562 / 618
Episode4 京子
265 一本取られたね
しおりを挟む
直径十数メートルまで広がった光の球体が、建物をドンとくり抜く。激しい振動に足を踏ん張って、京子たちは目の前で起きた光景に息を呑んだ。
丸く円柱型に切断された壁の内側が剥き出しで、暗い空がその奥に覗いている。
崩れた破片は粉々になって地面に落ち、風に吹かれた残骸が辺りに塵の雨を降らせた。
警戒する京子を庇うように、修司がその背後に立つ。
「行儀の悪い連中ですまないね」
「まだ何もしていませんでしたよ? あの程度なら避ける事だってできたのに」
飄々とする忍から目を逸らし、京子は砂埃を払って暗い穴を見上げた。
建物に沸いた気配は明らかにこちらを狙っていたが、迎撃する余裕は十分にあった。有無を言わさぬ一発を叩き込んだ忍は、「何かあってからじゃ遅いんだよ」と腰に手を当てる。
建物に隠れているだろう幾つもの気配が、シュンと小さくすぼんだのが分かった。
攻撃の寸前で感じた勢いはもうない。幾つかの気配がゼロになった感じも否めない。ここからは良く見えないが、現場は過酷な情況だろう。
「へぇ」と彰人が腕を組んだ。
「だからって仲間や協力者を呆気なく殺すんだ。今の攻撃で三人死んでるよね? それとも自分の命が狙われる心配してるのかな」
「俺を殺したいと思ってる奴は居るだろうね。だからこそ躊躇はしないよ」
そういえば彰人と初めて戦った時も、似た光景を目にした事があった。
彰人もまた容赦なく、顔色一つ変えない。それなのに挑発的なセリフも、ポーカーフェイスのせいで日常会話のように聞こえてしまう。
もし本当に敵の大半が素人の寄せ集めなら、戦いにさえならないかもしれない。ただ、だからこそ予測できない状況もあり得るだろう。
京子がモヤモヤと頭の中を巡らせていると、忍が「よし」と改めて桃也に向き合った。
京子と背丈の変わらない彼からは、桃也の顔はだいぶ上にある。
「俺は別に戦いを長引かせようなんて思ってない。だから勝利条件とルールをある程度こちらで決めさせて貰っても構わないかい?」
「何だよ、言ってみろよ」
「大将がイライラするなよ。気が短い男は嫌われるよ? だから京子と別れたんじゃない?」
「はぁ?」
相手の情報量は計り知れない。
「一本取られたね」と笑う彰人に、桃也は「ふざけんなよ」と鋭い視線を飛ばした。
丸く円柱型に切断された壁の内側が剥き出しで、暗い空がその奥に覗いている。
崩れた破片は粉々になって地面に落ち、風に吹かれた残骸が辺りに塵の雨を降らせた。
警戒する京子を庇うように、修司がその背後に立つ。
「行儀の悪い連中ですまないね」
「まだ何もしていませんでしたよ? あの程度なら避ける事だってできたのに」
飄々とする忍から目を逸らし、京子は砂埃を払って暗い穴を見上げた。
建物に沸いた気配は明らかにこちらを狙っていたが、迎撃する余裕は十分にあった。有無を言わさぬ一発を叩き込んだ忍は、「何かあってからじゃ遅いんだよ」と腰に手を当てる。
建物に隠れているだろう幾つもの気配が、シュンと小さくすぼんだのが分かった。
攻撃の寸前で感じた勢いはもうない。幾つかの気配がゼロになった感じも否めない。ここからは良く見えないが、現場は過酷な情況だろう。
「へぇ」と彰人が腕を組んだ。
「だからって仲間や協力者を呆気なく殺すんだ。今の攻撃で三人死んでるよね? それとも自分の命が狙われる心配してるのかな」
「俺を殺したいと思ってる奴は居るだろうね。だからこそ躊躇はしないよ」
そういえば彰人と初めて戦った時も、似た光景を目にした事があった。
彰人もまた容赦なく、顔色一つ変えない。それなのに挑発的なセリフも、ポーカーフェイスのせいで日常会話のように聞こえてしまう。
もし本当に敵の大半が素人の寄せ集めなら、戦いにさえならないかもしれない。ただ、だからこそ予測できない状況もあり得るだろう。
京子がモヤモヤと頭の中を巡らせていると、忍が「よし」と改めて桃也に向き合った。
京子と背丈の変わらない彼からは、桃也の顔はだいぶ上にある。
「俺は別に戦いを長引かせようなんて思ってない。だから勝利条件とルールをある程度こちらで決めさせて貰っても構わないかい?」
「何だよ、言ってみろよ」
「大将がイライラするなよ。気が短い男は嫌われるよ? だから京子と別れたんじゃない?」
「はぁ?」
相手の情報量は計り知れない。
「一本取られたね」と笑う彰人に、桃也は「ふざけんなよ」と鋭い視線を飛ばした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
デリバリー・デイジー
SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。
これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。
※もちろん、内容は百%フィクションですよ!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる