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Episode4 京子

248 悪い見本

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 技術部を後にした京子は、二階の廊下から聞こえてきた修司しゅうじの声に柱の陰へ身を隠した。
 主張の強めな音は、何か取り込み中らしい。咄嗟とっさの事とは言え気まずい空気を感じながら、二人の会話に耳を澄ます。柱を両手で握り締めて、じっと気配を殺した。

 相手は桃也とうやだ。
 昨日本部に来てすぐに他所よそへ行ってしまったが、ようやく戻って来たらしい。

「出過ぎた真似だって事は分かっています。俺をこの戦いが終わっても、ここに置いて下さい!」

 ストレートな修司の主張は、ついこの間美弦みつるが京子にボヤいていた事と同じだ。バスク上がりの彼が、北陸での訓練を免除して欲しいという直談判じかだんぱんらしい。
 どんな反応が返るのか気になって、京子はぐっと首を伸ばす。
 えた目を修司に向ける桃也は、どこか迷うような顔をしていた。

「悪いな、訓練のスタートを遅らせちまってるのは俺にも責任あるよな」
「桃也さんに謝って貰おうって事じゃないんです。俺は──」
「ずっと染み付いてきた規則を変えるのは、ここで俺が軽く返事できる事じゃねぇんだよ」
「分かってます。それでも──」

 修司は必死に食い付く。
 桃也の意見は上に立つ立場として最もだ。けれど誰かが言い出さなければ、変えようという流れすら起こらない。

「美弦と一緒に居たいって事だろ? 俺と京子の事気にしてんの?」
「────」

 修司はすぐに「はい」とは言わなかった。長引いた沈黙にハッとして、「すみません」と頭を下げる。
 桃也は「だろうな」と笑った。

「俺たちは悪い見本だからな。まぁそれは抜きにしても、本部の手が足りてねぇのは事実なんだよな」
「なら!」
「ならじゃねぇよ。とりあえず今は目の前の事を片付けようぜ。それからだ」
「わ、わかりました」

 気恥ずかしさをにじませて、修司は頭を下げる。

「訓練なんて必要ねぇって周りに示してやれよ。バリバリやれますって。戦えるんだろ?」
「戦えます。あの桃也さん、もしかして今回の選抜──」

 修司と同時に、京子もそれに気付く。「あ」とれた口を慌てて両手で塞いだ。
 ホルスとの戦いで先発隊に選ばれた4人に修司が入っている理由は、そんな事かもしれない。

「俺がお前で行けるって思ったんだよ」
「ありがとうございます!」

 飛びつくように声を上げる修司に、桃也は「頑張ろうな」とねぎらいの言葉を掛ける。
 そんな二人の会話が終わり掛けの空気をまとった時だった。

「それより、京子はいつまでそこで盗み聞きしてんだよ」
「ひえっ」
「ちょっ、桃也さんバラしちゃうんですか?」

 急な矛先ほこさきの転換に、京子は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げる。
 修司の反応を見ると、最初からバレていたのは明確だ。京子の知らない所で『気付かないフリ』をするサインを送り合っていたと考えるのが妥当だろう。
 二人の視線が注目して、京子は赤面しながら姿を現す。

「いつから分かってたの……?」
「最初からだよ。気付かねぇわけないだろ」

 呆れたように笑う桃也に、苦笑する修司。
 京子は「ごめんなさい」と手を合わせた。


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