、それ以上でもそれ以下でもない。自分はずっとセナが好きで、他の誰かを同じ目で見る余裕なんてこれっぽっちもなかった。その意思は朱羽にもハッキリ伝えたつもりだ。
『可能性のない恋愛に同情は1%も要らない』と、昔やよいの言っていた言葉が今もずっと頭の片隅に残っている。
けれど、朱羽が事務所に戻れない理由の5%くらいは自分だという事も知っている。
彼女があの事務所に居るのは1つの選択だとは思うけれど、今回の戦が今までの比でないからこそ、本部所属のキーダーの責務を果たすべきではないだろうか。
「死人が出るぞ。けど、だからこそ──だろ?」
マサはおもむろに取り出したスマホで、朱羽に電話を掛けた。
「なぁ朱羽、キーダーとして復帰する覚悟があるなら、お前もこっちに来いよ」
「待ってるぜ」と一方的に伝え、マサは晴れ晴れした表情で戦場へ踏み込んだ。
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