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Episode4 京子

232 たまたまだよ

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 京子と二人で彼女のマンションを出て、アルガスの入口で別れた。
 昨日居酒屋に行ったままの服を着替えて、電車で東京駅へ向かう。待ち合わせの改札で落ち合って、綾斗あやと彰人あきひとと新幹線に乗り込んだ。
 朝のラッシュを過ぎた指定席車両は空席も目立つ。

「まさか目的地がここだとは、ちょっと驚きました」

 切符の文字をじっと眺め、綾斗はそれをパチリと手帳に挟んだ。

「孤島にでも行くと思った?」
「はい。あとは山奥とか……イメージですけど」

 苦笑する綾斗の横で、通路側の席に座った彰人が買ってきたコーヒーを飲みながらにっこりと笑う。

「島流しみたいなイメージあるもんね。けど別に僕がそうして欲しいって言ったわけでも無くて、本当にたまたまだよ」
「たまたまですか。けど、周りをあざむくって意味では都合が良いのかもしれませんね」

 会ってすぐ告げられた行き先に、綾斗は驚愕した。行き先が彰人や京子の故郷である『郡山こおりやま』だったからだ。
 横浜の戦いで負傷した律は、郡山の病院に運ばれたのだという。京子が東京で入院していた病院の系列で、完治後もそのまま同じ施設に収監されているらしい。表向きは普通の医療施設だが、アルガスの息が深層部まで吹きかかっているようだ。

 1時間半ほどの移動はあっという間だった。東京では生温いと思った空気が秋を漂わせる。
 先に昼をと言われて、改札側の蕎麦を食べた。そこから駅を出てタクシーに乗り込む。
 京子の実家とは逆方向へ15分ほど走った所で、目的地に辿り着いた。駅からはそう離れていない国道沿いだというのに、風景はすっかり緑に覆われてしまう。山もそう遠くない位置に連なっているのが見えた。

 病院は幾つかの棟に別れていて、道路側に建つ大きな建物の前でタクシーを降りる。

「ここにりつが居るんですか?」
「そうだよ。病院って言ったでしょ?」
「まぁ、そうですね……」

 律は元能力者トールだ。気配を感じないのは勿論だし、他にバスクが居る様子もない。
 ただ普段通りに往来する一般人に違和感がありすぎて、戸惑ってしまう。アルガスの空気は微塵みじんもなく、犯罪者が収監されている場所にはとても見えなかった。

「こっちだよ」と先を歩く彰人は、正面玄関を潜る。
 今律が居るのは、アルガス本部の地下牢に似た場所だという。表向きの地下室は検査フロアになっていて、MRI・CTなど表示が並んでいた。健康診断の客なのか、やたら人が多い。

 そんな風景を横目に細い廊下へ入ると、ザワついていた音が少しずつ遠退いていった。古い空調の音がブウンと耳に届いた所で、彰人が突き当りから二つ目の扉の前で足を止める。

「律は広範囲の空間隔離くうかんかくりを使えた能力者だ。教えて貰って覚えられるものじゃないと思うけど、これがきっかけで綾斗くんが何かを掴んでくれたらいいと思うよ」
「俺に空間隔離が出来ると思ってるんですか?」

 防御の技を覚えられたらと思って彰人に相談したのは事実だ。
 けれど特殊能力である空間隔離を自分がやろうなんて想像もしていなかった。

「五分五分かな。特殊能力なんて、ゲームでいうパラメータの問題でしょ? どの能力がひいでているか。バーサーカーの君になら、何だってできる可能性はあるんじゃないかな」
「──そうなれば良いんですけどね」

 特殊能力への解釈かいしゃくについては半信半疑だが、もしもがあるならと期待してしまう。
 ここの所ずっと落ち着かなかった気持ちが、スッと整った気がした。

「入ろっか」

 彰人がすぐ横の扉を開くと、中には一機のエレベーターがあって、体格のいい男が二人を敬礼で迎えた。護兵ごへいの制服を着た男だ。途端にアルガスの施設だと頭が納得する。
 男はエレベーターを呼んで「どうぞ」と中へ促した。

「ありがとう。ここはお願いします」

 面会時間は限られている。一つだけのボタンを押して、耳が詰まる感じを覚えながら更に深い地下へ下りる。
 そこから3人の護兵のチェックと二つの扉を潜った先に、鉄格子があった。その向こうで、一人の女が壁際の机に座っているのが見える。

「律」

 彰人の声に振り向いた女は、強い意志を持ってこちらを振り向く。
 安藤律だ。




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