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Episode4 京子

266 開戦だ

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「俺は別に戦いを長引かせようなんて思ってない」

 そんな前置きを入れて、しのぶはこの戦いにおけるルールを提案する。
 まず戦闘の範囲は、廃墟のショッピングモールがあった一帯のみでという事だ。
 目印のライトが四方に一つずつ光の柱を立ち昇らせている。立体駐車場や隣接の公園まで入っていて、思いのほか広いなと京子は思った。

「線で囲った訳じゃないし大雑把おおざっぱなんだけどね。戦う意思のない人間を巻き込むつもりはないから、外は中立地帯って事で良いよ。救護班を配置しても構わないし、休憩もアリ。ただ外から中への攻撃はナシって事で」
「中にいる奴は戦う意思があるって事なんだな?」
「そう。だから一度出て入り直しもオッケー。けどそれだと終わりが見えなくなりそうだから、勝利条件を決めるよ」

 忍がどんな手を使って人集めをしたのかは分からないが、本当にホルス側は全員その意向なのだろうか。ただこちら側も忖度そんたくしている余裕はない。

 力を持った人間がキーダーに刃向かえば、それは犯罪行為に当たる。
 だから今は、敵か味方か──それだけで良かった。

「まさかアルガスの次期長官が直々に来るとは思わなかったけど、調度良かったよ。俺か君の敗北宣言か死で決まりって事で良い? 俺たち二人だけは範囲外へ出るのはナシって事で」
「分かった」

 桃也とうやは一瞬考えるように眉をひそめたが、忍の案を否定しなかった。

「あと、明日の朝七時がタイムリミットね」

 ルール自体は特に問題ないと思う。
 ただ、忍の言葉が敵味方関係なくどれだけの拘束力こうそくりょくを持っているのかは不明だ。

 明け方までのタイムリミットを一瞬短いと思ったが、時計と数字に置き換えてみるとやたら長く感じてしまう。

 桃也は「頼むな」と肩越しに3人を振り返った。「了解」の返事はバラバラだ。
 忍は「良かった」と満足そうに微笑む。

「ホルスが勝ったら、俺の世界を作らせてもらう。神が与えてくれた力をノーマルの都合で縛るなんておかしいんだよ。能力者はもっと前に出るべきだ」

 ホルスを代表する忍の意思だ。彼の後ろに潜む敵はまだ姿を現さない。
 桃也はカッとなる衝動を抑えて前に出た。

「神様ってのは地球が滅ぶ事を望んでねぇんだよ。もし俺たちの力が本当に神の与えたものだって言うなら、そうじゃない他の奴を守るのが義務なんじゃねぇの?」
「新しい長官は、随分おりこうさんな人なんだね」
「はぁ?」

 神は力を与えた能力者の意思を尊重するのだろうか──ふとそんな事を考えてしまう。

「まぁいいよ。ウチの奴等、もうじっとなんかしてられないみたいだし、そろそろ始めさせて貰うよ」

 忍が呆れたように肩をすくめ、小さな光を空に飛ばす。
 攻撃かと構えたが、そうじゃなかった。
 彼の放った合図で、閃光弾が廃墟の空に打ち上がる。
 
「開戦だ」

 忍の声が低く響く。
 数十の黒い影が暗闇から一斉に姿を現した。





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