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Episode4 京子
233 地下牢の彼女
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鉄格子の向こうに、安藤律が居る。
壁にある机に向いて座る彼女は、綾斗の脳にインプットしてある記憶よりも若干若く見えた。横浜での戦いで出口の警護を任されていた事もあり、綾斗は直接話をしたことが無い。
アルガスに捕らえられた彼女を何度か遠目に見ている記憶よりも、資料に載った写真の印象の方が強かった。ただ長い髪に艶が無くなっているのは、ここに長く居るせいだろうか。
白い長袖のシャツに土色のスカート。質素な服は、彼女の魅力を逆に引き立ててしまっているように見えた。
大きく開いた二重の丸い目や、小さなホクロの位置に耳の形──美弦が良く騒いでいる胸や直接見たあれこれの情報を数秒で更新していく。
「久しぶりだね、元気だった?」
取りこぼしがないようにと律を見る綾斗とは対照的に、彰人はまるで入院する友人にでも会いに来た態度で気さくに声を掛けた。
律は無表情で彰人を見つめていたが、数秒の沈黙を挟んで何かを諦めたように力を緩める。
「元気じゃないわ。何しに来たのよ」
キーダー二人の左手首に視線を走らせる彼女に、彰人が苦笑した。銀環代わりの時計をそっと撫で、目の前の鉄格子を目の高さで握り締める。
「そう言わないで。君がここを抜け出すんじゃないかと思って様子を見に来たんだよ」
「今更? 私の事なんて忘れてると思ってたわ」
「まさか。君の事を忘れた日なんてないよ」
淡々とした彰人の答えに、彼女の心を揺らす音は含まれない。
律は彼を睨むように黙って、短く溜息を漏らした。
「ならキーダー様が直々に来る理由は何? 外は私が抜け出すような事態にでもなっているのかしら」
左の壁を向いて座っていた身体をゆっくりとこちらへ向けて、律は試すように問う。
キーダーとホルスが戦いを控えている事を知られるのはマズいだろう──綾斗は平静を装うが、
「勘が良いね、その通りだよ」
「彰人さん!」
平然と答える彰人に、思わず声が出た。本人は「いいから」と緩い笑顔を鉄格子に近付ける。
「隠そうとしたって、いずれバレるよ。それより、ここでは随分大人しいみたいだね。部下が口を割らないんだって嘆いていたよ。今の時代、拷問にかけるわけにもいかないってね」
「返事する理由もなければ、答える事実もないだけよ。私はホルスの上層部の事なんて殆ど知らないもの」
修司の話では、律は忍に会ったことが無いという。それが事実かどうかは怪しいところだが、ホルスとの戦いに彼女が出る状況などあり得るのだろうか。
「そうだね。けど、そういう態度取ってたら、こっちの警戒は厚くなるだけだよ」
「……面倒」
ボソリと呟いた声が、狭い牢に響いた。
「ねぇ律、もしホルスとキーダーが戦いになったら、君はその場所に戻ろうと思う?」
「…………」
ストレートな質問だ。
挑発的な彰人を更に睨みつけ、律は唇をぎゅっと結んだ。
壁にある机に向いて座る彼女は、綾斗の脳にインプットしてある記憶よりも若干若く見えた。横浜での戦いで出口の警護を任されていた事もあり、綾斗は直接話をしたことが無い。
アルガスに捕らえられた彼女を何度か遠目に見ている記憶よりも、資料に載った写真の印象の方が強かった。ただ長い髪に艶が無くなっているのは、ここに長く居るせいだろうか。
白い長袖のシャツに土色のスカート。質素な服は、彼女の魅力を逆に引き立ててしまっているように見えた。
大きく開いた二重の丸い目や、小さなホクロの位置に耳の形──美弦が良く騒いでいる胸や直接見たあれこれの情報を数秒で更新していく。
「久しぶりだね、元気だった?」
取りこぼしがないようにと律を見る綾斗とは対照的に、彰人はまるで入院する友人にでも会いに来た態度で気さくに声を掛けた。
律は無表情で彰人を見つめていたが、数秒の沈黙を挟んで何かを諦めたように力を緩める。
「元気じゃないわ。何しに来たのよ」
キーダー二人の左手首に視線を走らせる彼女に、彰人が苦笑した。銀環代わりの時計をそっと撫で、目の前の鉄格子を目の高さで握り締める。
「そう言わないで。君がここを抜け出すんじゃないかと思って様子を見に来たんだよ」
「今更? 私の事なんて忘れてると思ってたわ」
「まさか。君の事を忘れた日なんてないよ」
淡々とした彰人の答えに、彼女の心を揺らす音は含まれない。
律は彼を睨むように黙って、短く溜息を漏らした。
「ならキーダー様が直々に来る理由は何? 外は私が抜け出すような事態にでもなっているのかしら」
左の壁を向いて座っていた身体をゆっくりとこちらへ向けて、律は試すように問う。
キーダーとホルスが戦いを控えている事を知られるのはマズいだろう──綾斗は平静を装うが、
「勘が良いね、その通りだよ」
「彰人さん!」
平然と答える彰人に、思わず声が出た。本人は「いいから」と緩い笑顔を鉄格子に近付ける。
「隠そうとしたって、いずれバレるよ。それより、ここでは随分大人しいみたいだね。部下が口を割らないんだって嘆いていたよ。今の時代、拷問にかけるわけにもいかないってね」
「返事する理由もなければ、答える事実もないだけよ。私はホルスの上層部の事なんて殆ど知らないもの」
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「そうだね。けど、そういう態度取ってたら、こっちの警戒は厚くなるだけだよ」
「……面倒」
ボソリと呟いた声が、狭い牢に響いた。
「ねぇ律、もしホルスとキーダーが戦いになったら、君はその場所に戻ろうと思う?」
「…………」
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