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Episode4 京子
239 宣戦布告
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これまでの自分にけじめをつける──それがこの戦いの目的だ。
戦いの日を決める事に焦ってはいなかった。
駅で会った京子に宣戦布告を予告して、そこから少し時間を置く事も戦法の一つだと思っている。こちらの戦力が整ってから、百の力で挑みたい。
ただ、寒いのは嫌いだ。年末までの猶予はあったが、それを早める決断をしたのは月が替わった途端に涼しくなった空気のせいだ。
「10月ってこんなに寒かったっけ」
東京駅に程近い商店街の路地裏で、松本と待ち合わせた。
思った以上にビル風が冷たく、忍はバタバタとはためくジャケットの胸元を片手でぎゅっと閉じる。いつもなら気にもならないのに、待ち合わせ時刻までの数分をやたら長く感じて、約束の時間調度に現れた松本に「遅いよ」と不満を漏らした。
「遅れてねぇよ」
「五分前行動は基本だろ?」
「知らねぇよ」
松本はすっかり薬が抜けている様子だ。
忍が右手に丸めて持っていた白い紙をひらりと広げて見せると、松本はつり気味の眉をぐっと寄せて「何だ?」と掴み取った。黒いサインペンで書かれた文字に目を走らせて、「ふぅん」と溜息を一つつく。
「準備はできてるのか?」
「まぁね。俺は恵まれてるんだと思う。味方だって言ってくれる人が、あそこにはまだいるんだよ」
「何も知らない奴らだろうが」
「恩を仇で返そうとは思ってないよ」
アルガスと戦う為に色々と準備してきた。
「俺は理不尽な根拠でアルガスを敵に回してるわけじゃないし、キーダーを滅ぼすのが最終的な目的でもない。俺は能力者の未来とか生き方を変えたいんだ」
「……俺には未だに何が正しいのかなんて分からねぇな」
松本は紙を忍に突き返す。達筆な文字で書かれているのは、アルガス宛の宣戦布告文だ。
決行日と、こちらが勝利した場合の要求が箇条書きにしてある。これをアルガス本部へ送り付ける予定だ。
ひゅうと吹いた風に煽られた紙を、忍はぎゅっと握り締めた。
「俺は、ヒデが居てくれるだけで十分だよ」
「……で、何でその日にしたんだ?」
松本は小さく照れ笑いを零して、話題を逸らす。
「そろそろだなとは思ってたんだけどさ、何でも良いから意味のある日が良いかなってね。偶然この日を見つけたんだよ」
「何の意味だよ?」
「さて、何だろうね」
企むように答えてみたが、松本は全く興味を示さない。
「場所は?」
「敢えて書く事はないよ。ゲームみたいだろ? 京子はきっと見つけてくれるはずだ」
忍は改めて両手で広げた紙に目を落とした。
一通り文字を確認して「完璧」と笑う。
「問題はないよ」
「あの女は来るのか?」
「連絡はしてないけど、来てくれるんじゃないかな。彼女と繋がってる奴も多いしね」
あの女というのは、安藤律の事だ。
ホルスの幹部役員だという肩書はあるが、元から電話連絡ばかりで実際に彼女と会った事はなかった。
今アルガスに収監されている彼女は、元能力者だ。彼女の力を欲しいと思うが、来る確率は半分に満たない気もする。
それでも期待してしまうのは、生前の高橋に言われた言葉を思い出してしまったからだ。
──『もし僕が居なくなったら──』
彼の言葉を思い出して、忍はそっとほくそ笑んだ。
☆
翌朝、アルガス本部のFAXが小さく電子音を鳴らしてその報せを受けた。
ホルスからの宣戦布告は、キーダーの解放と銀環の廃止を要求するものだ。
戦いは二日後の10月7日、場所や時間の記載は一切なかった。
戦いの日を決める事に焦ってはいなかった。
駅で会った京子に宣戦布告を予告して、そこから少し時間を置く事も戦法の一つだと思っている。こちらの戦力が整ってから、百の力で挑みたい。
ただ、寒いのは嫌いだ。年末までの猶予はあったが、それを早める決断をしたのは月が替わった途端に涼しくなった空気のせいだ。
「10月ってこんなに寒かったっけ」
東京駅に程近い商店街の路地裏で、松本と待ち合わせた。
思った以上にビル風が冷たく、忍はバタバタとはためくジャケットの胸元を片手でぎゅっと閉じる。いつもなら気にもならないのに、待ち合わせ時刻までの数分をやたら長く感じて、約束の時間調度に現れた松本に「遅いよ」と不満を漏らした。
「遅れてねぇよ」
「五分前行動は基本だろ?」
「知らねぇよ」
松本はすっかり薬が抜けている様子だ。
忍が右手に丸めて持っていた白い紙をひらりと広げて見せると、松本はつり気味の眉をぐっと寄せて「何だ?」と掴み取った。黒いサインペンで書かれた文字に目を走らせて、「ふぅん」と溜息を一つつく。
「準備はできてるのか?」
「まぁね。俺は恵まれてるんだと思う。味方だって言ってくれる人が、あそこにはまだいるんだよ」
「何も知らない奴らだろうが」
「恩を仇で返そうとは思ってないよ」
アルガスと戦う為に色々と準備してきた。
「俺は理不尽な根拠でアルガスを敵に回してるわけじゃないし、キーダーを滅ぼすのが最終的な目的でもない。俺は能力者の未来とか生き方を変えたいんだ」
「……俺には未だに何が正しいのかなんて分からねぇな」
松本は紙を忍に突き返す。達筆な文字で書かれているのは、アルガス宛の宣戦布告文だ。
決行日と、こちらが勝利した場合の要求が箇条書きにしてある。これをアルガス本部へ送り付ける予定だ。
ひゅうと吹いた風に煽られた紙を、忍はぎゅっと握り締めた。
「俺は、ヒデが居てくれるだけで十分だよ」
「……で、何でその日にしたんだ?」
松本は小さく照れ笑いを零して、話題を逸らす。
「そろそろだなとは思ってたんだけどさ、何でも良いから意味のある日が良いかなってね。偶然この日を見つけたんだよ」
「何の意味だよ?」
「さて、何だろうね」
企むように答えてみたが、松本は全く興味を示さない。
「場所は?」
「敢えて書く事はないよ。ゲームみたいだろ? 京子はきっと見つけてくれるはずだ」
忍は改めて両手で広げた紙に目を落とした。
一通り文字を確認して「完璧」と笑う。
「問題はないよ」
「あの女は来るのか?」
「連絡はしてないけど、来てくれるんじゃないかな。彼女と繋がってる奴も多いしね」
あの女というのは、安藤律の事だ。
ホルスの幹部役員だという肩書はあるが、元から電話連絡ばかりで実際に彼女と会った事はなかった。
今アルガスに収監されている彼女は、元能力者だ。彼女の力を欲しいと思うが、来る確率は半分に満たない気もする。
それでも期待してしまうのは、生前の高橋に言われた言葉を思い出してしまったからだ。
──『もし僕が居なくなったら──』
彼の言葉を思い出して、忍はそっとほくそ笑んだ。
☆
翌朝、アルガス本部のFAXが小さく電子音を鳴らしてその報せを受けた。
ホルスからの宣戦布告は、キーダーの解放と銀環の廃止を要求するものだ。
戦いは二日後の10月7日、場所や時間の記載は一切なかった。
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